多数決
四月だ。新しい学年になり、新しいクラスになった。
しかし、このことが事件を引き起こす。
ある教室では、生徒たちのおよそ半数がざわついていた。
「これ、おかしくないか?」
このクラス、異常な比率になっている。
男女の比率の話ではない。
ある部活の生徒が多いのだ。
なんと野球部だけで、このクラスの過半数を占めている!
これは非常にまずい。野球部以外の者たちは気づく。
新しいクラスになったのだ。となると当然、学級委員などの各種委員を、今日にでも決めることになるだろう。
もしも野球部の者たちが一致団結したら、多数決では勝ち目がない。学級委員をはじめとした各種委員をすべて、「野球部以外の者たち」に押しつけてくるかも・・・・・・。
そんな空気が立ちこめる。
野球部の者たちも、さすがに気づいた。自分たちは今、警戒されている。
野球部以外の者たちに対して、火に油を注ぐことになるのはわかっていたが、すぐさま野球部だけで集まった。小声で会議をする。
自分たちが過半数を占めているのだから、多数決では絶対に負けない。たとえば、野球部以外の者を推薦して、そこに票を集めれば、学級委員を押しつけることができる。
しかし、この状況を喜んでいるのは、部員のごく一部でしかなかった。
教室内は今や、二つの派閥に分かれている。「野球部の者たち」と「そうでない者たち」。
後者がいくら結束したところで、多数決では必敗だ。
野球部以外の者たちから、こんな意見が出る。
――野球部の票が過半数にならないよう、何らかの制限を課してはどうか。
野球部の者たちは、過半数の話題を避けて、「仲良くしようぜ」と呼びかけた。「これで今年の文化祭、クラスでやるのは、『野球関連の企画』で決まりだぜ!」という本音を、絶対に悟られてはならない。
しかし、他の生徒たちは疑いの視線を向けたままだ。
彼らはすでに気づいていた。野球部の言葉が「ウソ」だった場合、それがわかった時には、手遅れになっている。自分たちばかりが、学級委員などの各種委員を押しつけられているに違いないのだ。
教室内の雰囲気が険悪になっていく。
そんな中で野球部の一人が、真剣な顔で提案した。
「みんな、聞いてくれ」
それは、クラスを一つにまとめるためのアイデアだった。
この提案に対して、野球部以外の者たちは迷った。
良いアイデアだとは思う。
しかし、大きな問題点があった。「野球部が組織票を使って悪さをするのでは?」という疑念は、拭いきれていない。
その上で、この提案にのると、最悪の場合・・・・・・。
だが、このままクラスの雰囲気が、ずっとピリピリした状態で続くのも嫌だ。
だから、提案を受け入れることにした。
もしも野球部が裏切ったら、今後は絶対に信用しない。野球部に対して「絶交」状態に入る。卒業するまで無視だ。クラスの雰囲気が、ずっとピリピリした状態で続くことになるが、仕方がないだろう。すべて野球部が悪いのだ。
「わかった、それで構わない。大丈夫だ、信じてくれ」
そして、教室に先生がやって来た。
やはりと言うべきか、学級委員をはじめ各種委員を決めるという。
まずは学級委員だ。立候補者はいなかったので、各自が推薦したい者を、無記名で投票することになった。
その開票結果に、先生は唖然とする。
生徒たちの投票、そこに書かれている名前はすべて同じ。
先生の名前だった。
「ということで、圧倒的賛成多数により、今日から先生が学級委員です」
生徒たちが声をそろえる。
「じゃあ先生、さっさと他の委員も投票で決めちゃいましょう♪」
クラス全員の心が今、一つにまとまっていた。
次回は「古い絵本」のお話です。




