俺、生まれ変わったら【消しゴム】になっていました…
……俺は、消しゴム。
ドンキの文具コーナーで一番大きいサイズの、良く消える事に定評があるプラスチック消しゴムだ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、貧乏に苦労した男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、消しゴムになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺はちびた消しゴムしか使った経験がなく、思いっきり贅沢に鉛筆の線を消してやりたかったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…米粒ほどの大きさの消しゴムで必死になって消していたシーンばかりが思い出される。
書き間違いをしないよう慎重に文字を書いた事と、大量に消すことを躊躇しておかしな筆記のまま提出せざるを得なかった悔しさだけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――へへーん!!俺の勝ち!!
俺を購入したのは、休み時間に消しゴム落としに熱中する、能天気な子供だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
汚い文字、落書きだらけのノート、間違いだらけの答案、消さなければいけないものを消すことなく過ごすことが…我慢ならなかった。
消せば間違いは消えて白い部分があらわれるのに、鉛筆でゴリゴリと真っ黒に塗りつぶして良しとする…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――いい加減にしなさい!成績が落ちるたびにゲームは捨てていくからね?!没収!!
泣きながら学習机に向かう…中学生。
渡されたドリルとプリントをやりながら…書き方が悪い、書き直せと怒られている。
俺は願った。
「これからはまじめに勉強に取り組んで、キレイなノート作りを習得して…将来に役立てろよ」
そう願ったのには、理由があった。
お調子者ではあるが、この中学生は地頭が良くて将来が有望だったのだ。
遊びたい盛りの少年は毎日山のように課題を渡され、自由時間を与えられず…追い込まれて行った。
取り上げられたゲーム機を返してもらう事だけを願い、ひたすら問題を解いていく姿が、心をえぐり続ける。
……結果はすでに出している、親と交渉して息抜きの時間を得るんだ。
―――……やってもやっても、努力が足りないと言われる。キリが、ない…。
中学生は…親の行き過ぎた教育方針を受け止め続けて、心を病んだ。
機械のように難しい問題を解き続け、表情を失った。
やがて熱意も興味も執着も失い、親の言うままに、ゲーム類をすべて…捨てた。
俺の願いも…むなしく。
中学生は寝る時間を惜しんで勉強する事が日常化し、常に知識を蓄えていないと不安を覚えるようになった。
難しい問題に遭遇した時、無言で鉛筆の先で俺をブスブスと刺しながら考えるので、俺は穴だらけの黒ずんだ塊へと、ゴムの欠片へと…変容していった。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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