犬と馬鹿騒ぎして外ではしゃいで遊んでたらそれを美少女クラスメイトに見られてた俺はどうすればいいんだ
「行くぞ、だいず、青春や! これが俺たちの物語や!」
「わん!」
早朝、家を出て早々に俺はだいずという飼い犬と公園に向かって走っていく。
俺がだいずを飼い始めたのは4、5年前くらいのこと。
ペットショップに行った時に目があってしまったのだ。子犬のだいずに。
うるうるとした瞳に俺は惹かれてしまった。可愛い、飼いたいって思ったわけだ。
そして当時の俺の全財産と親からもらったお金を使い、子犬を購入した。
この犬が今のだいずである。だいずは人懐っこくて可愛らしかった。
故に無責任に俺は買ってしまった。次第に世話を親に任せるようになり、楽しみにしていた散歩も親任せ。
「あんた、だいずの世話はどうしたの?」
「友達とゲームやってるから、あとで」
「はあ、動物を飼うってね、その動物の人生を預かることと同じなの、わかる?」
「うん、あとでー」
「はあ」
正直面倒くさかった。それよりゲームをしていた方が楽しい。
でもそんなある日、ふと目が覚めた。
「うわー、また負けたー」
ゴロンと後ろに倒れると、だいずが俺の顔を覗き込んだ。
「くうん」
何だか、どこか哀しげで寂しそうで遊んで欲しそうな表情。
それを見て胸が締め付けられた。そしてふと我に帰った。
......あっ俺は今まで何をやっていたんだろう、だいずは最初から俺と遊んで欲しいんじゃないのか?
こんなに可愛らしい存在がいるのにそれを放っておいてゲーム。
そして俺は思い立った。
だいずに合わせて遊ぶんじゃなくて、俺がだいずと遊べばいいんだ!
正直意味がわからない。でもそういう風に思い立った。
そこからの行動は早かった。
「だいず、散歩行くぞ!」
「わん!」
俺はボールを持ち、近くの公園へ向かった。
ひたすらに無我夢中でだいずと遊んだ。
めちゃくちゃ楽しかった。
そこから毎日のようにそうして散歩した。
毎日が楽しい。
時には海岸へ、時には川遊びへ。
毎日青春生活だ。家でもゲームを無視して寝るまでだいずと遊ぶ。寝る時もだいずと一緒。
高校に入って忙しくなり、最近は遊ぶ機会は減ってしまったが、それでも朝練がない日の朝の散歩は欠かしていない。
だいずも......楽しそうだ。
まあクラスではこんなはしゃいでないで教室の隅でひっそりとしているようなやつなのだが。
「だいず、競走だ!」
俺はボールを遠くに投げて、だいずと一緒に走り出す。
もちろんだいずの方が速いが俺も負けてられない。
「あの朝日に向かって、進むんや!」
「わん!」
だいずはボールを先に取り、俺の元に戻ってきた。
「おー、やっぱ速いな、よしよしよし」
俺はだいずを撫でる。んー、幸せ。
「わん! わん!」
「ん、何やもう一回か」
俺はもう一度軽くボールを投げた。
やはりだいずはすぐに戻ってくる。
「よっしゃ、じゃあ公園ちょっとぐるって回ろかー」
「わん!」
この公園は比較的広く、自然が多いので散歩にはベストな場所だ。
「あっだいず、はとや、はとや! 鶏肉やー!」
「わん!」
と、いつものように馬鹿騒ぎしていると、目の前から歩いてくる1人の人物。
......ん、見間違えか?
俺は驚き、目を何度かパチパチとさせた。
その人物は帽子をかぶっているとはいえ、艶やかな髪に澄んでいる瞳、すべすべと滑らかな肌......やはり隠しきれていない輝きがある。
......ん、つまり、馬鹿騒ぎしてるとこ見られたってこと?
「あっえーっと、篠崎 綾人くん、だったよね? おはよう」
「ななな、何でここに雫さんが!?」
しまった、絶対見られた見られた、恥ずかしいとこ見られたってええ!
俺は脳内で半パニックになっていた。
クラスではなるべく目立たないような人。でも私生活だとめちゃめちゃはしゃぐ。
絶対変人だって思われてるって!
