act25 禍津夜刀(まがつやか)
主人公、ヒロイン視点です。
AM 11時頃 廃工場にて
方位鎧を纏い、視線を禍津夜刀からそらさない様にする。
上手く着地した、と思える。
着地の際、廃工場の入り口で結界につかまっていた禍津夜刀を
ミコたちと反対側、廃工場側に蹴り飛ばすことに成功した。
これで結界がミコたちを守る最後の壁となってくれる。
かすかな安心を手に入れることが出来た。
まあ、禍津夜刀の結界の中にいるから多少の無茶も問題ないだろう。
認識阻害と騒音散開を行いながら結界内に紛れ込んだ獲物を逃さない罠であり、檻。
その中に禍津夜刀の行動を制限するヤヨイ姉の御札の結界。
暴れやすくしてくれた事に感謝したいくらいだ。
足元の血だまりを見て、自身に仕方がない仕方がないと割り切るように考える。
全ての人間を救えるなんて思えるのは、とても傲慢な事だ。
所詮、オレは一人の人間だ。
届く範囲と出来ることには限界がある。
誰でも、何でも救えるなんて詭弁だ。
救えない人も出てきて当然だ。
それでも、知っている人間くらいは救いたい。
それが知人、親類ならなおのことだ。
そうなことを考えて居ると
オレの後ろで
「大丈夫のはずだよ、認識阻害と騒音散開の結界が張られているからね。
禍津夜刀がはったものだけど、これがこっちに優位に働いた。
暴れ放題になるからね。
ここまで来るまでに目立ちまくったからね、明日の新聞の三面記事がこわいね。
ネットなら改ざんもしやすいんだけどそれは後でもいい。
君らの無事が確認できたからね」
と、笑顔で答えるコウ兄を見て
ずいぶん余裕だな。
「いや、冷静に解説しすぎでしょう。
分かり易いけどさ」
ミコが冷静にツッコミ、
完全復活だな、おい。
「ナイス!ツッコミだね。ミコちゃん」
と、抱き着いたまま親指を立ててウインクするヤヨイ姉。
通常運転しすぎじゃないか。
「相変わらず緊張感ないね」
冷徹なツッコミをするオレに。
「そうだよ、君が・・・マコト君が来てくれたからね。
きみが何とかしてくれるってわかってるから安心できるんだよ。
だから、そんな化け物ぶっ倒しちゃえ!」
ミコが珍しく叫んできた。
その言葉には、オレに対する絶対の信頼が込められている。
この信頼は、裏切れない。
オレは、背中に三人の信頼と命を背負っている。
なら、負けられない。
いや、負けない。
まあ、シリアスムードはこっちだけで
向こうは、和気藹々になってしまった。
もっとツッコミたいと思ってしまう。
そんな時、
ドン!という音とともに土煙が上がる。
音のする方向に視線が集まる。
そこには、瓦礫を吹き飛ばし、
誇りまみれで立ち上がる禍津夜刀がゆっくりとした歩み出していた。
その目は血走り、怒りがにじむ。
「たかが、エサの分際でやってくれたな」
禍津夜刀が騒ぎ出す。
「たかが化け物の分際で態度がでかいな」
と、オレが静かに化け物を見据えながら言い返す。
先程までの和気藹々とは、打って変わって緊張感が広がる。
「所詮はエサか。状況が理解できないとはな。
オレ様の栄養になる栄誉が理解できないとは愚かだな」
禍津夜刀は、よだれをたらしながら、猫背でこちらを見ている。
『本当に禍津夜刀じゃ。なるほどのう、合点がいった。
倒したくても倒せない。マコトが倒すべき相手だというのは理解できた。
奴に普通の手段では倒せぬからのう。
まあいいじゃろう』
ビカラが、納得はしてくれているようだ。
一次的みたいだが・・・
「で、神事以外で理や武法具を使っても問題ないか?」
『そうじゃの、問題はなかろう。もともと始まりの祝詞でも言っておるしな。
それに使い方や目的を間違えなければ問題にもならんじゃろ。
相手が相手じゃしな。
今回の神事では、禍津夜刀の討伐も込みの様じゃしな』
「OK。保護者からの了承を得ることができた。
じゃあ始めますか、念願の禍津夜刀狩りだ。
てめえら根こそぎ狩りつくしてやる!!」
オレは自身の目に秘めていた怒りが浮かび上がることを自覚していた。
倒すべき相手であり、人の手では倒せない人外のモノだ。
苦労して対抗手段を手に入れてもそれは相手を押さえつけるだけで倒せない。
ましてや、逃げるための時間稼ぎにしかならない。
でも、今は違う。
明確な倒すことができる手段がある。
オレにとっては、悲願と言ってもいい。
