脳内設定
学生野球の試合中、俺は打席に向かう。この試合で二回目の打席だ。
二塁には、足の速いランナーがいる。同点に追いつくチャンスだ。
とはいえ、すでにツーアウト。あと一つのアウトで、希望が潰えてしまう。
俺は考えた。こんな時は、さらに自分を追い込んだ方がいい。そうすることで、自分の内側にまだ眠っている力を覚醒させるのだ。それで勝てる。
そんなわけで、次のような『脳内設定』をつくってみた。
俺はゲーム世界の「光の勇者」で、魔物ヘンリルにさらわれた「姫」を助けようとしている。
しかし、姫は今まさに、ヘンリルに頭をかじられようとしているのだ。絶体絶命の大ピンチ。
もしも俺がこの場面でヒットを打ったら、姫の救出に「成功」したものとする。
それでは勝負だ。俺は気合いを入れて、相手投手をにらみつける。
この一分後、審判が叫んだ。
「ストライク! バッターアウトー!」
俺の脳内で姫は、ヘンリルの「おやつ」になってしまった。
すまん、姫。俺の力が足りなかったばかりに・・・・・・。
しかし、まだ試合は終わっていない。ずっと落ち込んでいるわけにもいかないのだ。
俺はすぐに気持ちを切り替える。
今になって思う。一打席目の『脳内設定』で、姫を「三つ子」にしておいて良かった。
つまり、あと「一機」残っている。次の打席では必ず・・・・・・。
しかし、誠に遺憾ながら、三人目の姫も、ヘンリルの「ごはん」になってしまった。姫たち全滅。本当にすまん。
このままではいけない。四打席目を前にして、俺は真剣に考える。
たぶん、「姫」という設定がいけなかったのかも。そうだな、今度は「魔法少女」にしてみるか。そっちの方がおそらく、俺の嗜好に合っている気がする。
えーと、俺は「光の魔法使い」で、魔物ヘンリルに襲われている「魔法少女」を・・・・・・。
そして、四打席目だ。今度こそ、打つ! 絶対に打つ!
ところが、監督が別の選手を代打に送った。
おのれ、ヘンリル! 卑怯なまねを!
次回は「小学生の女の子」が出てきます。