act4 問題定義 三
今回は主人公視点のみです。
すいません、視点がころころとかわってしまいめんどうになっていて手数をかけます。
PM3:40 図書室にて
オレは、部活でいろいろ片付けてから図書室に入る。
好み的にはこの図書室は好きな場所だ。
紙の本がたくさんあるのもそうだが、電子文書として閲覧可能な本も多い。
古刻市の住民なら閲覧特権もあるのがまたいい。
図書館としても破格の大きさでもあるし、静かなのがいいのだが・・・
その静かな図書館で不機嫌そうに頭を抱える彼女を目にした。
何かと葛藤しているか、よくわからない変な顔をしている。
遠くから見れば一人で百面相をしている。
情緒不安定なのか、それとの何か体調が悪いのか。
近寄りがたい状況だ。
オレも大概変人扱いされるが、それは考え方が周りとずれているからであって
人間的にはまともな部類だと思う。
でもあれはな~。
学校の図書委員と図書館の職員がアレを見て明らかに迷惑そうな顔をしている。
オレ、あそこに行くのか・・・
まあ、感情表現が豊かな子なんだろう。
そう割り切ろう。
オレは意を決して百面相真っ只中の彼女・・・ 安村ミコの元に向かう。
「いや、待たせてすまない」
オレがそういうと安村ミコの机をはさんで正面に立ち
言うと彼女は慌てて我に帰る。
突然我に返った所為か慌てている。
「どしたの」
オレは不思議そうな表情を浮かべながら席に着いた。
「いや、何でもないよ」
彼女は平静を装いごまかす。
どうしようか、彼女の要件は大体・・・いや、間違いなくわかる。
それをわかった上でこっちから話をふるか?
いや、それをすると更に情緒不安定に向かいそうだ。
よく見たら、どう話を切り出していいか困ってるな、こいつ。
部活に乗り込んで来た時は強気だなと思ってたのに
ここで尻込みするのかよ。
やるか、やらんと始まらんか。
オレは覚悟を決めてカバンをあさり、クリップで留めた書類を出し
安村ミコの前に置き
「さて、ご用件はこのことについてだよね」
と言う。
安村ミコは、不思議そうにそれを受取り、表紙を見ると
≪神事 神武天 参考資料≫
と書かれていることに驚く。
「やっぱり、知っていたんでしょう!」
机をドンと叩き、声を張り上げ立ち上がる。
うん、こうなるよね。当然の反応やね。
神社であった時は知らないっていたのに
この書類を見せられれば、事情を最初から知ってたんかい、となるわな。
受付に座っている図書委員が低めの声色で「お静かに願います」と安村ミコに注意をする。
その注意に慌てて反応し、静かにしないといけない場所で騒ぎ立てたのが
さすがに恥ずかしかったのか頬を赤くして席に座る。
騒いだり、静かに忙しいことだ。
それよりも話の続きだ、続き。
「さて、落ち着いたところで話の続きだ。
神社にいた時はこの神事について何も知らなかったことは確かだよ。
それに俺にとってはあの瞬間の出来事は、予定外もいいことなんだよ」
と真剣なまなざしで出した書類を指さす。
「でも、ならこれはなんなのよ」
安村ミコは、資料を手にオレに小声で詰め寄る。
まあ、当然の言い分だわな。
コイツの言い分としては神事に巻き込んだから説明しないといけないという責任感からきているものだろう。
知らないはずの神事についての資料が出されてくる。
彼女からすれば出鼻をくじかれた状態だ。
まだ、小言で済んでいるだけまだましか。
本来ならバカにしたと言われても否定できない。
「簡単に答えるとだな。その資料は、ある人に聞いてこさえた」
オレは、明確に簡潔に真実を答えた。
この言葉に嘘はない。
ただ受け取る側がどう思うかは知らん。
そこまで器用じゃないからわからん。
オレの回答に対して
「誰よ、それ。そんなの信じれると思う?」
納得のいかないという顔で
安村ミコは答えた。
当然だ、オレの知らない事を教えてくれる第三者がいるなんて信じろと言うほうがおかしい。
「嘘つくならもう少しマシなこと言いなさいよ」
声を荒げ詰め寄る。
その態度に職員が近くに来て、咳ばらいを一つ。
「お静かに願います。まだ騒がれるのであればご退館くださいね」
と、圧のある笑顔でこちらを問答無用で黙らせにかかってきた。
簡単に言えば、騒がず静かにしろ。と言われた。
これも当然だ。
場所が悪い、静かに話すならまだいいけど
流石に警告された。
職員の言葉に縮こまる安村ミコ。
お静かに、がマナーの場所でこれだけ騒げばへこみもするか。
職員が離れたことを確認して、オレは会話を再開する。
「職員さんに注意もされたし、ここからは静かに行こうか。
左腕にある念珠に右手を乗せてくれるかい?」
とオレが言うと
「何を始めるの?キチンとした答えも聞いてないうちに」
意気消沈から復活した彼女がこちらをにらむ。
「とにかく言う通りにしてくれ、ココを追い出されて出禁まで食らいたくないだろ」
そういうと彼女は渋々オレの言う通りに自身の念珠に右手を被せる。
