act41 補足
「さて、説明は済んだわけだが、何かご質問は?」
おもむろに手を挙げたのは、宇崎トシヒロだった。
何だろうか?
「何です?」
オレは、不思議がりながらも彼に問う。
「まだ、話していないことがあるだろう。
この同盟の目的でもある敵の存在についてだ。
…たしか禍津夜刃だったか。それは何だ?
今までの話がオレたちに対する試練で
マコラたちが教えてくれない事は理解できたが、
その化け物は別だ。
それでもマコラは教えてくれもしない。
何か意味があるんじゃないか?」
疑問点を的確についてきた。
割と冷静な奴だ。ホント味方に付いてくれて助かる。
「そうだな、その説明をしていなかったな。
奴らは、全部で八匹いて、そのうちの一匹の封印がすでに解けている」
その言葉に刻印者二人が慌てる。
どうやら、中の神将どもが騒いでいるのだろう。
「ええい、黙れ!神将ども!今から説明する!黙って聞きやがれ!」
オレが、怒鳴ると他のメンバーが体を震わせる。
「すまんね、助かった」
「いきなりすぎてびっくりしたわ」
刻印者二人は、礼を言ってきた。
普段冷静にアドバイスをする神将が慌てると大変だからだ。
導き手たちは、なんか抱き合っていた。
何してるの?
あっオレの大声に驚いたからか。
オレは、謝り何とか場を落ち着かせた。
その上で説明をしたのだ。
化け物について。
驚かれたのは言うまでもないし、自分たちの立ち位置が、住んでいるところが、
今どれだけ危険かも認識してもらった。
「そいつらを倒さないといけない事はわかるが、いるのか?そんな化け物」
「いるのは間違いないわ。私も襲われたもの、今でも寒気がするわ」
安村が答えてくれた。
経験者の言葉は、やはり説得力がある。
「それなら私たちも襲われる確率があるのなら他の刻印者にも協力を願うべきだわ」
糸風ツムギが提案してきた。
「それは難しいかな」
オレの言い分に
「何でよ、できない事はないはずだわ」
と食い下がってきた。
「必ずしもキミらみたいに物分かりがいいわけじゃない。
キミらだって最初は疑ってい居たろ。今回の勉強会もその疑いを払しょくするために開いたんだ。他の刻印者たちが同じとは限らない。
これは罠なのかもしれないとか、騙されているなんて考える奴もいるかもしれない。そのたびに議論を繰り返すほどオレの人がいい訳でもない。
話し合えば理解できるなんて幻想もいいところだ。
キミらは比較的物分かりがいい部類だから説明しただけだ」
「そうかもしれないけど、最初からあきらめるのもどうかと思う」
糸風ツムギが諦めず言ってきた。
「そうだな。でもさ、今のキミと同じように反応してこちらの言い分に納得しなければ同じことだ。人はね自分の尺度の範囲でしか理解しないよ、今の君のように」
とオレが言うと、反論する言葉を見つけられずに黙った。
まあ、そうなるわな。
「あいつの言い分はもっともだ。神事でさえ相当な非常識な話だ。そこに化け物が入れば信じない奴だって出てくるよ。誰もが人の話を信じてくれる人間ばかりじゃない」
伏見ヒロが、優しい口調で話しかけた。
そうだ、どんなにきちんとした言い分であっても理解すると納得するは異なる。
理解は、知識や情報として、納得は本人の認識によるものだ。
この二つがうまくかみ合わないと相手の話を聞くことはできない。
人の話を聞く、そして理解して納得する。
これは希少な能力なのだと改めて認識した。
話せば分かり合えるなんて、幻想もいいところだと思った。
それで済むならケンカも殺し合いも戦争も起きない。
そんな都合良くはいかない、なんてことは言えない。
言っても論争のネタにしかならない。
話して分かり合えるならいじめなんて起きない。
そう、オレは、心の中でつぶやくだけにした。




