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最高のカレーを作れる彼女が欲しい!

作者: ヒーロー


「最高のカレーを作れる彼女が欲しい!」


 俺は昼休み、親友である正原要にそう告げた。


「いきなりどうした?」


「俺今まで、彼女なんたいなことなかったから考えてみたんだ」


「何を?」


「彼女に求める条件だよ、顔とか性格とかどうでもいいから最高のカレーを作ってくれる彼女が欲しなぁ〜」


「なら料理人とかどうだ?絶対美味いカレー作れるぞ」


 コイツは全くわかっていない。


「最高のカレーっていうのは、美味いだけじゃダメんだよ」


「というと?」


「愛だよ!なんて言えばいいかな、例えるなら母のカレーだ」


「母さんのカレー?」


「母のカレーは料理人のカレーよりは美味くない、でもいつも食べたくなるのは母のカレーだろ?」


「確かに」


 母のカレーは、市販のルーを使っているはずなのにホテルとかのカレーよりも食べたくなる。

 俺の推論では、これは愛の違いだと思う。

 美味いカレーは外面は良いが、中身は空っぽだ。

 嫌な言い方をすれば、金儲けのためのカレーなのだ。


 しかし、母のカレーにはそれがない。

 だからこそ息子への愛と、今までの俺の好みから最高のカレーが生まれる。


 愛があるからこそ、味は俺好みになるしいつも食べたくなる。


「要!こう思っているんだがどう思う?」


「いいんじゃないか、お前らしいよ」


 俺はそんな理想の彼女を探すための方法を頭の中で考えていた。


 


 周りの女子達が全部聞いていたとも知らずに……



――――


 俺の名前は、原沢薫。

 近所の私立高校に通う高校二年生だ。

 クラスでは陰キャではないが陽キャでもない中間的な位置にいる。

 そんな位置にいることから、ラノベのような陰キャの這い上がりや陽キャ内で付き合うなんてことは一度もない。

 だから彼女がいたことがない。


「薫〜遅れてごめん」


 この反省の色が全く見えない男の名は、正原要。

 美しい銀髪に、中性的な顔立ち。

 そして、男にしては少し細い体をしている。

 何も言われなければ、女と間違える人が多いだろう。

 だが、こいつは俺にとって一番仲の良い親友だ。

 

「何してたんだ?」


 遅れてきた要は、何故か顔を赤くしている。


「ト、トイレに行ってたんだよ!」


 なるほど、ならなんで顔を赤くしてるんだ?

 ていうか要の服に何かついてる?


「要」


「何?」


「お前、服にウンコついてるぞ」


 要の服に茶色のドロドロがついている。

 気づいたのが俺で良かったが、これをクラスメイトに見られていたら……


「ウ、ウンコじゃない!」


「じゃあなんなんだ?」


「そ、それは…………っくてたから」


「なんて?」


「なんでもない!早く学校いくぞ!」

 

 いきなり怒りだしたな。

 ウンコついたままだけどいいのか?


 そんな言い合いもしながら、俺たち学校へ向かった。




――――



「なんだこの匂い」


 いつも通り教室に入ると、クセのある匂いが俺を襲った。

 これは……


「カレーか」


 俺はカレーの匂いに関しては敏感だ。

 だが教室を見渡しても、どこにもカレーは見つからない。

 