男子ならまだいいが、女子なら尚更である。
それに加えて相手は、茅森 雫、クラスのアイドル的存在で俺とは正反対の純光のような存在である。
「私も散歩に来たって感じかな、あっ犬触ってもいい?」
「えっあっ、別にいいけど」
だいずは俺からしたら聖女様とも言える人に撫でられている。
いいな、俺も撫でられたい......って何考えてたんだ、俺。
ドン引きされるかと思えば、意外にそうではなかった。
むしろ近づいて俺の犬を撫でている。
その様子に少し安堵した。
「可愛いねー、飼い主に大事にしてもらってるんだね」
「わん!」
何というか、この光景に萌えというものを感じる。
「犬のことになると綾人くん明るくなるんだね、意外というか、いつも教室だと隅の方にいるキャラでしょ?」
「ぐふっ......」
的を得たことを言われ、俺は精神的ダメージを負った。
「私も犬飼ってるんだ、だからその偵察に来た感じだけど......この公園いいね、私もここで散歩しようかな」
「あれ、雫も犬飼ってるのか?」
「うん、綾人くんと同じ柴犬飼ってるよ」
これまた意外である。どうりで犬を触る手つきが慣れているなと思ったわけだ。
美少女と犬......うん、可愛いね。
俺は時計に目を落とした。するともう帰らなければいけない時間である。
「あっそろそろ時間だ、だいず、帰るぞ」
「わん!」
「じゃあまた学校でな」
「うん、また」
別に学校で会うわけではないのだが、一応そう言っておいた。
それにしても雫が犬を飼っていたなんて意外である。
俺が疎いだけかもしれんが、少なくとも学校ではそんな噂聞いたことがない。
***
昼休み、俺はいつも通りにスマホをいじり、犬の動画を見たり、昔のだいずの写真を見て時間を潰す。
俺に話しかけるような生徒はいない。
陰オーラの格が違うのだ、ふっ......2つの意味で痛いよお。
とまあいつも通りの日常を過ごしていると、目の前の空いている席に座った1人の女子生徒がいた。
「何見てるの?」
と、俺のスマホを覗き込む。
声の正体は朝出会ったクラスのアイドルこと雫だった。
クラスの視線が一気に集まる。
そりゃそうだろう。俺と彼女は陰と陽で対極。
「やっぱり犬好きなんだね、犬いいよね、何というか愛おしい」
そう言われ、俺の愛犬心は強くくすぐられた。
「わかる、全てにおいて可愛い、くうん、ってなって拗ねてる時も可愛い、一緒の布団に寝る時は幸せの時間ですよ」
「だよねー」
何というか、ずっと俺とは程遠い存在だと思っていた。
でもなんか話しやすい?
それから昼休みが終わるまでずっと話し込んでいた。
そして近くで話してみて改めて実感させられたが彼女は可愛い。
クラスの男子からの妬みの視線が痛いし、何気ない仕草なのに普通の男子を惚れさせるには十分なものがあるのだ。
まあそんなことよりも彼女と話すのは普通に楽しかった。
***
次の日の朝、俺はルーティン通り公園に向かった。
......あくまでも落ち着いて。
だいずがはしゃがない俺を不思議そうに見つめていたが、いつも通り遊んではいるので大丈夫だろう。
流石にドン引きされなかったとはいえ、もうあんな姿見られたくない。
そんなことを考えながら公園を歩いていると、また彼女がいた。
今度は犬を連れている。
あっぶねー、暴れなくてよかった。
「おはよう、綾人くん、私も今日からこの公園で散歩することにしたよ、と言ってもたまにだけどね、ちょっと遠いから」
「ん、そうなのか」
これからは、はしゃぐタイミングを十分に見極めなければならない。
そもそもはしゃがなければいいのだが。
朝じゃなくて夜にも散歩行ってはしゃげばいいのか。
あーでも近所迷惑だし夜の公園怖いしな。
まあとにかく雫がいるのは嬉しい。
「名前なんて言うんだ?」
「もみじ、そっちは?」
「だいずだ」
「だいずか、いいセンスだねー」
ちなみにだいずの方はと言うと、めちゃくちゃもみじを警戒している、と言うか怯えている。
人懐っこいが犬懐っこくはない。
人見知りならぬ犬見知りである。
一方もみじの方は同胞がいて嬉しいのかどんどん近づいていっている。
それをみてゆっくりと下がるだいず。
それを見て思わず両者笑ってしまった。
非常に微笑ましい。
***
俺たちは公園のベンチに座った。
もみじとだいずはボールを転がして遊んでいる。
すっかり打ち解けたようだ。
「犬可愛いのにクラスで飼ってる人少ないからさ、まさか同志がいるとは......」
「それはこっちのセリフだ、雫が犬飼ってるなんて思ってもいなかったぞ」
「やっぱりそう? よく言われる」
そう言って微笑む彼女の笑顔はまさしく聖女。
油断をしていたらこちらのハートが射抜かれてしまう。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を体現しているのはまさしく彼女だろう。
「だいず、主はナンバー?」
「わん!」
と、お得意のネタを披露すると雫は笑った。
「ぷはっ、何それ、面白いね、芸人やったら売れるんじゃない?」
***
「それじゃあ帰ろっか、もみじ」
「わん!」
帰る頃にはすっかりと打ち解けており、何か2人は別れを惜しんでいた。
「あっそうだ」
彼女はそう言い、ポケットからスマホを取り出して差し出した。
「これ、私の連絡先、よかったら交換しようよ」
「え、いいのか?」
「うん、犬好きに悪い人はいなし、これでいつでも話せるでしょ?」
そう言われて少しときめいてしまう。今まで友達という友達がいなかったのだ。
しかも初めての友達が雫。これ以上ない喜びである。
雫とは話していて楽しい。
連絡先を交換して喜びを噛み締めながらその日は帰った。