白い風船
元プロ野球選手の俺は現在、球団職員をしている。
今日は仕事が休みなので、一人で遊園地に来ていた。
昔ながらの遊園地だ。平日ということもあって、お客さんもそれほど多くはない。
缶コーヒーを片手に、メリーゴーランドや観覧車などをのんびり眺めて過ごすのが、俺の密かな楽しみだ。三か月に一回は、ここに来ている。動物園や水族館にも、同じような頻度で通っていた。
とはいえ、そろそろ閉園の時間だ。
俺は遊園地の外に出る。ここの職員さんたちとは、すでに顔なじみだ。
ふと、気になるものを見つけた。
職員さんの一人が、無料で風船を配っている。小さな子ども限定のサービス。大人には笑顔だけだ。
売店の商品のあまりかな、とも思ったが、風船の色はどれも白だ。あの色だけ売れ残ったのだろうか?
俺は駅への道を歩いていく。少し前には親子連れがいて、子どもが白い風船を持っていた。
何分か歩くと、急に暗くなってくる。
そろそろ、そんな季節か。日が沈むのが早くなったものだ。
周囲が暗くなってきたので、少し前にいる親子の姿も見えにくくなっている。
しかし、白い風船は目立っていた。あの下あたりに、子どもはいるのだろう。
道の反対側から来た自転車が、スピードを出したまま一気に通り過ぎていく。
その直後に俺は気づいた。あの白い風船の意味に。
(夜道でも目立つようにか)
子どもは小さい。車からは気づかれにくい存在だ。
だから、ああやって白い風船を持つことで、交通事故の予防になる。しかも、風船をもらった子どもも嬉しい。
(これは、プロ野球でも真似できないかな)
あのくらいの子どもなら、球場でも目にする。そんな子どもたちに夜の試合、帰りに球場の外で、白い風船を配ったらどうだろうか?
俺は頭の中で少しずつ、上司に見せるための企画書、その内容を練り始めた。
そして、こうも考える。
マンガやアニメなどの表現で、「アイデアを閃いた時に、頭の上に電球がつく」というものがある。
(あの白い風船、その電球のようにも見えるな)
アイデアのヒントは、色んな場所に転がっている。
次回は「申告敬遠」のお話です。