お買い得な理由
細かい説明は省略する。
なんやかんやで、俺はゲームの世界に転生したらしい。
目の前には店がある。所持金がいくらかあることだし、ここで武器と防具をそろえようかな。
さっそく店の中に入る俺。
入ってすぐの棚に飾ってある商品を見て驚いた。
安い! 今の所持金で、『マキシマム・ソード』と『マキシマム・フルアーマー』が買えちゃうのだ。名前や見た目からして、かなり強い装備っぽい。
さすがに怪しいので、試着させてもらう。
うーむ、どうも本物のようだ。
なぜ安いのかを疑っていると、店主が教えてくれる。
「こういうものは、あまり売れなくてね」
なるほど。たしかに、この装備は見た目が無骨すぎるし、かなり重い。
この店には置いていないようだが、同じくらいの性能で、かっこよくて軽い装備が他にあるのなら、普通はそっちを買うだろう。
しかし、俺はまだ駆け出しの冒険者だ。最初はこれでいい。
所持金のほとんどを使ってしまったが、こういう「転生もの」のお約束は知っている。『ギルド』に行って依頼を受ければ、それで金が手に入るはずだ。
装備を整えて、笑顔で店を出る俺。
数分後になって、大きな間違いに気づく。
「このゲームって、RPGじゃなかったのかよ!」
野球ゲームだったようだ。
スポーツショップに入った俺は絶望する。
この世界で成り上がるためには、野球道具が必要らしいのだが、
「バットが高すぎる!」
今の所持金では、バットどころか、ボールを買うことさえできない。
最初の所持金があれば、バットやグローブなど、最低限のものを一通り買いそろえることができたのに・・・・・・。
俺は『ギルド』に行ってみる。
掲示板の前でしばらく探してみたが、草野球の助っ人とか、そういう依頼ばかりだ。モンスター退治なんて一つもない!
この世界において、『マキシマム・ソード』と『マキシマム・フルアーマー』は、ただのコスプレアイテムだったとは・・・・・・。
どうりで安いはずだ。
さらに、困ったことがある。どこの店に行っても、『マキシマム・ソード』と『マキシマム・フルアーマー』の買い取りに応じてくれないのだ。
「どうするんだよ、俺!」
再びスポーツショップに戻ってくる。
店員さんに聞いた話だと、「野球道具を装備しないと、野球関連の能力はほとんど上がらない」らしい。ぐぬぬぬ。
今の俺に買うことができるのは・・・・・・。
「この世界に『なわとび』でも流行らせるか」
やけくそに言ってみた。前途多難である。
次回は「ドーム球場」のお話です。




