在宅ワーク
赤ちゃんが眠ったのを確認して、隣の部屋に移る。
そこにはノートパソコンが置いてあった。今の内に、本日の仕事を片づけておこう。マイク付きのヘッドフォンを装着した。
仕事用のソフトを起動させると、「パスワード」を入力する。さらに「試合の日付」も入力した。
SFに出てきそうな野球場の映像が、パソコン画面に表示される。これからプロ野球の試合が始まるのだ。
映像の隣に、片方のチームのスターティングメンバーを表示させる。それを順番に読み上げていった。
すると、自分の声が映像の中からも聞こえてくる。そう、この声がそのまま野球場内でも流れているのだ。五〇年後の野球場で。
これは未来からの仕事だ。
五〇年後と比べて、現代は人件費が安いらしい。それで、こういう仕事が密かに、現代に回ってくるのだとか。
もっと前の時代、たとえば奈良時代とかでも良さそうなものだが、話し言葉が違いすぎるという。
また、タイムマシンの性能上の問題もあり、ちょうどいいのが「現代」だと聞いた。
一人で子育てをしているので、こういう仕事は本当にありがたい。
五〇年後と比べて人件費が安いといっても、現代の感覚だと悪くない給料だ。
家にいながらできるし、途中で「一時停止」にもできる。そして続きは翌日に。五〇年の時間差があるので、そんなことが可能だ。
少し仕事をしてから、試合の途中で「一時停止」にする。
この仕事をしていて、ふと考えることがある。
どうして自分が選ばれたのか。他の人という選択肢もあったはずなのに。
(もしかして・・・・・・)
隣の部屋では赤ちゃんが寝ている。
(あの子が将来、タイムマシンを発明して、未来から親孝行してくれているのかも)
パソコン画面に映っている五〇年後の試合は、まだ一回の裏が終わったばかりだ。
次回はたぶん、「お金もうけ」のお話?