人類の進化。5
それから三日が経過した。
ほとんど毎日色々と思いついた事を刀魂、井伊直弼に対して実施したが答えは出ない。
蓮を除いた九人は同じ不安や焦りを抱いているのか、あの日を境に誰とも顔を合わせる事が無くなった。それはもちろんエヴァや一夏だって例外ではない。
残された期日は残り四日。焦りや不安を持つなという方が無理であろう。
しかし結果の出ない日々に絶望している時間も無い。とにかく行動あるのみと思った蓮は、学生時代に通っていた道場に足を運んでみた。
蓮に色々と教えてくれた師範も道場にはいるのだが、刀魂を受け取った時の規約上、第三者によるアドバイス等は全て禁止の為、助言やヒントを貰う事は出来ないのだ。
「個人で乗り越えないと行けない壁って、こんなにもキツイんだな」
蓮は腰に差した刀の柄を握りしめて、ふぃーと小さな息を吐いた。そして、
バサッ!
一瞬にして刀を抜き、そして瞬きをするよりも早く刀を鞘にしまう。
蓮が目を開くと、目の前で吊るされていた何十キロもあるサンドバッグは一瞬にして真っ二つになっていた。
「お見事、相変わらず神速だね。蓮」
「ありがとうございます。師範」
蓮の繰り出した一撃の直後、パチパチと拍手をしながら嬉し気な顔で近づいて来る三十代前半の男は、この道場の師範で蓮に刀の使い方を教えた張本人でもある。
「その顔だとまだ答えは出ていないんだね」
「まあ、そう簡単では無いって事みたいです」
「ハメツ部隊の初任務だ。新人とはいえ、そう甘い任務は与えないだろう」
「ですね。けど、絶対乗り越えてやりますよ。俺はもう覚悟しているんで」
そう言ってもう一度、同じ抜刀を繰り出し、更にサンドバッグを切り裂いた。
蓮が選び、極めようとした型は抜刀術。鞘に納めた刀を必要な時、一瞬にして鞘から抜いて敵を斬り、そして次の瞬間には鞘にしまう抜刀術。
鞘から抜いて戦う武士の泥臭い基本的な戦い方を覆すように、鞘から始まり鞘で収まる抜刀術は、武士の間で最も美しい戦い方と知られており技術力がウリである。
「これを見せたら何かしら変わると思って通っているけど、それでも反応は無しか」
一度息を吐いて額を伝る汗を拭った蓮は、もう一度刀に視線を落とした。
井伊直弼。彼は抜刀の達人として有名だ。
だからこそ自らが極めた抜刀を見せ、体感させることで何かしらの変化を期待した蓮であったが、それでもうんともすんとも言わず一筋縄ではいかないようだ。
名案だと思ったからこそ結果が得られなかった時のダメージは大きく、焦りはより加速した。
「井伊直弼。俺は絶対に諦めないからな。何度でも言い直すけん<井伊直弼>――――今日は帰って寝るか」
蓮は静かに思考を停止させたのであった。