act24 遭遇、対処、・・・
ヒロイン視点です。
結構残酷な場面があります。
物語とヒロインの心情、そして恐怖の演出のために入っています。
化け物は、手に持っていた人の足を無造作に口に放り込み
血を滴らせながら、骨を砕く音をさせる。
嫌な音だ、聞きたくない。
化け物の前に居て、這いずるように逃げる人は必死なっていた。
その人が逃げるより先に、化け物はその人を捕まえ、
泣きじゃくり、首を振り、悲鳴を上げるのもお構いなしに
凶悪な歯が立ち並ぶ口に運ぶ。
頭から丸かじりにして血が噴き出す。
手をバタバタと動かし抵抗しているが、化け物が骨を砕く音をさせると、
動きがなくなり、だらんとした。
その人をパンをちぎるかのように食いちぎり、むさぼりつく化け物。
スプラッタ映画どころではない。
血が滴り落ち、お構いなりに人を食らい、かみちぎる。
恐怖を受け付けるには十分すぎる姿。
その恐怖が、底冷えする死をまとわせ、周囲を支配する。
私は、化け物を・・・禍津夜刀を恐怖と驚きの表情で見つめる。
こんなものが本当にいるなんてという気持ちと
これがマコト君が戦うべき相手なんだ。
と、納得もできた。
この神事にかかわって、
自分の知らないことを見て、
覚悟をして挑んでいるマコト君や彼らの言葉がいかに重いものなのか、
を改めて実感してしまった。
寒気と恐怖が体と心を駆け抜ける。
余りの情報量に吐き気すら感じるほどに。
得体のしれない、理解のできないモノが目の前に現れ、ワケのわからない言い分をしてくる。
逃げようにも逃げることのできない現実が今、目の前にある。
それも今度は、当事者として、
「ひひひ、知ってるのかよ。まあ、それでもオレの飯になるのは変わらんがな」
禍津夜刀は、口からよだれを垂らしながら私達に迫る。
「あなたも元は人だったんでしょう。力に飲み込まれてどうするの」
ヤヨイさんは叫ぶ、相手の心に・・・良心に向かって。
「だから何?。オレの良心に語り掛けてるつもりか。おあいにくさま。
そんなもの持ち合わせてなんかないぜ、というかすでに消えてっけどな!」
目に宿る狂気はただ目の前にある獲物を狩ることしか頭にないことを意味していた。
そして、その獲物とは紛れもなく私とヤヨイさんだ。
流石の私でもそのことが理解できる。
いつもテレビで流れる戦場の映像。
銃弾の音、がれきに嘆く住民。
隣にいる死の恐怖。
その全てが他人事だった。
それが自分に降りかかる。
自分が当事者でその被害者になるなんて想像もしていなかった。
その立場になるまでは。
訳の分からない状況に寒気がし、どうすればいいかもわからない。
逃げたくても足がすくんで逃げることもできない。
頭の中は真っ白になり、
なんで私なの、
なんで私なの、
なんで私なの。
私ばっかり変な事に巻き込まれるの。
こんなのおかしいよ。
怖いよ、怖くてしょうがないよ。
という言葉が頭の中を駆け巡る。
その横にいるヤヨイさんは目の前の化物を見据え続けている。
目には力があるが、手足は震えていた。
でも、今を受け入れ何とかしようとしている。
「ミコちゃん。まだ終わってないよ。こいつにだって弱点くらいある。
例え倒せなくても、ヤツはこっちを見下してる。
そこをついて意地でも生き延びるんだ」
