人類の進化。4
「ねーね、蓮、エヴァ。どう思う?」
「どうって、一夏、それじゃあ話の意図が分からないけど」
「刀魂の事だよ! 授業では何回も武士の魂の事とかその力の事とか聞いたけどさ、こうして自分の手元に来ると実感湧かないというか、何というか」
「まあ、確かにな。普通の刀とぱっと見ても見た目は変わらないし」
そう言って蓮は鞘から刀身を僅かに出して覗きながら言う。
「ちょ、ここで出すのは何かの規約違反に引っかかるんじゃない?」
「大丈夫でしょ。少しなら。まああの怖い人も言ってたけどさ、私たちの初任務はその武士の力を呼び起こす事なのは変わらないんだから、やるしかないんじゃない?」
「まあ、ね」
「とりあえず今日は解散にしようぜ。色々と試したい事だってあるしな」
「ええ」
「……うん」
蓮の言葉に小さく頷いたエヴァと一夏は、それぞれ自分の部屋へ戻る事に。
「んじゃあ、何から試そうか」
部屋に戻るなり、刀を立てかけて座り込んだ蓮は思いつく限りの行動を試みる。
例えば話しかける事。自己紹介から始まって、好きな食べ物や、自分の経歴を一通り話してみるが、返答はない。
「じゃあ次は」
とりあえず褒めちぎってみた。
「良い刀っすね。切れ味すごそう! まじ、芸術品すね! よ、イケメン刀――」
思いつく限りの乏しい語彙力と発想でたった一人、部屋の中で刀を褒めちぎる事数分。ふと我に返って蓮は猛烈に恥ずかしくなって死にたくてしょうがなかった。
「何やってんだ。俺は」
羞恥を身体から吐き出すように一度深呼吸をした蓮は、今一度刀をジッと見つめる。
漆黒のように黒い鞘は、傷一つなく美しい。持ち手である柄は真っ赤な柄巻で覆われている。鍔は黒く、刀身は白銀のように美しく透き通っている。
「信念に生き、信念に死んだ男――井伊直弼。そいつの魂がこの中には眠っているのか」
各々が選んだ刀を受け取る時、詳細を小さな紙に記載され、渡された。
この学校に来る前も来た後も日本の歴史については義務教育の範囲内。教科書に沿った歴史ならある程度は把握しているつもりだ。
蓮が選んだ刀に眠る井伊直弼という男は、誰もが一度は耳にした事がある『桜田門外の変』にて暗殺された武士の名前である。
「信念に生き、信念に死んだ男、か。全然わからねーよ」
バタンと、思考停止させた蓮はそのまま仰向けになり、眠りに就いた。