ある日のフォーメーション
サッカーの日本代表戦を見た。その劇的な勝利に興奮して、あるプロ野球選手は眠れなかった。
今から無理に眠ろうとしても、かえって遅刻しそうな気がする。
それならと、朝早くに自球団の本拠地球場を訪れた。これから自主練をするのだ。軽く体を動かしたあとにシャワーを浴びて、ロッカールームで仮眠をとっていれば、誰かが起こしてくれるだろう。遅刻することはないはず。
ところが、一番乗りだと思ったのに、すでに他の選手が何人か来ているようだ。球場の中から、若手選手たちの声が聞こえてくる。
グラウンドに行ってみると、若手選手たちが奇妙なことをしていた。ユニフォーム姿で外野の芝生に寝そべっている。
あいつら、何をしているんだ?
ベテラン選手は物陰に隠れて、しばらく観察することにした。
すると、若手選手たちが起き上がり、それぞれが少し移動してから、またもや芝生の上に寝そべっている。
外野席の上の方には、球団の広報スタッフがいた。デジカメを構えて写真を撮っている。
何かの企画かな?
若手選手の数は十人。
外野フェンスから見て、五人、三人、二人と、三段に分かれて寝そべっている。
次に移動したあとも、やはり、五人、三人、二人だ。どうやら、あの配置は決まっているらしい。若手選手たちはローテーションで場所を入れ替えているようだ。
○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○
○ ○
それを見ていて、ふとサッカーの日本代表戦を思い出す。
選手紹介の時に、こういう配置を目にした。サッカー用語でいうと、5-3-2のフォーメーション。ディフェンダーが五人、ミッドフィルダーが三人、フォワードが二人の陣形だ。
ただし、ゴールキーパーがいない。
こんな朝早くだし、若手選手の一人が遅刻したのかも。
(だったら・・・・・・)
ベテラン選手は物陰から姿を現すと、若手選手たちの方に歩いていった。
翌日、ある球団の若手選手十人とベテラン選手一人が一斉に、それぞれのブログに、あの「5-3-2のフォーメーション」の写真を載せた。
三月三日のことである。写真の題名は「ひな人形をやってみた」だ。
一番下の段には五人(『五人囃子』)。
二番目の段には三人(『三人官女』)。
一番上の段には二人(『男雛』と『女雛』)。
それを外野席から撮った写真である。
五+三+二=十。参加している選手は十一人なので、一人は休憩だ。
三月三日、このサプライズ企画はファンの間で話題になった。「ベテラン選手が入っているバージョン」、「入っていないバージョン」、どちらも好評だ。
特に、「ベテラン選手が入っていて、しかも、眠っているバージョン」は一番人気があった。
次回は「多数決」のお話です。