DSK
「ここ数年、プロ野球では盗塁の数が激増している」
春季キャンプで、コーチが選手たちに言う。
「特に、うちのチームは盗塁される数が非常に多い」
そうなのだ。リーグ平均の倍近くある。かなりまずい。
とはいえ、これでも少しは改善したのだ。昨年の春季キャンプでしっかり、「盗塁対策」に取り組んだ結果だった。
しかし、まだまだ多い。
「したがって、今年の春季キャンプでも、『盗塁対策』を重点項目とする!」
他球団からあれほど盗塁されまくったのに、昨年はAクラスだ。盗塁される数が激減すれば、きっと優勝を狙えるはず。
オフの間にも、「盗塁対策」として、牽制のうまい投手と肩の強い捕手を、FAで補強している。
自分たちは盗塁しまくるが、相手選手たちには盗塁させない。その下地を、この春季キャンプでつくって、優勝を目指すのだ。
そのために、特別講師をお招きしていた。「盗塁対策」の秘密兵器。
「『DSK』の元世界チャンピオンだ」
歴代最多の優勝回数を誇り、一昨年まで七年連続で世界の頂点に輝いた人物。
選手たちは驚いた。『DSK』とは、『だるまさんがころんだ』の世界公式種目だ。その世界チャンピオンが目の前にいる!
たしかに、『だるまさんがころんだ』の極意があるのなら、それは「盗塁対策」に応用できるかも。
昨年までで『DSK』を引退したそうだから、それで時間ができたのだろう。これで他球団を大きくリードした。
同時刻、昨年の優勝球団では、
「今年の春季キャンプでも、『盗塁対策』を重点項目とする!」
こちらも特別講師をお招きしていた。
コーチが選手たちに言う。
「『DSK』の現世界チャンピオンだ」
優勝したのは一回だけ。しかし、昨年の優勝はすさまじかった。
その斬新な戦法に、これまでの『DSK』の常識がいくつも覆されたのだ。今後はこちらの戦法が主流になっていくと思われる。
「時代は変わる。盗塁も同じことだ。より良い方法があるのなら、柔軟に取り入れるべきだろう」
コーチは力強く言うと、
「では世界チャンピオン、ご指導をお願いします」
「わかりました。まずは普通にやってみましょうか。私が鬼になります。みなさんの実力を把握したい」
こうしてプロ野球の春季キャンプで行われる、選手全員参加の『DSK』。
「だーるまさんがーこーろんだ♪」
世界チャンピオンは明らかに手加減をしているが、選手たちは本気である。
この時たまたま、近くの幼稚園の園児たちがキャンプを見学に来ていて、
「あっ! あの人、頭が動いたよ!」
最悪の状況での『DSK』となった。
(幼稚園の先生、その子たちを止めてくれよ)
そう選手たちは思うが、
「じゃあ、動いちゃった人を、みんなで見つけようか♪」
先生の一言で、さらに難易度がはね上がるのだった。
次回は「におい」のお話です。