取引の行方
顔を出した俺に、銃を向けてくるので、再び木に隠れた。
「出てこい。こっちは急いでいるんだ」
俺は息を吸った。
すぐに撃ちはしない。銃を撃ったら余計な罪が増え、足がつきやすくなるだけだ。
「こっちには七億がある」
七億円。
七億円の事は『七星と自分達しか知らない情報』だと相手は思っているはずだ。
だからこの『七億』という単語で、かなり動揺するだろう。
相手は特殊詐欺のグループだった。
様々な相手を、あの手この手で欺いて、金を振り込ませる犯罪だ。
七星はブラックバイトと知らず、仲間に入ってしまった。
七星は、グループ内で活動しているうち、彼らの信頼を得た。
そして、振り込まれた現金を下ろしたり、まとめて銀行から札束を受け取る役割を担うようになり、札束を触る機会が多くなった。
綺麗にまとめられた札束は、連中の根城としているマンションの収納に納められていた。
次第に七星に、欲が出た。
七星は、現金を気が付かれないように自分のモノとする計画を立てた。
印刷したニセ札とすり替え、本物の札束を持って逃げる。
その計画は見事に成功し、約一年前から、京都の生活が始まったのだ。
俺は昨日、七星からこの内容を聞いていた。
被害者への罪の意識から、七億はほぼ手をつけず、スーツケースに入れたまま隠していることも、だ。
きっと連中は七星自身が必要なのではなく『持ち去った現金が目的のはずだ』と考えた。
だが、これで『七星が現金のことを喋ってしまった』と思われれば七星の交換価値がなくなって、逆に、余計な情報を知っている彼女は殺される可能性が出てくる。
「なんだって」
「俺はスーツケースを丸ごとジュラルミンケースに入れ、隠し場所を変えた。その際、彼女にはジュラルミンケースの暗証番号を設定してもらった。お互い、それぞれの情報は知らない」
七星が、目を剥いて俺を睨む。
そして小さい声で言った。
「(そんなハッタリじゃ解決しないよ)」
俺は向こうに聞こえないように「シー」と、声をかぶせた。
「そうか、ならこの女は意味がないな。今すぐ撃ち殺してやる」
俺は隠れている場所から一歩動いて、体を出す。
そして連中に、スマフォに指をおくポーズを見せた。
「彼女を殺すなら、今、仲間に隠し場所を連絡する。ここからじゃ、お前らがどう足掻いても間に合わないだろうな」
「……」
俺の顔色を伺うようにじっと見つめながら、何かを考えているようだった。
「……お前一人で隠し場所を変えたとは思えないな」
「七十キロオーバーだからか? ジュラルミンケースを含めれば九十キロ近いな。まあ、素手で扱うバカはいまい」
「言葉が震えているぞ、まさか…… ハッタリかな?」
「信じないなら、信じないでいい。七億は戻ってこない」
言いながら、俺は必死に表情を保った。
「お前の意図はよくわからんな。この女と七星の交換で済むところを、お前も人質交換されたいのか?」
「違う。彼女の生命の確保が重要だからだ」
男の口元が、笑うように動いた。
「フッ、そんな大事な大事なお姫様を、俺たちは誘拐したというわけだ」
そう言うと銃を下ろし、後ろのポケットに押し込んだ。
「ほら、来い」
俺は七星を繋いだロープを引きながら、近づいていく。
「待って!」
高橋が、そう声を上げた。
「こいつら、私を離すつもりないわ。このままだと全員捕まって、全員殺される!」
「なんで猿ぐつわを外している」
中心にいる背の高い男は、高橋を振り返ると、そう言った。
「よだれで臭くなっちまってて」
「それくらい我慢しろ」
高橋は、手で口を押さえられてしまった。
「猿ぐつわは、最後までしておいて、本人に外させるべきだったな」
中心にいる男が、そんな風に『まとめ』こちらに向き直った。
男の手には、再び銃が握られていた。
「そういうことだ。この距離なら、狙いがつけやすい。死なない程度、逃げれないぐらいのダメージを与えることができるぞ」
俺はポケットに手を突っ込む。
同時に炸裂音が林に響き渡る。
「手を出して上にあげろ。小細工するなよ。今度は確実に足を撃ち抜く」
俺は手を軽く握った状態で上げると、頭の後ろで組んだ。
「……」
横目で七星を見ると、少し顔が怯えているように思えた。
俺が手に握ったものがばれたのだろうか。
「ほら、もういい。捕まえろ!」
と、銃を構えている背の高い男が言った。
一人は高橋を押さえている。
残っている二人が、慌てて俺と、七星の方へ走り寄ってくる。
「!」
俺の中の高橋を認識する感覚が反応した。
今。このタイミングしかない。
七星の方に近づき、俺を捕まえようとする男を突き飛ばした。
一人は七星を捕まえようと、一人は俺に突き飛ばされて、その男二人が七星と接触する。
すかさず、俺は手に握っていた『セルフィー用』ボタンを押し込む。
高圧電気が生成され、放たれた。
七星を含めた三人が、電撃に体を震わせる。
そして三人は重なり合うように倒れた。
「な、何しやがった!」
銃口が俺の顔面に向けられる。
俺は恐怖に打ち勝とうと、必死に目を見開いた。




