act プロローグ
目の前に広がる火の海。
その中に巨大な顔が尖ったヘビのような化け物が浮かぶ。
大人たちは逃げまどい、オレの親はオレを逃がそうと又は隠そうと床下収納にオレたちを押し込む。
父と母は煤だらけの顔に満面の笑顔を浮かべ、
「ここに隠れていれば大丈夫だからね。耳をふさいでみんなで体を寄せ合って静かにしているのよ。
そうすれば必ず助けは来るからね」
と言ってフタを閉じる。
いつもそこで目が覚める。
父と母の抵抗する叫びが脳裏を離れない。
炎の中にいた化け物の声らしきものが耳にこびりつく。
救助された時見た景色が目に焼き付く。
それらを振りきるつもりで他の事にのめりこんだ。
忘れようとするたびにこびりついた声は響き、焼き付いた景色は映る。
お前を逃がさないと言わんばかりに。
だからオレは決めたのだ。
消えない音と絵があるのならその元凶を叩き潰せばいい、と。
そのことを兄と慕う人に言うと「お前はそんなことしなくてもいい」と言われ、
優しい笑みを浮かべた。
姉と慕う人には「そんな事忘れて幸せになりなさい」と言われ、泣かれた。
オレは知っている。
兄と慕う人は未だに化け物の事を調べている。
振り切ることが出来ずに・・・
姉と慕う人は未だに悪夢にうなされている。
オレと同じように・・・
だから決めたのだ。
オレは。
今日この日に決意した。
そして覚悟をするために、その覚悟を自分自身に認めさせるためにこの都市で一番長いと言われる階段がある神社を上り、光の柱を見ると。
なぜ見るのか?意味なんてない。
敷いてい言うなら、一番長いと言われる階段を上り切り、その光の柱を目に焼き付けることで
オレ自身の覚悟を忘れないためだ。
この都市は奇妙な形をしている。
周囲を山に囲まれ盆地と呼ばれる地形で、都市の中央には湖があり
その湖の南に小さな島がある。
その島と湖の対岸まで橋がかけられており、島にある寺か神宮あり湖を神として祭る自然信仰が行われている。
湖を囲むように八つの御堂があり更に都市を囲むように十二の神社がある。
湖の周りには、波紋のように道がいくつもあり、その波紋の様な道を突き刺すように十字道が直線である。
そして年に一度夏至の朝に湖の中央から光の柱が現れる。
都市を上から見るとまるで巨大な時計のように見える。
ちょうど十二の神社は、時計盤の数字のように配置されているので特にそう見えるのだ。
昔の何者かがこの都市をそのように作り上げ、湖に何かを封印したともいわれるいわく付きの場所だ。
湖を八つの御堂で封印し、更に十二の神社と波紋の様な道で何重にも結界を張っているようだ。
その特異な都市の形状からいつしかこの都市は、本来の名前ではなく別名で有名となる。
アンティーククロック・・・いにしえの時計都市、と。