この非常識な存在を人や生き物に寄生し災いをもたらすだけの代物。
こいつらを倒せる、つぶせる。その手段がある。
あの時の、光の御柱にかけた願掛け。
それが、かなったことになる。
でも、まだ前哨戦に過ぎない。
コイツを簡単に潰せないと後に待ち構える奴に勝とうなんて夢物語だ。
人のため何て殊勝なことは言わない。
ただ、オレが秘め続けて来た無念を晴らせるのだ。
オレは知らぬ間に笑みが浮かんでいたようだ。
その笑みはさわやかなモノとは程遠く、邪悪で醜悪なものだった。
悪いことを考える悪役のような顔つきだ。
それを見ていたヤヨイ姉は、若干・・・いやかなり引き気味に
「いや~なかなかな悪い顔つきだよマコちゃん。
私達のピンチに駆けつけた人の顔に見えないよ」
と、何か失礼な事を言い始める。
それに激しく同意するように何度もうなずくミコ。
「そうだね、何か悪いこと考えて居る人に見えるよ。
まあ、ボクらの悲願でもあるし、分からくはないけどね。
人前ではその笑い方は気を付けた方がいいと思うよ」
と、苦笑いを浮かべるコウ兄。
聞こえるが、もうどうでもいい。
オレの相手は、目の前にいる。
「よう、バケモン。
その姿になるためにどれだけの人間を食ってきた。
さあ、懺悔の時間だ。
ココでお前が潰されろ。
いや、潰す。
それが、
オレが・・・
オレたちが
それを待ち望んでいたことだ」
オレは自分でもわかるくらいの凶悪な笑みを浮かべる。
もうそれは、どこかの戦隊ものに出てくる悪の大幹部の顔だろうと思う。
決して正義のヒーローの爽やかな笑顔からは程遠い。
でもそれでいい。
この際、目の前の化け物を倒せるなら体裁なんてどうでもいい。
「エサに分際で、人を超えたオレに逆らうつもりか」
化け物は、咆哮を上げ、目の前にいる餌をにらみつける。
その視線に気づいたのか、又は気づいていないのか。
オレは、醜悪な笑みが消え、鋭い視線を放つ。
ネズミ顔で醜悪な笑みを浮かべていると
邪悪そのものに見えてしまう。
でも、そこから突然醜悪な笑みが消え、真剣なまなざしを放つと
驚いてしまう。
それが、たとえネズミの顔であっても彼の顔がそこに重なる。
映るのは、真剣なマコト君の顔だ。
私はそれに見惚れてしまった。
普段の彼は、常にすました顔でいる。
よく見ればイケメンだ、とも言われる人も多い。
隠れた人気を博している。
放つ気配が・・・オーラが刃のように感じている人もいる。
陰キャではなく、鋭い刃を持つ意志を感じるのだ。
ヤンチャな感じではなく、優しい中にある鋭い刃のようなもの。
それは、見た目に幻想を押し付けて、話してみれば幻滅するという勝手な言い分ではない。
感覚的に感じるモノを言葉にすればこうなるという感じ。
常に必死に向き合い、泥臭くカッコ悪いことも多いのに
不思議と嫌な感じはしない。
それを嫌だ、かっこ悪いというのは、うわべしか見えていないだけだと思う。
私は、彼の真剣な目を見てしまった。
そして、真剣に向き合う姿も。
その彼に視線を奪われていた私に
いつの間にかそばに来ていたヤヨイさんがささやいてくる。
「どう、結構いいでしょ。あの子」
「そう・・・ですね・・・」
私は彼の顔を、姿を見ながら素直に答える。
それを確認するとニマニマとヤヨイさんが言葉をつなげる。
「そうなのよ、案外いい物件なのよ。ア・イ・ツ。
性格はひねくれてるけど、真面目で一途。
まあ、頑固でぶっきら棒な所が玉に瑕だけど、
それを差し引いても良い物件だと思いますよお客さん」
嬉しそうにヤヨイさんが売り込んで来る。
「そうかもしれません。まあ、刻印者に私が認めてしまったんで
もう婚約者扱いでもありますし・・・」
と、うっかり口を滑らせてしまう。
そのことに気づいた私は慌てて自身の口を両手でふさぐ。
そして、横にいたヤヨイさんの顔を見るとそこには満面の笑みでニマニマしている姿があった。
やらかした!
そう思う。
幸い彼には聞かれていないようだ。
「大丈夫だよ、その事知らないのは、マコちゃんだけだから
刻印者の役目が神事と化け物討伐だけなんて思ってるの」
と、笑顔を向けて来た。
えっ、知ってて今まで話してたの。
恥ずかしいよ、の緊張感たっぷりの中で何緩んでるんだろ私。
それにヤヨイさん、それフォローになってませんから~。




