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嫁の日記は俺の心を殺した

作者: haya-neru

孤独な男の独白。お口に合わない場合はすみません。

 順風な俺の結婚生活は、たまたま見てしまった嫁の日記で簡単に壊れてしまったんだ......。


 俺は倉木 仁(くらき じん)。現在の年齢はアラサー。地方で1人、細々とした生活を送っている。数年前までは都会に住み、それなりに大きな会社で働き家庭も持っていたんだけどな。どうしても誰も知らない場所へ来たかったんだ。あの出来事から数年が経過しても、未だに悪夢が蘇る日々に悩まされ続けている。一度壊れた心は、そう簡単には修復できないんだよ。




◇◇◇




 大学時代に知り合ったパートーナーの(めぐみ)と大恋愛の末に結婚。卒業と同時に籍を入れたので、当時はお金も無く遊びに使えるお金も少なかったが、お互いに工夫しささやかな幸せを感じる日々だった。恵も生活を助けるために仕事に就き、俺はそんな生活を守る為に懸命に働いたよ。数年もすれば少し余裕を持てるまでになったんだ。それでも将来の為に貯金を作る目的で共働きは続く。余裕が出来るまで子供は作らない約束もした。そこはキチンと二人で話し合いをした上でだったから、不満も無かったんだけどな。


 両方の親からは孫の顔が早く見たいとせっつかれてはいたが、その度にきちんと説明をして理解をして貰った。年齢的に急ぐ必要も無かったし、何より休みの日にこれまで行けなかった旅行などに行く楽しみもあったんだよ。家の中に少しづつ増えていく真新しい物を見るたびに、もっと頑張ろうとも思えていた。


 そんな生活に陰りが見えて来たのは、お互いの仕事が忙しくなった事。それまでは合わせていた休みも、休日出勤などもあり殆んど合わなくなったんだ。一度その事で話し合う時間も作ったんだが、恵は今の仕事にやりがいを持っていて辞める気は無いと言った。俺としては少し寂しい気持ちだったが、愛するパートナーが頑張っていると思いそれ以上は何も言わなかった。今思えばこの時点で何も気づいていない俺にも問題があったのかも知れない。


 ある日。俺は休日を自宅で1人で過していた。その時期は仕事もかなりハードだったから、起きたのは既にお昼を過ぎていたんだ。


「はぁ。たまには恵を送り出してやるつもりだったのに」


 お互いの休みが合わないから、休みの日も早起きして2人の時間を作るつもりだったんだ。そうでもしないと、すれ違うだけの生活になってしまうからさ。将来の為の貯蓄と言う目的があるとは言え、働くだけの日々には幸せを感じられない。まぁ起きれなかった事は反省し、同じことを繰り返さない様にしよう。俺は自分の頬を叩き、気持ちを入れ替える。


 この日はこれまで出来なかった家事をするつもりだった俺は、早速部屋の掃除や溜まった洗濯物をし始める。元々家事は嫌いではないので、どちらかがすれば良いと思っている。恵は最近サボり気味だが、仕事が忙しそうだから特に文句も言っていない。


 俺は数か月前から分けた恵の寝室へ入る。俺は嫌だったんだが、お互いの生活ぺースが合わないから申し訳ないという恵の提案に折れたんだ。確かに残業で帰りが遅くなり気味だった俺は、そう言われてしまうと反論も出来なかったんだけどな。恵の寝顔にキスするのも楽しみではあったんだけど......。


 そんな訳で最近は夜の生活も無し。これも共働きの間は仕方ないんだと思うが、一体何時になったら結婚当時の様な生活に戻れるんだろうか。


「いかんいかん。色々考えると気分が滅入るだけだ」


 再び気合を入れ直し、少し散らかっている恵の寝室を掃除する。あまり触り過ぎると怒られるから、普段はゴミなどを捨てるぐらいなんだけどな。たまに脱ぎ捨てた服などもあるから、俺は何気にベットの下を覗いたんだ。


「ん? 何だあれ?」


 俺が見つけたのはA4サイズの日記帳だった。そんな物は結婚してから見た事も無かったし、恵が書いているのも見た事がなかった。だからと言って勝手に見てはいけないとは思った。でも目の前にある物に好奇心が湧いてしまい、悪いとは思ったが中を見てしまったんだ。


「何々。これって結婚前からの物か。アハハ。懐かしいな」


 そんな事を呟く程、俺は懐かしさを感じていたんだ。だから余計に何が書いてあるかが気になった。最初の方はその日に合った事が書かれていて、俺も当時を思い出しながらとても優しい気持ちになる。しかし読み進めていくと、そんな気持ちも吹き飛んでいく。


 ......何だこれ? これは本当にあの恵が書いた物なのか? 


