act49 連戦 五
木の根が何度も何度もオレに襲い掛かる。
そのたびにオレは、武法輪で切りつける。
その後に切り付けられた木の根や枝がオレに叩きつけられるのだが、
粉微塵に砕け散る。もう見事なまでに。
それでも懲りずに何度も仕掛けてくるあたり、
ガッツがあるというか、根性があるというか、
学習能力が無いというか、応用能力が無いというか。
どうもこちらの仕掛けが分からないので焦っているようだ。
さっきまで余裕がなくなっている。
まあ、すでに行動がワンパターンとなっている。
アレンジを加えてくる気配すらない。
ん、アホだ。
「何をした~、こんなことがあり得るはずがないだろ。
何をしたんだ!」
と、たずねてくる。
何だろう?このたずねれは、答えるものだろう的な行動は?
と、オレは冷ややかな目で見るがお構いなしで
それっぽい事を言ってくる。
もし、その質問に答えたところでどうしようもないんだけど…
この甘ったれに答えてやる義理はない。
ヒーロー物のアニメや特撮の見すぎだ。
考え方が、シロップ漬け並みに甘い。
「あのな、質問すれば答えが返ってくるなんで事はない!
何でこっちの手の内を喜んでさらさなならん。
自身を不利な状況に追い込むのにわざわざ言うほど馬鹿じゃない
考えればわかるだろ。
ついでに言えば導き手から情報を引き出そうとしても無駄だ。
まだ、ネタを教えていないからな。
念話待ちは意味ないぞ」
と、とどめを刺しておく。
勝てると思った相手の手の内を完全にわからない状況で
相方である導き手から情報を引き出そうとしてもできない。
状況は最悪なはずだ。
ホント対戦相手を見下すから足元を掬われるんだ。
オレは、展開させた武法輪を纏いながら走り出す。
目の前のワンコは、どうやら木の枝や根を操れるのは最大五本くらいのようだ。
さっきからそれ以上の数を出さないし、操らない。
ひょっとしてこれが罠なのかもしれないが、せいぜいプラス二、三本というところだろう。
警戒しておけば問題ないだろう。
それ以上使えるなら問題になるが、それでも何とかなる。
奴の茶番に付き合うつもりもないし、付き合いたくもない。
攻撃が単調で弓を使わない弓兵なんて役立たずだ。
しかも相手は、木の理を使うために動けないでいる。
そうなると的にしかならない。
こちらのからくりに気づけない愚か者だ。
ヒントは何度も言っているし、知っているはずだ。
数の理は、数が増えたり減ったりできる。
つまり、それにプラスαあれば使用する幅が広がる。
それに気づくか気づかないかの問題だ。
それも考え方や捉え方が柔軟であればあるほどいい。
凝り固まった考えが、その可能性の幅を狭めていく。
相手は、それに気が付かないで決めつけている。
この考え方もまずいんだけど、ここまでくれば問題ないだろう。
ここで、こちらの裏をかければたいしたものだと思う。
で、相手の目の前まで迫るが、目の前にある木の枝は三本。
後二本足りないわけだ、つまりそれが地面から現れ、オレの不意を突いてきた。
流石に仕掛けは通用しない。
なので、体をひねり木を避けるが、今度はそのまま木がオレに巻き付く。
勿論、武法輪で切りつけるが間に合わない。
動きが一瞬止められる。
そのタイミングでワンコがオレの顎を蹴り上げてきた。
オレに巻き付いていた木がその衝撃で粉々になり、体が上に跳ね上がる。
オレは吹き飛ばされ、一回転して四つん這いで着地する。
勢いを殺すように後方に滑りながら。
そこに追い打ちをかけるように弓矢がとんでくる。
着地点を狙われてよけようがなく払いのけるが、
さらなる追撃で木の枝や根が襲い掛かってくる。
先ほどの攻撃でオレの周りに展開する武法輪は半分の四つになっていたが、
幸いまだ残っていたので、追撃してくる木を粉微塵にはできた。
やはり、近づけなかったか。
オレは、そう自覚していた。
相手の動きが単調になっていたことが、要因だ。
誘いこまれたのだ。
でも、まあこちらとしてもただじゃ転ばない。
奴の足元にオレの周りに展開していた武法輪がいくつか転がっている。
向こうはそれに気づいているのかいないのか。
でも、反撃に使える。
さっきのような攻撃を仕掛ける為には、もう一度誘い込まないといけない。
だからか、さっきと同じように攻撃が単調になってきた。
明らかに誘い込んでいる。
なんともなめられたものだ。
この状況にすれば、また飛び込んでくると踏んでいるようだ。
乗ってやってもいいが、その前にこちらも仕掛けをする。
どう、行動してくれるかが楽しみだ。
オレは、相手の足元に散らばった武法輪の数を増やし、地面に敷き詰める。
それは、タイルを敷き詰めた床のように
オレを攻撃して誘い込むことに夢中だったせいか、
自分の足元に広がる武法輪の床に気づくのにわずかに遅れたようだ。
下を見てワンコが慌てる。
その場から離れようとするが、床が広く、切れ目を探してしまったのだ。
その瞬間、オレが数の理を発動する。
重力加速度 4G
この瞬間、武法輪で敷き詰められた床に4倍の重力が発動する。
1Gが普通の状態で4Gなら単純に四倍。
5kgの重さが、20kgになる。
50kgなら200kgになる。
いきなり、その重さが体にのしかかれば動けなくなるのは必至だ。
攻守なんてすぐに入れ替わる。
自身の状況や行動、言動に酔ってる暇があるなら次を考える。
それがオレのやり方だ。
いま、それがはまっただけだ。
反撃される前に決める。