ヤヨイさんの力強い声が、私の心に響く。
その声がわずかに震えていても私を立ち直らせるには十分なものだった。
そして、もう一つ
念話を通じて、一番聞きたい人の声が聞こえた。
『待っていろ、すぐに行く』
その言葉に私の気持ちは安心する、そして立ち上がる力をくれる。
「ヤヨイさん、何とか逃げましょう。
さっき念話にマコト君がこっちに向かってるようです。
彼が来れば、こんな化け物倒してくれます。
どんな不利な状況でも覆してくれた彼が来れば!」
と、強気な姿勢になった。
私の心の支え、神事で見せたマコト君の姿。
役に立たない理の法術。
抱えるいろんなペナルティ。
そんな物まとめて覆し、考えて考えて、失敗して失敗して、
それでも踏み出す一歩がどれほど力強いものかを
必要なモノかを理解出来る。
「そう、もう大丈夫だね。さっきまでは恐怖に飲み込まれていたようだけど
今なら、今のミコちゃんな十分に戦えそうだ」
ヤヨイさんはそう笑顔を見せる。
「言ったのはいいですが、こんな奴相手にどうやって」
「考えるんだよ。必死に。
それが今を生きている…ううん、生き残った者の責任なんだよ。
生きたがっていた人たちの今を生きている者の覚悟なんだよ」
その言葉の重みを理解はできないがその意味はわかる。
この人の決意が、この人の真の強さなんだと改めて思う。
「どうした。遺言はすんだのか。てめえらは、オレのエサになるために
ここに現れたんだよ。あがくだけ無駄なんだよ」
下品な笑みを浮かべながら化物は歩みを進めてくる。
「遺言なんてしないよ。死ぬ気はないからね。まだやりたいことだっていっぱいある。
アンタのエサになってあげるほど酔狂でもないよ」
ヤヨイさんはカバンから数枚の札を取り出し、廃工場の門扉に向けて投げつける。
何枚かは門扉に張り付き、何枚かは地面に張り付く。
そして、そのまま二人で後ろにゆっくりと下がる。
「は、逃げるつもりか。ここはオレの空間で結界だ。
迷い込んだお前らがバカなんだよ。
無駄だと悟れよ、餌どもがよ」
化け物は、一気に二人との間合いを詰めるよう走り出す。
だが、先ほど地面に張られた札のところで突然動きを止め立ち尽くす。
「何をした!!」
動きを封じられ、喚く化け物。
「相手をなめ過ぎよ、アンタ。こっちだって簡単には、やられない」
ヤヨイさんは相手を見据えることを止めずにいる。
本当はすぐにでも逃げ出したいのだろう。
でも、背中を見せたら確実に襲われる。
動きを封じることが出来てもどのくらいの時間足止めできるかわからない。
「こんな事しても無駄なんだよ、悟れよエサが!!!」
化け物は、もがき見えない何かを引きちぎろうとする。
「なめないでよね、私だって結界術くらい使える。
アンタみたいな化け物と何回かやり合ってるからね。
どう?エサ扱いの獲物に反撃を食らった気分は?」
と、煽る。
不用意にあおらない方がいいのでは・・・
まあ、相手を冷静にさせない為だろう。
逃げるにしてもあの化け物をもう少し足止めできないとまずいのだ。
だから、今この状態を何とかするしかないと覚悟を決めている。
「ただの食い物の分際で!!!!」
目が血走る、見事に逆上してくれているようだ。
でも地価も増してない???