●●●

 ○月×日。今日は仁から婚約指輪? を渡された。もうショボすぎて笑える。必死に顔に出さない様にしたけどありえない。こんなの売ってもお金にならないじゃない。マジで最悪。友達には絶対見せられないよね。



 そう言えば俺が贈った婚約指輪を嵌めている姿は見た事が無い。最初こそ気になったりはしたが、常に身に着けるものでもないから聞く事は無かったけど。もしかして売ったのか? 必死にバイト頑張って、一生懸命に店員さんと相談しながら買ったんだけど? 嘘だよな?


「いやいや。勝手な妄想はしては駄目だ。でもそんな風に思われてたのはショックだけどな。安い指輪だし仕方ないか」


 これ以上変な事を考えたくないから、そこで読むのを辞めにしようかと思った。でも好奇心はそんな気持ちを上回り、よせばいいのに続きも読んでしまったんだ。その事を後悔しない日は無い。



●●●

 ○月×日。今日は結婚式。親にお金出して貰ってそれなりの式にはなったけど、はっきり言って恥ずかしい。私の結婚式がこんなに貧相だなんてありえない。それに何? この結婚指輪。デザインはダサいし安物。ゴミが贈る物は生ゴミだわ。指に嵌めるの嫌だし、仕事の邪魔になるって言おう。まぁこんなの彼には見せられないけど。あぁ早く会いたいなぁ。


 ○月×日。こんな貧乏生活あり得ない。まぁ彼がいつも高いお店に連れて行ってくれるから良いけど。ホント親の手前とは言え、貧乏人と結婚とかするんじゃなかった。顔がそれなりじゃ無かったら、候補にもならなかったのに。早くこんな生活とおさらばしたいわ。


 ○月×日。今日の彼も最高だった。もうアレを知ってしまうと同居人と寝る気にもなれない。もう少しお金が貯まれば、サッサとゴミを捨てて出て行こう。それまでは我慢我慢。


 ○月×日。寝室分けるって言ったら、ゴミが悲しそうな顔してんのマジでうける。お前と一緒に居る事が苦痛だっつ~の! そろそろ頃合いかな? でも彼が奥さんと別れてくれないと駄目だ。何時まで待てばいいんだろ? 早く二人で生活したい。


 ○月×日。いっそDVでも捏造して貯金丸ごと頂こうかしら。まぁゴミは私に反論できないし簡単そうだけど。目標額まであと少し。それが溜まったら......ウフフ。



 もう読んでいる間に、涙で前が見えなくなっていた。俺が幸せだと感じていた生活は全て幻だったんだ。あはは。俺はゴミか。確かに甲斐性無しの貧乏人だったよな。彼って誰だ? 既婚者か? 俺はそんな男に負けているのか? 恵はその男と一緒になるために俺と偽装結婚したのか?


 どれだけの時間惚けていたのだろうか。我に返ると外は暗くなっていた。俺はその日記を静かに戻し、自分の寝室へ入る。何もする気が起きない。布団に入り目を閉じても、頭の中には日記の文字が躍る。くやしい。俺は一体何の為に頑張っていたのだろう。そんな事ばかり考えていた。


 次に意識が戻ったのは翌朝。けたたましく鳴る携帯のアラームを消し、ぼぉッとする頭でベットから出る。そう言えば風呂にも入っていなかった。俺は静かに寝室から出て熱いシャワーを浴びた。浴室の鏡に映る俺の顔は、少し目が腫れていた。情けない。本当に俺はゴミみたいな男だな。


 食欲がないから朝ご飯は食べず、俺はスーツに着替えて家を出た。今日は恵が休みだったはずだが、朝は起きてくる様子も無かった。昨日も例の彼に会っていたのか? それで抱かれて起きれない? どんな顔をすれば良いのか分からなかったから、俺にとっては好都合だったけどな。駅まで歩く間、考えるのはやっぱり昨日見た日記。すると当たり前に嵌めていた、左手の結婚指輪が目に入る。こんな物いらない。ゴミで悪かったな! ちきしょう!


 外した指輪を投げ捨てようとしたが、俺はグッと堪えた。こんな物でも売ればお金になる。だから我慢しないと。ここに来てやっと俺の心にスイッチが入った。何で俺がこんな目に合わないといけないんだ? 俺が何をした? くやしい。憎い。俺をこんな気持ちにさせた奴らに復讐してやる!