「俺は好きだがみんなは大丈夫なのか?」


 観察してみると、いい匂いだと喜ぶ奴もいれば嫌そうな顔をしている奴もいる。


「チッ……昨日の話聞いてたのか」


「どうした要?」


「いやなんでもない。少し盗聴好きな豚が多いなって思っただけだ」


「何をいってるんだ?」


 要がまたブツブツと意味不明なことを言っている。

 こいつは俺が他のクラスメイトと話していると、いつもこんな感じでブツブツと何か言い出す。

 特に女子の時は何か言いながらこちらを睨みつけている。


 そして今次の日からその子が素っ気なくなる。

 だから中々女子達と仲良くなれない。


「なぁ要」


「なんだ?」


「これってやっぱりカレーの匂いだよな」


「……多分な」


 要の機嫌が悪くなった。

 でも何も悪いこと言ってないしな〜


「なんか俺めっちゃカレー食べたくなってきた」


 するとさっきとはまるで別人のように要の目がキラキラし始めた。


「本当か!」


 何故こんなに嬉しそうなんだ。

 益々要のことがわからなくなった。



――――


昼休み


「やった飯だ〜」


 今日は朝からカレーの口になったからな、食堂でカレーでも食べよう。


「原沢くん!」


 席を立とうしたとき唐突に名前を呼ばれた。

 声の聞こえた方を見ると、そこには綺麗な黒髪ロングに大きな胸を持つ美少女がいた。


 クラスのマドンナである伊原亜衣さんだ。


「伊原さん。俺に何か用?」


 伊原さんはもじもじしながら、後ろに何か隠している。

 俺を呼んだのに何か関係あるのか?


「わ、私のカレー食べてくれませんか?」


 そう言って後ろから出してきたのは、ポットに入ったカレーだった。

 でも……


「なんで俺にカレーを?」


「だって……昨日言ってたから」


「何を?」


「最高のカレーを作れる彼女が欲しいって」


 あーそういえば言ってたな。

 ちょっと冗談気味に行ったんだけどな〜


「確かに言ってたけど、それと伊原さんになんの関係があるの?」

 

「もー原沢くんは鈍感すぎるよ」


「鈍感?」


「だから!わ、私は原沢くんのことがす……」


「ちょっと待ったーーーーーーーー」


「「え?」」


 そう言って俺たちに近づいてきたのは、これまたクラス美少女だ。

 ポニーテールがトレードマークの、スポーツ系美少女である白花舞さんだ。


「亜衣ちゃん、抜け駆けはよくないよ」


「抜け駆けなんて……」


「私も含めてクラスの女子達は、みんな同じ気持ちなんだからカレーを食べてもらってからでしょ」


 カレー?同じ気持ち?俺にはもうわからない。


「ということで原沢くん!」


「は、はい!」


「今から私達のカレーを食べてくれない?」

 

 俺は半強制的に、カレーを食べることとなった。



――――


「じゃあ原沢くん。今からここにあるカレーを一口ずつ食べてもらって最高のカレーを決めてくれない?」


 最高のカレーを決めるのか。

 まぁタダでカレーが食えるならなんでもいいや。


「わかった」


「それではお願いします!」


 クラスのみんなが神妙な面持ちで見ている。

 そんな見られてるとめちゃくちゃ食べにくいんだけど。


 てか、要が俺に殺意を向けている。

 今までも凄かったが、今日は何倍も怒っている。


「それじゃあ、い、いただきまーす」


 一つ目のカレーを口に入れた。


「うん、うまい!」


「やった!」


 白花さんが喜んでいる。

 これは白花さんが作ったのか、かなり美味しいし俺の理想とするカレーの味にかなり近いな。


 だが……


「完璧すぎるな」


「え?」


「このカレーは俺の理想としている味だ。何もかもが完璧、だからこそこれは完璧なカレーなんだ」


「どういうこと?」


「完璧なカレーというのは何もかもが完璧だ。しかし、それはずっと同じ味ってことだ。最高のカレーというのは味にばらつきがあるからこそ、飽きることがないんだ」


「そっか……」


「いや、でも美味しいんだよ。味も俺好みだし」


「大丈夫、慰めなくてもいいから」


 なんでこんな悲しそうにしてるんだよ〜

 俺、カレーに関しては結構辛口なことを言っちゃうからな〜カレーだけに。


 いやそんなことより、まずは白花さんを……


「じゃあ次のカレー食べて」


 白花さんは泣きながらも、ちゃんと誘導してくれる。

 あーなんていえば良かったんだよ!