お札が少しづつ黒くなってきている。
「これで少しは時間を稼げればいいんだけど、援軍のくる気配もないし・・・どうしようか」
と困り果てているヤヨイさんに
「その札まだありますか?」
「あるけど、あんまり効果ないよ。
ある程度の足止めくらいにしかならないけど・・・
逃げるにしても後何枚かをあのばけものに貼り付けないといけないし・・・」
「ならください。わたしが貼り付けに行きます」
と、言うと震える体で足を踏み出す。
「だめ、今あいつを縫い付けている札がいつまでもつかわからない。
それにそれをするのは私の役目だよ。」
とヤヨイさんは手で制する。
「でも、もう私も当事者です。逃げるわけにはいきません・・・というか逃げれませんよね」
「そうね、逃がしてくれそうにないよね。私もここまでか、ごめんね守ってあげられなくて」
「そんなことありません。私はいつだって逃げてました。
それにマコト君が来ます」
とそのセリフを言う私には、絶対の確信があった。
「なんだ、やっぱりミコちゃん。マコちゃんにぞっこんになってるじゃない」
視線を化け物からそらさず、ヤヨイさんが軽口を言う。
その言葉に私は、さっきまでの恐怖が吹き飛び、顔が真っ赤になる。
命の危機なのに恐怖で押しつぶされていたのに
それを軒並み吹き飛ばされる。
「なななななななななっ何を言ってるんですか、この非常時に!!!」
「大丈夫、マコちゃんに来るって言ったんでしょ。なら絶対に来るよ、あの子。
それに、私の見立てではあの子もまんざらじゃないはず・・・」
なんて言っていると
突然、
ドンという地響きを土煙とともに化物は吹き飛ぶ。
土煙の向こうから「二人とも大丈夫か」と心強くまた、安心できる声が聞こえる。
私にとって一番頼りたくて仕方がない人の声だったからだ。
土煙がはれ駆け寄ろうとしたときにそこには大きな鼠の顔をした化け物が、
コウさんを背負いひざまづいている姿があった。
余りにも突然、唖然とする状況に、私たちは混乱する。
連続で起きる異変でもうおなか一杯の状況である。
鼠顔の化け物は、静かに車いすを組み立て下ろすと、背負っている人を車椅子に乗せる。
その人は必死に私たちの方に向かってくる。
その姿を見たヤヨイさんの顔がほころぶ。
私たちの元に車いすで駆け寄る男が
「大丈夫かい」
と、優しい笑み浮かべを話しかけてくる。
その姿にヤヨイさんは緊張が解けて安心したのか、涙を浮かべて彼に抱き着く。
「コウ君~」
「もう大丈夫だ。」
コウさんはヤヨイさんをあやすように背中をポンポンと軽くたたく。
「コワかったの、怖かったの。あんなのに勝てないよ。もうだめだと思ったの・・・・」
と弱音が堰を切ったようにあふれ出す。
「感動の再会はいいんだけど・・・悪い、もう少し離れてくれる」
と聞きなれた声が鼠顔の化け物から聞こえる。
えええ~
我に返った私たち(ミコとヤヨイ)が叫び声をあげる。
その声は、間違いなくマコト君の声だった。
その姿を見て驚いた顔で
「突然の成長期に入ったのマコちゃん」
ヤヨイさんは、とんでもないことを口走る。
いやいや、成長期でもおかしいでしょ。
体つきも変わってるし、何より鼠顔になってる。
というか、鼠でしょ。
と声にならないツッコミを考える。
それは、マコト君に伝わっており、
「そういうのは、終わってからにしてくれよ」
と、マコト君の批判が来る。
ネズミの化け物は、
頭を掻きながら背を向け
『間に合ったようで安心した。後は任せろミコ』
と念話を送ってきた。
見た目が違うが紛れもなく、マコト君の声だ。
その声に安心してしまい、その場に座り込んでしまう。
座り込んだ私に
「結構、慌ててたよ、マコトの奴。君のことが余程心配みたいだった」
とコウさんが悪びれもせず、明かしてしまう。
その言葉に少し顔がほてる。
そうか、心配してくれたんだ。
ちょっと・・・すごいうれしいかな。
なんて考えて居ると
マコト君が、目の前の化け物を殴り飛ばしていた。
吹き飛ばされた化け物は、工場の壁に叩きつけられる。
その衝撃で工場が壊れ、化け物は崩れた瓦礫の下敷きなる
その姿に安心感を覚え、涙があふれる。
結構なシリアスの状況が、青春真っ只中になっていたのだ。
これで、化け物が居なければホントにいいのに。
なんて不謹慎なことを考えてしまった。