act46 連戦 三
「戦う必要性はないな」
とオレが言うと
「お前じゃなくてもいいぜ、刻印者はあと二人いる。
どちらかでも構わない。あんなしょぼい終わり方だとつまらないだろ」
と、嫌な煽り方をする。
でも、ウサギは動ける状態じゃない。
元気なら、あの煽りにに乗ったかもしれないが、今はヘロヘロだ。
それどころじゃない。
後は、一人。
「オレは目的を果たした、アンタの煽りに付き合う必要はない」
と、ウサギは一蹴した。
当然だ、ここにいる人間が乗ることではない。
だが、
「そういうなよ、アンタでもいいんだぜ。
せっかくの連戦だ、記録を伸ばすのもいい事だろ」
ここで食い下がるつもりだろう。
そうじゃなければ、このタイミングで仕掛けてくるはずがない。
このチャンスを逃すしたくないわけだ。
奴の武法具である梓弓を出し、杖のように地面につき、その上を左手の平で抑えた。
そして、その上から右手を乗せる。
余裕を見せているようにも見えるが、不自然だ。
何か仕掛ける為の準備にも見える。
「帰ってくれると助かるんだが…」
「それは嫌だね、かまってくれるまで居座るね」
戦う気が無くてもいるつもりか。
もしくは、対戦の取り付けするまでいるつもりだろう。
何で、二人も相手にしたのにオレの相手をしないんだ、とかね。
後は、いかさまだ。八百長だとごねるか。
どちらにしても面倒だ。
「そろそろ決めてもらえないか、誰が相手してくれるのか」
やるか、相手にしたくない能力なんだが、試してみたい事もある。
少し嘆息して
「なら、やろう」
オレが観念してそうつぶやく。
この手合いは、自分の意見が通ると思っている。
決してこちらの意見を聞かない、そういう人種だ。
《子と戌の刻印者の同意を得ました。
これより奉納神事 神武天 を許可いたします。
双方、悔いの無きよう力の限り戦ってください》
と、司会アナウンスが響く。
連戦だよ、ほんと。
まあ、いいさ。
試したいこともある。
『戦うつもりなのか、マコトよ。連戦しすぎなのではないか?』
ビカラが心配してくれた。
『やらないわけにはいかないようだ。
オレが断ればアイツは残りの二人のどちらかと戦うまで引かないだろう。
ウサギは戦闘不能でヒツジは戦う気が無い状態だ。
この状況であのバカはだだをこねて話が進まなくなる。
しつこく付きまとってくるだろうよ。
こちらが折れるまで。
必要とあれば、他の所でケンカを売ってくるだろうよ、猪の最初みたいに。
こうなると泥沼になる。
それは避けたいし、他の刻印者が集まりだすとさらに厄介になる。
その前に片づける』
『まったく、その判断力の高さは見事だよ。でも勝てる算段は付いているのか?
いくらお前でも大変なじゃないか?』
『大変だよ、予想外の相手で理の相性は最悪だ』
『それならば、逃げるのも手なんじゃないか?』
『それをすると、たぶんしつこく追いかけてくる。
そうなると後々の対応が面倒になる。
ここで断ち切っておかないと…』
『やはり、そうなるかのう…』
『確実にそうなるね、だから面倒でも疲れていてもここで何とかしないといけない。
この手合いは、自分に自信があるから引かない。
自身の力を過信し倒しだ、話なんて通じないからね。
それに試したいこともある』
『試すじゃと?何を試すのじゃ』
『数の理は、色々と応用が利くことが分かったんだ。
もし、オレの考えたことができれば、これからの禍津夜刃との戦いが楽になるかもしれない』
『先を見据える為の戦いでもあるわけか』
『そうだよ。それにオレの本気を同盟を組んだ奴らに見せつけて置く必要がある。
オレは、負ける気はない。化け物どもを根絶やしにするまでは』
オレに決意が固い事を理解したようでビカラはそれ以上は言わないでいてくれた。
助かる。
じゃあ、始めようか。
「何をだまってる。鎧も着ないのか?」
といらだち始める。
おや?
「不意打ちでもすればいいのに、律儀に待ってくれてるのかよ」
「はあ?オレが有利なのに不意打ちする必要が分からんわ!さっさと準備しやがれ!」
律儀だね、こいつ。
「じゃあ、お言葉に甘えて『我、願う。神将ビカラの刻印を持ちし我に力を貸し与え給え』」
オレは、方位鎧の真言を唱えた。
体が光を纏い鎧に取り込まれる。
そして、ネズミ顔の丸みを帯びた鎧を身にまとう。
ちょっとしたパワードスーツだ。
これは、感覚はあってそれでも体が大きくなる。
その上、力と感覚が鋭くなる。
今回で二回目だが、慣れないといけない。
そしてもう一つ…
せっかく安売りしてきたケンカを買ってやったんだ。
付き合ってくれよ。ワンコちゃん。
オレは目の前にいる刻印者を見据えた。
その顔は、犬なのだが不敵な笑みを浮かべていた。
勝てると確信しているようだ。