「もしもし。おはようございます。今日は体調不良で休ませて下さい。はい。すみません」


 こんな顔で出勤する気も無くなり、俺は働いてから初めて会社を休んだ。そしてそのまま駅前のネットカフェに入る。何をしに? 復讐の方法を探す為にだ! ネットで検索したのは浮気、制裁、復讐だ。俺は時間をかけてあらゆる手段を検索し続けた。そして先ずやるべき事を1つ1つメモに書き出す。


 今やるべきは確実に追い込むための証拠集めだ。もう何でもやってやる。とりあえず片っ端から興信所へ電話し、料金を教えてもらった。恥ずかしながら恵に気づかれずに使えるお金は少ない。それでも恵に贈るプレゼントの為に、こっそり貯めたへそくりはある。毎日の昼代をコツコツ節約してきたからな。もう阿呆らしいけど。


 そして一番対応の良かった興信所へ向かい、現在の状況を説明。期間は出来るだけ短く済ませたい。それでも予算的には全く足りないが。興信所からは後払いで良いと言ってもらったし、取るものを取ったらちゃんと払おう。だから日記の日付などを思い出し、恵が彼と会う曜日を何となくだが推測した。相手も既婚者だから土日などは避けていたはずだ。だから休日を除く2週間の調査依頼を出す事にした。興信所の職員からは、俺の見た日記の中身を写す必要があると言われたので、そのチャンスを窺った。


 チャンスは次の日に来た。当たり前のように日々送って来る恵からの残業ありと言うメールだ。俺はその日の仕事を急ピッチで終わらせ、定時で家に帰った。そして恵の寝室からあの日記を持ち出し、コンビニで全てのページをコピー。一度日記を元の場所へ戻してから、自分の寝室で取ったコピーを携帯で写しておいた。そのデータを自分のノートパソコンと興信所へ転送。コピーは会社の自分のデスクに保管した。


 俺はそれ以外にも証拠集めの為に使える手段は全て使ったよ。通帳の保管場所の把握は最初にしたが、ここであり得ない事実も判明。夫婦共通の口座に残金が残っていなかったんだ。しかし移された先は恵の結婚前の口座であるのは明白。俺は通帳のコピーも取っておいた。それから家にICレコーダーも仕掛けた。場所はリビングと恵の寝室。これはあまり意味がなかったが。


 興信所からは恵の携帯のチェックもお願いされたが、これが一番ハードルが高かった。この件があるまで意識もしていなかったが、恵は携帯を自分の側から一切離さないんだ。お風呂やトイレにも必ず持って行く。こうなると眠った後しかチャンスが無いんだが、深夜にコッソリ寝室へ侵入すると枕の下に敷いてあるんだ。もうね。諦めようかと思った。


 でもさ。チャンスって待っていれば必ずあるもんだよ。ある日、深夜に帰宅した恵はかなり飲んでいたんだ。俺は眠れない日が続いていたから、当然帰ってきた音にも気づいていた。そして玄関で眠る恵を寝室へ運ぶついでに、携帯を奪取。幸いな事にロックは指紋認証だったから、簡単に外す事が出来たよ。ラインや写真のデータを確認しないで全てパソコンへ転送した。かなりの時間が掛かったんだが、ぐっすり眠る恵にもバレる事は無かった。俺は携帯を普段通りに枕の下へ敷いてやり、何事も無かった様に過ごした。


 俺はそのまま寝ないでそのデータを確認。もうね。真っ黒。ラブメールやら嵌〇画像やらわんさか出てきたよ。俺はそれを見ながら何度もトイレへ駆け込み吐いた。ネットカフェで調べていた時にそう言う知識も得ていたが、実際に見ると気持ち悪くて仕方がなかった。でもそれで俺の恵への気持ちは完全に冷めたよ。見終わった後に残るのは、強烈な憎悪だけだった。


 興信所の調査の方は予定よりも早く証拠が集まったよ。警戒心の無いプリンたちはかなり大胆だったみたい。そこで俺は紹介された離婚問題に強い弁護士の事務所へ出向く。興信所から受け取った証拠を弁護士事務所へ持参したら、女性の弁護士から確実に勝てると太鼓判を頂いた。例の彼の正体は、俺の結婚式にも招待されていた恵の上司だったよ。年齢は40代で2人の子供を持つ男。役職者だから年収も高く、俺と比べれば月とスッポンなのは間違いない。その事実に流石に凹んだ。祝いのスピーチを聞いて感動した記憶を直ぐにでも消してしまいたかった。どこまで俺をコケにすれば気が済むんだよ? クソ共が!


