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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

三日月

作者: 壱原 一

階段を上り切った踊り場の正面に窓がある。


祖父母の代から住んでいる古く小さな家なので、階段は急で狭め。全て焦げ茶の薄い合板。天井の頼りない電球は、点けてもなんだか薄暗く、陰気で閉塞感が凄い。


そこに開放を齎すのが先の踊り場の窓である。


天井付近を見上げる位置に、木枠の丸い窓がある。嵌め殺しで開け閉めはできないが、ひらけた中庭に面していて、昼は程良く日が当たり、今の時節の夜分にはちょうど中央に月が据わる。


冴え冴え光る銀の月が、流れゆく雲をひんやり照らし、床に繊細な影を落とす。


急で狭く薄暗い階段を、踏み外さぬよう俯いて上り、上り切った床に月光が差し、踊り場に着いて顔を上げると、胸の透く麗しい景観を振り仰げる。


野暮ったい焦げ茶の床や壁も、この時ばかりは光が映えて良い。横文字で格好良く決めるなら、ピクチャーウィンドウと言うやつだ。


ちょっと疲れ気味な時、むしゃくしゃする事があった時、取り敢えずひとっ風呂浴びて窮屈な階段を上がり切れば、丸窓の夜景に迎えられ心地良く癒してもらえる。


そんなお気に入りの窓だが、我が家のお姫様は今ひとつお気に召さない。どうも昼間は良いとして、夜に白々のぞく月は迫力がありすぎて怖いらしい。


まあこの年頃の子供は、感受性の優れたること稀代の芸術家の如し。健やかなお休みのため2階の寝室へお運びいただく際は、いかに趣に欠けようとびかびか光るおもちゃでつって、やれやれ寝たかと1階へ戻る。


今夜も姫を夢の世界へお見送りし、階下で一時の休息を楽しみ、来る明日への英気を養うべく寝室を目指す。


パチッとスイッチを押して、期待の3割の光量を受け、足を踏み外さぬよう俯いて急な階段を上がる。


そうは言っても暗くない?と怪訝に電球を見上げたところ、流石に限界が来ていたようでなめらかに消え入ってしまった。


丸窓から差し込む月明りが、ふうっと雲に隔てられ、電球から視線を移すと綺麗な三日月が見えた。


昨夜、満月だったのに。


しげしげ見る間に雲が流れ、ぷちっと小さな三日月が増えて白く濁った両目だと気付く。


ほぼ満月の前面に丸窓を覗く顔があり、ゼリー質の白眼が笑みの三日月を描いている。


びくりと体が仰け反って、踏板から踵が滑り落ちた。


幸いドタンと受け身を取れて、娘が起きた気配もない。


途端、不審者に憤慨して丸窓を睨み息が止まる。


そこから覗ける訳がない。2階天井付近の嵌め殺しの窓なのだ。


ずるんと顔が入ってくる。



終.

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