 そうして俺は目の前にある数々のカレーを食べていった。


 結構から言うと最高のカレーはなかった。


 伊原さんのカレーも他の女子のカレーも美味しかった。

 かなり俺の好みを捉えている味で、最高のカレーだと言いたかった。


 だが嘘はつけない。

 みんなのカレーには何か足りないのだ。

 何が足りないのかは分からない、味ではない何かが足りない。


「私達は全滅ってことだね」


 伊原さんが今にも泣きそうな顔をしている。

 どうしよう、どうすれば治るんだ?


「ねぇさっき聞きそびれたんだけど、伊原さん達はなんで俺にカレーを作ってくれたの?」


「だって原沢くんは最高のカレーを作れる彼女が欲しいって言ったでしょ」


「あぁ」


「ていうことはさ、最高のカレーを作ったら原沢くんの彼女になれるってことでしょ」


 え、それって……


「クラスの女子は私も含めてみんな原沢くんのことがすきだったの!」


 いきなりすぎて心の整理が追いつかない。

 みんなが俺のことを好き?

 なんでこんな冴えない俺なんかのことを?

 

「で、でも!みんな俺にそっけなかったじゃないか。全然俺のことを好きなようには見えなかった」


「それは……条約があったの」


「条約?」


「私達はみんな原沢くんのことが好きだったから条約を作ったの。絶対に抜け駆けを許さないためにね」


 なんだよそれ。

 俺そんなに、みんなに好かれるようなことしたかな?


「だから今回のカレーはチャンスだと思ったの。まぁみんなも同じ考えだったけどね」


 最高のカレーを作れば、俺の彼女になれるか……


「でも結果はみんなダメだった。本当に困らせてごめんね」

 

 伊原さんは必死に泣くのを耐えている。

 他のみんなも耐えながら頭を下げている。

 俺は女の子になんで顔をさせてるんだ。


「伊原さん顔を上げて」


「へ?」


「白花さんも、他のみんなも顔を上げてくれ。俺は最高のカレーを作れる彼女が欲しいっていった。だけど別に今作らなくてもいつか作ることができればいいから。だからそんな顔しないで、ね?」


 するとさっきまで泣きそうだった女子達が、集まり出した。


「それってまだチャンスあるってことだよね」

「もう条約なんて関係ないよね」

「早い者勝ちね」


「み、みんなどうした?」


「ねぇ私達これから毎日原沢くんを惚れさせるためにアピールするから」


「……え?」


「よろしくね!」


 満面の笑みでそう告げる彼女は、とても魅力的だった。


 一体俺の高校生活はこれからどうなってしまうんだーーー




 

 


 








「ちょっと待て!」


「「「え!?」」」


 せっかく話が丸く収まりそうだったのに次はなんだ?


「薫!俺のカレーも食べてくれ」


 要まで何を言っているんだ?


「要、それはさっき終わったんだ」


 要は泣きそうな顔をしている。

 なんでみんなカレーごときで……


「わかった。食べるから、そんな顔するなよ女子じゃあるまいし」


 要は少しビクッとした後、俺にカレーを差し出してきた。


「これは……」


 他のみんなのカレーに比べて野菜の切り方も雑だし、見た目があまり良くない。


 でも、頑張って作ってきたのは一番伝わってきた。


 俺はカレーを一口食べた。

 やはり他のカレーに比べて味は微妙だ。

 だけど……


「薫?」


 俺は自然と涙が出ていた。

 何故だろう?

 味も見た目も俺の理想とはかけ離れている。

 だけど、今まで食べたカレーの中で一番好きだった。


「そんなに美味しくなかったのか?なら片付けらから」


「いや、そうじゃない」


「ならなんで涙なんか」


「わからない、でもこの涙は嫌な涙じゃない」


 一番好きだって早く伝えないと


「…………好きなんだ」


「へぇ?」


「このカレーが一番好きなんだ」


 やっと伝えられた。

 要はとても顔が赤くなっている。


「それって告白?」


 告白なのか?

 でも要は男だ、告白ではないよな?