 そして翌週の月曜日に恵や間男の勤める会社、恵の実家、そして間男の自宅へ内容証明を発射。本来は会社へ送るのは好ましくないが、興信所が勤務中の不貞行為の写真を撮っていたんだよ。だから会社へは職務規定違反じゃないか? というお伺いの形で送ったんだ。弁護士はあまりいい顔していなかったけど、そこは俺の気持ちを優先して貰った。もうどうでも良かったし、名誉棄損とか訴えるなら訴えれば良いさ。


 俺は証拠集めをしながら自分の荷物を整理し、既にウィークリーマンションの契約も終えていた。だから荷物も毎日のように運び出していたんだが、恵には一切気づかれる事はなかったよ。どんだけ俺に関心ないんだろうな? 虚しさだけが心に響いた。


 そしてお昼以降になり、俺の携帯には恵や恵の実家から電話やメールが鳴り続けた。鬱陶しいからすべて無視したし、その日は仕事を休みマンションでのんびり過ごしていたんだよ。溜まっていた有休を使ったんだけどな。もう仕事も辞めるつもりでいたし、休む事に抵抗はなかった。内容証明に連絡は弁護士へって書いてあるから一切携帯は見なかったよ。どうせろくな事書いて無いだろうしな。それでも夜までずっと携帯は鳴り続くから面倒になり電源オフ。


 翌朝電源を入れると着信やメールは数えるのも面倒なほどだった。でもすべて無視。お昼が過ぎると静かになったから逆に不安になったけど。夕方に弁護士の先生から電話があり、間男の奥さんから俺に面会の要望があったと聞いた。俺はそれを了承し翌日に弁護士事務所で間奥さんと面会。年齢を感じさせない美人だったよ。何でこんな人を裏切るんだか。


「此度は主人が大変申し訳ございません」


「いえ。貴女も被害者ですから謝罪は不要です。こちらも私の嫁がすみません」


 そんな会話の後、俺の持っている証拠の一部を見せ事実を確認して貰った。ここで奥さんは泣き崩れてしまったよ。まぁ信じていた人間に裏切られていたんだから、そうなるのも仕方が無いよな。俺だって今の様な気持ちになるのに時間が掛かったし。


 暫く経って落ち着きを取り戻した間奥さんは、俺の持つ証拠を貸して欲しいと言った。俺は興信所の代金の一部を負担して貰う事を条件に承諾。間奥さんはうちの弁護士から、違う弁護士を紹介して貰う事も決まった。こうなるとある程度は共闘する事になるが、俺自身はあまり乗り気ではない。だって何時気持ちが変わるか分からないし。間家族には子供も居るし、親は子供の為なら考えを曲げる事もあり得るしな。


 そしてそれから3日後、恵、恵両親、間男、恵と間男の会社から立て続けに弁護士へ連絡が入った。俺は直接対決する前に弁護士同伴で会社へ出向いた。案内された場所には社長こそいなかったが、それなりの役職を持つ人間に迎え入れられたよ。


 そこで会社から謝罪を受けたが、その時に恵と間男が現在出勤停止になっている事も聞いた。どうも内容証明が届いた日に緊急で呼び出されたそうだ。そこで内容を概ね認めた為、指示があるまで自宅待機になったそうだ。あまり大きな声では言えないが、不貞行為以外にも何やらやらかしもあるそうだ。


「会社の方針に口を出す気はありませんが、厳正な処置をして頂きますようにとは思っています」


「分かりました。こちらとしましても出来得る限りの処分は致します」


 俺がそんな風にしか言えなかったのは、弁護士からきつく言われたからだ。まだ直接対決も残っているし、余計な事を言えば恐喝ととられかねないからだそうだよ。俺も仕方がないので我慢したんだ。


 それから更に2日後。とうとう当事者が集められる事になった。その日弁護士事務所へ集まったのは、俺と俺両親、恵と恵両親、俺の弁護士、そして間男、間男両親、間奥さんと間奥さん両親、間奥さん弁護士だ。俺側に間奥さんも並び対面に恵や間男と言う構図。


