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アンティーククロック~復讐を目指す非常識現実生活~  作者: 団栗山玄狐
第一章 古き神事と理(ことわり)の捉え方
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act9 フライング 四

主人公視点、ヒロイン視点です。


pm4:00頃(16:00)

近隣の自然公園にて




私は、広場の端まで行き振り向くと

棍棒を持つ男子が久野に襲い掛かるのが見えた。


慌てて携帯を出し、

メモリを探す。



呼び出す相手は、もうわかっている。

男子が持つ武法具は金剛杵というもので、それを使う刻印者は干支で言うと亥をつかさどる神社の人になる。



つまり、亥の神社であるクビラ神社の巫女を呼び出せばいい。

でも、指が震える。


突然、襲い掛かってくるなんて思わなかった。

事前にこんなことも起こると言われていたから、まだ気持ちを落ち着けて居られるけど

普段こんな事に出くわしたら冷静になんていられない。


でも、急がないと、この状況を止められるのは彼女しかいないんだから。

震える指で彼女の番号を押す。


久野たちを今は怖くて見れない。

気持ちだけがはやる。



早く早くという思いが携帯のコール音をもどかしく感じさせる。



長く感じるコール音の後にガチャという音がなり



『はい、井守いもりです。何?安村さん』

と、いらだちを感じるような声色で若い女性の声が響く。


「よかった、出てくれた。あの時間がないんで要件を言います。

学校近くにある別井べっつい自然公園の中の桜木の里まですぐに来てほしいの!急いで!」

大き目の声で言うと


『なんでよ?もう神事に入っているんですからね。なれ合いは出来ないでしょう、もうお互いにライバルになるんだから。意味のないことを出来ないわ』

と冷静に言ってきた。



言い分は間違えてない、間違えてないんだけど・・・



私ははやる気持ちを抑えて説明をする。


今の状況を順番に・・・


多少言葉足らずで、早口にはなっていたと思う。


それでも必死に伝えた。


それを聞いた携帯の向こうの彼女は

『うそでしょ。あのバカ、ホントにそんな事してんの?』

と慌てていた。


「金剛杵だっけ、白いバットみたいなやつ振り回してる。

えっと確か青田ケンジ(あおた けんじ)先輩だよね、彼。

何とか止めに来てよ、こっちの言い分を聞いてもくれないの。急いで」


『わかったわ、何とかもたせなさい。くれぐれも反撃させないでね、いいわね』

というと携帯を切った。



その言葉に違和感を感じつつも私は切れた携帯を握りしめ、彼等に視線を向ける。

何とも無茶なことを言う。


襲い掛かってくる人間に反撃するな、何て。


でも、久野は必死によけている。


カッコいいとは言えない無様なよけ方をしているけど、まだ無事だった。





私は安心した。




でも、相手はやる気だ。




彼は、久野君はボロボロだけど、まだしっかりとした動きを見せていた。




それをみて思う。




何が、彼をここまで必死にさせるんだろう。



神事とは言え、ただの暴力行為をするだけの試合だ。






痛い思いして





辛い思いして





それでも食い下がる価値のある物なのかって。




でも、無様に情けなく見える彼が、何故かカッコ悪いとは思えなかった。





相手は、こちらの事をお構いなしで棍棒を振りまくる。


規則性もなく力任せに、凶暴な笑みを浮かべ。


オレは、ひるむ間もなく向かってくる凶器をよける。

頭を下げ、仰け反り、かがみ、時には転ぶ。


見た目には、抵抗できずに無様に逃げているだけだ。


何故抵抗しないのか?


「青田ケンジ先輩、改めて言うけどこんなこと止めましょう。これじゃあ、ただの暴力沙汰でしか無い。

意味なんてないですよ」


「は、刻印者同士の戦いなら問題ないだろ、お前も抵抗しろよ。練習にもならないだろ、それとも逃げることしか出来ないのかネズミ!」

この言葉で確実に相手を選んでいることがわかる。


ビカラ神社の巫女である安村の後をつけて来たんだ。


確実な確信犯だ。


「始まりの祝詞を聞く前の戦いはただのフライングだ。失格になるだけで都合の良い神様の加護何て無いんだよ。ここでやめれば未遂で済むし、先輩の経歴にキズもつかない」


「はっ??何言ってんだ。もうゲームは始まってんだ。嘘ならもっと気の利いたこと言えよ」

目に宿る狂喜は消えない。



突然手に入れた強大な力。



浮かれる心と手に入れた力を使ってみたいという好奇心。


そして、守られている安心感。



ここまで条件がそろえば、気持ちを抑えられないのもわかるけど・・・巻き込まれるこっちはいい迷惑だ。



「嘘じゃないですよ、相棒からキチンと話し聞いてないんですか。ココが引き時ですよ、試合でもそうでしょう」



「たしかにゲームでは勝機と流れを読み間違えない事だ。いま、踏み込み時だよ。てめえも抵抗して見せろよ」

と、棍棒を振る手と踏み込む足を緩めない。



「こんな野良試合でゲームの理屈何て無いでしょ。練習試合でもない、意味ないただの暴力沙汰だ」そんなご都合発生するわけないでしょう」



「何言ってやがる、このゲームでは都合よくもみ消してくれるんだろ。神様が!!」



何言ってんだろこの人。

それは、決められたルールでの話だ。

こんな野良試合で、しかも試合開始すらされていない状況で、

審判役の神様がそこまでのアフターケアをしてくれるほどお人好しじゃないのに。

 

考えればわかるだろうに。


目の前の先輩は、凶暴な笑みとランランとした狂喜が灯っているようだ。







ここまで来ると好奇心がアクセルとなり楽しくて仕方がない状況になっている。







これでは、止まらない。止まる気も無いのだろう。










ええい、メンドくさい。








てめえの勝手な理屈でこっちを巻き込んでくれるなよ。







「それは決められた順序守って、指定された会場で戦う場合でしょうが!!

何、酔ってだよ!冷静になりやがれ!!」

思わず声を荒げた。



話しを聞かない、聞く気も無い。



手に入れた玩具に絶対の安全があるせいで気が大きくなってやがる。

話し合いでは止まらない。



なら反撃するか、怒鳴り散らしてでも正気にさせるしかない。


「はっ、負け犬風情の遠吠え何て意味ねえよな」

やっぱり揺るがない。

ニヤリと見下すような目でこちらを見てくる。



今の自分の行動の正当性があるから間違えてない。


これがある。



どこぞの原理主義者かネット信者と同じだ。





名前と顔が仮面で隠されていることによる安全性の上に

神様という得体のしれないモノからの大義名分が自分の行動に正当性を与えている。








これは、正しい行為だ、間違っていない。






都合のいい暗示。





こうなると、もう止まらない。




決定打が来ない事には。




まったくこっちが冷静なのが、バカらしいく感じるわ。


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