「告白ではない。お前は男だしな」


「なら、俺が女だったら告白になるのか?」


 こいつは何を言っているんだ?

 まぁ確かに女だった場合は告白だろうな。


「多分そうだな」


「そうか…………よかった」


「よかった?」


 すると要は制服を脱ぎ始めた。

 なんか色っぽい。

 ダメだダメだ、こいつは男なんだ。


 だが目の前にいたのは、いつも一緒にいた親友ではなく胸にサラシを巻いた美少女だった。


「さあこれで告白になるな!」


 胸がある。

 男なのに。

 じゃあ俺の横にいたのはずっと……


「ごめんな、女ってこと黙ってて」


「「「えーーーーーー」」」


 クラス全員が驚いた。

 だってそうだろう、確かに時々女っぽいところはあったがまさか男装してるなんて思わないだろ。


「要、本当にお前は女なんだな?」


「さっきからそう言ってるだろ?」


「ならまず服を着てくれ、目のやり場に困る」


「あっ……」


 要は顔を真っ赤にして手早く制服を着た。

 


――――



「それで、なんでいきなり女だなんて言ったんだ」


 今日じゃなくてもいつでもいえただろうに。


「奪われると思ったんだ」


 奪われる?


「薫が他の女に奪われると思ったんだ。最高のカレーを作れる彼女が欲しいなんていうから俺も焦ったんだよ」


「だから朝遅れたのか」


「カレーなんて作ったことないから一人で頑張って作ったんだ」


 確かにあのカレーは初めてにしては良くできていた。

 よく見れば要の手には絆創膏が巻いてある。


「後もう一つ、なんで男のフリなんてしてたんだ?」


 これは一番わからない。

 俺のことが好きなら女としていれば良かったのに


「俺、男が大の苦手なんだ。見るだけでも怖かったんだ。でも男装してると変な目で見られないからどうしても男として学校ないさせてくれって頼んだんだ」


 男性恐怖症だったのか。

 なら何故俺のことは大丈夫なんだ?


「俺は男じゃないのか?」


「薫のこと最初は怖かったんだ。だけど一緒にいるうちに薫は女子を見る目と男子を見る目が同じだって気づいたんだ」


 まぁ好きな人もいなかったしな。


「この人なら安心できると思って一緒にいた。でも一緒にいるうちにこの人に特別な目で見てもらいたいって思ったんだ」


 どういう気持ちで受け止めればいいのかわからない。

 親友が女で、しかも最高のカレーを作れるなんて


「なぁあのカレーは何か特別なものはいれたのか」


 あのカレーの真相が気になる。


「何も入れてないよ。クックパッド通りに作ったんだ」


 なら何故?


「強いて言うなら愛かな」


「愛?」


「昨日薫が愛が大切って言ってたから、愛は他の人よりたくさん込めたと思うよ……………少し他のものも入れたけど」


 愛か……じゃあ他のみんなは愛がなかったってことか?

 いや違う。

 一方的すぎたんだ。

 彼女たちと過ごした時間は短かった。

 だから俺からはなんの感情もなかった。


 だが、要に関しては種類が違うとはいえ愛はあった。


 最高のカレーっていうのはお互いの愛があって初めて成り立つんだな。


「ねぇそれで……その……薫は私と付き合ってくれるの?」


 いつのまにか私になってるし。

 まぁ答えは一つだよな、俺が言ったことだし。


「俺は最高のカレーを作れる彼女が欲しいと言ったんだ。そしてそれは要だった、ならもう俺の彼女はお前しかいない」


 俺が要の目を見て言った瞬間、俺に飛びついてきた。

 そして上目遣いで、俺にこう言った。


「私以外のカレーは食べないでね♪」


 あまりヒロインっぽくない言葉ではないなと思いながらも、少し嬉しい俺がいた。


 だが俺は気づかなかった、要の手首に不自然な切り傷が入っていることに……





















「あれ、私たちは?」

「惚れさせる話は?」


 途中からでるヒロインは大体負けヒロインだということを噛み締める者もいた。





 


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