ある本を探しています
オランダの老舗出版社が半年後に、創立一〇〇周年を迎える。
それに伴い、さまざまな企画を行う予定で、その中にこんなものがあった。
――この会社が最初に出版した本を見つけ出す。
およそ一〇〇年前の絵本だ。題名は『野球と風車とチューリップ』で、社内に現物は存在していない。
その本を見つけ出して、一〇〇周年の記念式典で、会場に展示するのだ。
さっそくプロジェクトチームが結成され、『最初の絵本』の捜索を開始した。
題名以外にわかっていることがある。社内に数点のスケッチが残っていたのだ。
スケッチの中には、表紙らしきものも含まれている。完成版の表紙が、これとまったく同じとは限らないが、参考にはなるだろう。
しかし、五か月が過ぎても、その絵本を発見できなかった。
なにせ出版されたのが、およそ一〇〇年前だ。刷った数もそれほど多くはない。もう残っていない可能性もある。
そして、記念式典の数日前になった。
ついにプロジェクトチームは発見する。世界中を飛び回って捜した結果、日本の古本市で、その本と出会った。表紙の絵は、社内にあったスケッチとほぼ同じだ。
プロジェクトチームの一人が言う。
「この時代の絵本は、白黒だったんですね」
表紙が白黒という絵本は、今では珍しい。
さっそく中を確認する。
あれ?
その場にいたプロジェクトチームの全員が一斉に首をひねった。
「この絵本、カラーだったんですね」
中もてっきり白黒だと思っていた。表紙は白黒なのに、中はカラーだ。どのページの絵にも色がついている。
しかし、よくよく見てみると・・・・・・
「これ、あとから色を塗っていますね」
おそらく絵本を読んだ子どもの仕業だろう。丁寧に塗っているので、ぱっと見だと気づかなかった。白黒の絵本なので、塗り絵感覚で楽しんだらしい。
ほっこりした顔になって、プロジェクトチームのリーダーが言う。
「こういう絵本があっても、いいんじゃないかな」
この本は子どもの手が加わることで、絵本として「完成した」とも言える。
「白黒の時よりも、今風でいいじゃないか」
そして数日後、この絵本は記念式典の会場に飾られ、大勢の人々の注目を集めた。
次回は「ある研究」のお話です。