 先ずは事の経緯を俺の弁護士が説明する。しかしここで間男と恵が声を荒げる。


「おい! お前余計な事しやがって! やっぱり貧乏人のゴミはやる事も汚いな!」


「そうよ! 生ごみのくせに余計な事して! これじゃあ仕事へ行けないじゃない!」


 などと言う。俺はそこでカッとなったんだが、弁護士がそれを制して落ち着いた声で言った。


「今の会話は録音されています。誹謗中傷で訴える事も出来るんですよ?」


 その言葉で間男も恵も黙った。それから色々と説明は続くんだが、やはり間男も恵も横槍を入れる。


「何処にそんな証拠があるんだ! どうせ捏造でもしたんだろ! 貧乏人がやりそうなことだ」


「そうよ! これだけ尽くしてやったのに、こっちが慰謝料を欲しいぐらいよ!」


 そんな事を聞いても俺の弁護士は意に介さずに話を続け、1つずつ証拠を開示。そして2人にその都度確認を取って行く。最初は騒いでいた2人だったが、次から次へと出て来る明確な証拠にどんどん顔色が悪くなっていった。そして概ね全ての証拠が真実であると認める事になった。


 まぁそこには恵の両親や間男両親が怒号を浴びせたり殴ったりしたからなんだけどな。流石にやりすぎても困るから、俺も止めに入ったけど。ザマァみろとは思ってたが。


 そして落ち着くのを待って俺の要求を突きつける。恵に対しては、慰謝料300万円と共通財産の放棄。離婚の要求。それと俺への接近禁止。間男には慰藉料500万と俺への接近禁止を要求。これは結婚当初から期間が長い事もあり、弁護士から妥当だと言われた金額だ。


 これに対して烈火のごとく反論や減額を言って来たが、俺はその一切を拒否。飲まないなら裁判すると言って突っぱねた。裁判になれば不名誉な記録が残るし、俺としては金額が安くなっても別にいい。お金大好きな恵は共有財産の放棄に首を振らなかったが、そこは恵の両親が無理やりに飲ませてくれたよ。間男も職を失う可能性があるので、次の就職に裁判記録はかなりの問題がある。なので渋々ではあったが、俺の要求を飲むしか無かった。


 そして離婚届を含む示談書へ恵と間男が署名。これで俺の制裁は終わりだ。なんか呆気なくて達成感も何も湧かない。しかしそんな俺とは別に、ここからは間奥さんのターンが残っていた。


「貴方とは離婚します。そして恵さんに慰藉料200万、貴方に慰藉料500万と財産放棄、そして養育費として月10万円を請求いたします」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何も離婚はしなくても!」


「黙れ! こんなに尽くしてくれた間奥さんにお前は何をした! 間奥さん。本当にすまなかった。息子にはキチンと償わせる」


 喚く間男に対して間男父が拳骨で黙らせた。離婚すれば孫にも会えなくなるし、本当に辛いんだろうな。かなり長くなったが、間奥さんの方も二人から示談書にサインを受け取り全ては終わった。恵は帰り際に言ったんだ。


「ごめんなさい。離婚はするけど、もう一度チャンスをください。お願いします」


 ってさ。そんな事を言われても何も信じられる訳が無い。だから俺は日記の一部を見せて言ったんだ。


「汚物の悲しそうな顔、マジでうけるんだけど? そんな奴と一緒に居るの苦痛だわ~!」


 自分が書いた日記を見せられながらそう言われた恵は、真っ赤な顔で何も言わずに弁護士事務所を出て行った。それに続き間男も間男両親に引きずられ出て行く。その後、間奥さんと挨拶をかわし俺も弁護士事務所を後にした。帰り道は全ての気力が失われ、どうやって帰ったのか分からなかったよ。


 その後、俺は勤めていた会社を退職。慰謝料として受け取ったお金で地元から離れた場所へ移住した。そのまま暫く何もする気が起きず、ただダラダラと一日を過ごす毎日だ。


 浮気をする方は何も考えていないのだろうが、された方は確実に心が壊れるんだよ。ネットで調べていた時に出ていた『浮気は心の殺人』と言う言葉が身に染みてわかるよ。信じていた事、費やした時間が全てが無になるんだしな。心の傷はいずれ癒えると思うが、まだ俺はそんな気分にはなれないでいる。


 ちなみに恵や間男のその後は少しだけ聞いたよ。恵は実家からも勘当され、今は行方不明だそうだ。間男は会社内での不正もあり懲戒解雇になったそうだ。財産も無く職も失い何もかもなくなった今、あの男に言いたい事がある。


「生ゴミになった気分はどうだい?」ってな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よきざまぁでした。 ちゃんと制裁できて良かった。 泣き寝入りだけはしたくないですもんね。 (*゜∀゜)*。_。)*゜∀゜)*。_。)
[気になる点] 最後のところですが、「あの男に言いたい事が」よりも「あの男女に言いたい事が」の方がより一層「ざまぁ」という感じが出ていいなーと思いました。 [一言] 今までにない斬新で且つ繊細、記憶か…
[一言] 切り張りコピペ感が強い
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