それをオレは確認すると、
『聞こえるか、安村。これは念話だ、刻印者と導き手の通信手段の一つだ。
だから騒がず冷静でいろよ、また職員さんに注意されるのは勘弁だからな』
と念話を送る。
彼女は、言葉を受け取った時は慌てていたが、オレが注意するように釘を刺したせいか
騒ぎはしなかった。
『言葉は考えればこちらに伝わる。考えをこちらに送りたくなければ念珠から右手を離せばいい。
念珠に触れることで念話のON/OFF出来るからうまく使い分けてくれ』
と念話に使用方法を説明した。
『わかったわ、確かにこれなら、はたから見れば静かにしている様に見えるから便利ね』
と念話を返してきた。
『それじゃあ、さっきの続きだ。オレに神事の事を教えてくれた人を紹介する。くれぐれも冷静でいてくれよ。じゃあ、説明してくれるかい?』
と言うと
『何を言ってるの?説明するのはアナタじゃないの?』
と彼女が念話を返してくる。
なるほど、そういう返しをしてくるのが当然か。なんて考えて居ると
『あまり興奮するな、子の巫女よ。』
と低い男性の声が聞こえる。
ハっとしたミコは周囲を見渡すがそれっぽい人どころか
二人の周りには誰もいない。
先ほど注意をした図書職員がこちらを警戒して見ているだけである。
『我の名は、時と方位を守りし神将が一人、ビカラである。』
さらに先ほどと同じ声が耳に響く。
また、周りを見回すが誰もいない。
青ざめた顔でオレを見る。
誰にも言えない。まさか幻聴が聞こえるなんて。
先ほどまでの疑問などあっという間に消え去り
違う問題に慌て始める彼女に
『ちなみに幻聴じゃないからね、念話相手の一人だよ。彼の居場所は後で説明するとして
今聞こえたダンディーな声の主が神事を説明してくれた人だ』
と、オレが落ち着いた口調で言う。
『え、あなたにも聞こえるの』
驚いた顔で尋ねると
『正確には俺達二人にしか聞こえない声だけどね』
『何で』
机に身を乗り出しオレに迫る。
声を出さないが、慌てている彼女に
『とにかく落ち着け安村。
いいか、干支の子の刻印を持つ者とその導き手たる巫女だけが聞き取れる声なんだよ』
両手の平相手に向けて、まあまあという仕草をしながらオレは言う。
『刻印を持つ者とその巫女だけ・・・』
少し混乱しながらも改めて席に座りなおす安村ミコに
『ちなみに君の神社の名前は?』
と、安村ミコは尋ねられる。
『ビカラ神社』
と、即答する。
まあ当然か、自分の稼業だものな。
『で、さっきの声の主は自身の事をなんて言ったか覚えているか?』
『ビカラ・・・さ・ま』
少しづつ声のトーンが低くなっていく。
自分が言葉にすることで理解が追い付いてきたのだろう。
『そ、さっき名乗った声の主がビカラ。君んちの御祭神様だ』
納得はしたくなかった。でも、しなければならないことも分かっていた。
それは、自身がその渦中にいることが確かだからだ。
なんせ、そのことを説明しようとしていたのは当の彼女自身だからだ。
『そういうことだ、君の家の神様だ。その神様が今オレの念珠の中にいる。だからオレたちの念話にも参加できる。彼は、オレたちのアドバイザーとしてここにいる。
アドバイザーに神事の事を聞いたんだ、その資料が作れるくらいの情報を教えてもらったわけだ。
わかったかい?これが君の質問の答えだ』
『理解はしたけど、そんなことあるの?』
『あるのだ、導き手よ。疑問ももっともだと思うぞ、だがこれは紛れもなく現実だ。
否定するのは簡単だ、違うと言えばよいだけじゃ。未知を認め受け入れることがどれほど大変かもわかる。じゃが、無理をしてでも理解するのだ導き手よ。主にはそれ以外の選択肢はないのじゃからの』
『ですけど、ホントにビカラ様なんですか?なんか神様の割にしゃべり方がフランクと言うか親しみやすいというか』
『そうか、結構古臭い口調だから古い神様みたいであってると思うが・・・』
『お主な・・・話していて思ったんじゃがワシのこと敬ってないじゃろ・・・
扱いが近所の親父みたいな接し方しとらんか?』
『気のせい気のせい。ただ、近い立場には感じるよ。割と話しやすいし、お寺や神社で感じる神聖な感じ?というか威圧感みたいなものがないからそういう感じで話しているのかもしれないけど・・・』
『失礼すぎるよ、久野君。古臭いとか言い方がひどい。一応神様なんだよ、礼儀を持って話さないと失礼だよ』
安村の奴、自分でどえらい事言ってんの気づいてんのかね。
『導き手よ、礼儀ただしいのはいいが、一応神様って言い方はないじゃろ。一応ではなく神様なんじゃが・・・そんなにワシ威厳ないか?』
ダンディーボイスが意気消沈モードになる。
これはコレで笑える状況だ。
慌てる安村も面白い限りだ。
『いえ、そんなつもりはないんですよ。ただあまりにも非現実的なことが起こりすぎて私自身がついていけてないだけです。だから言葉をうまく選んで話せてないというか・・・
すいません』