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修学旅行準備

 七星の捜索に関しての下調べは進んでいた。

 外部ネットに接続していて、かつ、パスワード管理の甘い監視カメラについてはあらかたピックアップ済みで、過去映像やSNSに上がった映像に対しても、AIでの解析が進んでいた。

 それらの情報から考えると、七星が京都で暮らしていることは間違いなさそうだ。

 ギャルの格好は捨て、今はメガネをかけ、後ろ髪を軽く束ねたスタイルにしたようだ。

 行動している地域も、大まかに分かって来ていた。

「ちょっと住山?」

 縦ロールの髪、渚鶴院(しょかくいん)の声だった。

 学校であることを忘れていた。

「パソコン見てないで、こっちの内容を見て、意見ちょうだい」

 俺はノートPCを閉じると、立ち上がった。

 渚鶴院の横にいる、高橋が意見を言った。

「私は、この内容ならもっと市街を歩くようにした方がいいんじゃないかな」

「……いっても『ひかり』は仕事で来れないんでしょ、修学旅行」

「そうだけど、今回仕事が京都だから。合間合間に参加するつもりよ」

 二人を見ないように俺は机に広げた資料を見た。

 七星の居場所は市街だ。中心街なのだ。

「市街にあるこことか、こことか、そこら辺を歩いて回った方がいいんじゃないかな?」

 渚鶴院が、急に縦ロールを揺らすと、俺の方を振り返る。

「そお? 私もそうかなって」

 小さい声で高橋が言う。

「その意見は私が先に言ったじゃない」

 渚鶴院は無視して俺に言う。

「けど、距離あるわよ、体、大丈夫?」

「歩くのは大丈夫だよ」

「ほんと? 昨日みたいなことになったら泣いちゃうから」

 急に胸の前で祈るように手を合わせるから、班の連中が一斉に俺を見た。

 同じ班の中島(なかじま)が言う。

「なんかあったの?」

 何か嫌な感じがする。

「いや、発作が起きそうだっただけ」

「私がイケナイの」

「いや、関係ないから」

 俺は懸命に否定する。本当に彼女が何かしたことがきっかけではないのだ。

 自分の体のことは、自分が一番よくわかっている。

「ごめんなさい」

 俯いて、そう言った。

 すっかり昨日と同じような状況になっていた。

 俺が彼女に何かしてしまったような、妙な雰囲気。

「ちょっと待って、謝られると変な感じになっちゃうから」

 渚鶴院が、手で涙を拭うような仕草をする。

「本当に、ごめんなさい」

 中島と吉村(よしむら)が、渚鶴院の肩や背中に手を置いて、落ち着かせようとしている。

 学校ではあまり表情を変えない高橋が、珍しく怖い顔をして睨んでいた。

 俺は焦った。

 これはしっかり高橋に説明しないと……

 泣いてしまって中断はしたが、俺たちの班はなるべく市街を回るようなルートを取ることに決まった。

 ふとスマフォを見ると、高橋からメッセージが入っていた。

『昨日、彼女に何したの?』

 俺はあったことをありのまま書き込んだ。

 勝手に近づいてきて、無断でメガネを取られたこと。

 理由は分からないが、急に体に不調を感じたこと。

 薬を使って落ち着いた時には、彼女が勝手に泣いていたこと。

『メガネとったところを見られたんだ』

 事実を客観的に見れば、伝わるはずだ。

 メガネは無断で取られたんだし、俺は悪くない。

『わかった』

 高橋の『わかった』が何を言っているのかは分からなかった。

 だが、それきり書き込みがないので俺は放っておくことにした。

 修学旅行まで後一週間。

 学校では修学旅行について、放課後は高橋と七星の捜索について、計画を立てる日々が続いた。

 そんな中、ネカフェで高橋と京都の状況を調べている時だった。

 監視カメラ映像などで調べていく中で、ある映像が見つかった。

 七星と思われる人物が、スクーターに乗っている映像だった。

 大きなスーツケースを後部に括りつけていて、発進時に前輪が上がりそうになっている。

 相当重い荷物を積んでいるか、アクセルの加減が分からないか、どちらかだ。

「このスクーターのナンバーわかる?」

「ああ、画像は粗いけど読み取れるよ」

 俺は読み取ったナンバーを高橋に送った。

 その日はそれまでだった。

 数日後、学校で修学旅行の打ち合わせがあった時だった。

 行かないはずの高橋が言った。

「二日目の判別行動で、このお寺に行くことを提案します」

「なんで実際には参加しない高橋さんがそんなこと言うの」

 渚鶴院が抵抗するようにそう言った。

 俺は周りに気づかれないよう、PCでメッセージアプリを開いた。

 高橋からメッセージが入っていた。

『七星が乗っていたスクーターは相掌(そうしょう)寺の住職のものだった』

 続けてメッセージがあった。

『盗難届けを出した数時間後に見つかったらしい』

『話を聞けるように、修学旅行の二日目にアポをとっておくから、一緒に行きましょう』

 改めて二日目の判別行動予定を見てみる。

 高橋が言っている寺の近くに、スクーターを盗まれた坊さんの寺もある。

「同じ班なんだから、実際に一緒に行けなくても口出していいんじゃないかな」

 と俺は言った。

 中島が返す。

「じゃあ、この寺にいく目的は?」

「それは……」

 俺が言いあぐねていると、吉村がポンと手を叩いた。

「待って、この寺って俺たちのいくこの寺と同年代にできてるんだよね。だけどさ、ほら、ちょっと外観を見ただけでも作りが違ってる。なんでこんな外観に違いが出来たか。これは一緒に調べると比較になって面白いよ」

「わかった。じゃあ、二日目の班行動にこのお寺をみることにしましょう」

 渚鶴院が言うと、中島がパパッと経路をスマフォに入れて計算する。

「ルートや時間的には、これを入れても余裕はあるね」

「……」

 俺はほっと肩を撫で下ろした。




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