おっさん起きる
「ガルムいるかい?」
王都の一画にある鍛冶屋の入り口で茶髪の妙齢の女性が誰もいない店先に声を掛ける。
「ガルム!いたら返事をしな!」
女性が声を張り上げるも返事は来ない
「ったく、まだ寝てるのかね」
ズカズカと建物の二階へと上がると手前のノブに手を掛け一気にドアを開けた
「ガルム!いい加減に起きな!何時だと思ってる!」
奥で煩わしそうな顔をしながらもぞもぞと動くガルムと呼ばれた無精髭の男。
眠たそうな目を開け妙齢の女性へとその目を向けた。
「何だ・・・クレアか、どうした」
ガルムは気だるそうに体を起こしボサボサの黒髪を掻いた。
「何だじゃないよ!今日は旦那の壊れた斧を修理してもらう予定だったじゃないか!約束の時間通りに来たのに店にいないから!全くこんな時間まで寝てるなんて」
呆れた様にクレアは首を振る。
「まぁいいわ、斧は店に置いておくから後で修理して置いておくれ。後、弁当作って来たからちゃんと食べるんだよ!」
「あぁ、いつも悪いな。明日までには修理しておくから夕方にでも取りに来てくれ。」
「頼んだよ。それと早くいいお嫁さん貰いなよ、あんただって38だろ?私もいつまでもここに来れる訳じゃないんだからね。」
「うるせえな、そんなん人から言われてすぐ貰えるかよ」
「あんたみたいなのでも、きっと良いお嫁さんが・・・」
「あぁ分かった分かった。だからもう出てってくれ。作業の準備もしなきゃいけねぇ」
ガルムが手をプイプイと振るとクレアは呆れた顔をして帰っていった。
全く、昔から面倒見は良いが一言多いんだよな。まぁこうやって弁当とか作って来てくれるし助かるんだが・・・
弁当に入ってるサンドイッチをひとつ摘みながら店舗裏の工房に移動する。
「あいつもこの斧を大分使っているよな」
木こりをしているクレアの旦那が使用しいる斧を見てみると、長年使って来たせいかボロボロになっていた。メンテナンスも丁寧にしていたのだろうが元々使っている鉄が悪いのか、道具は寿命の様だった。
この斧はガルムが鍛冶屋を開いた時に初めて打った作品の一つである。
あの時は金も実力もなかったからな。クレアにはいつも世話になってるし旦那のノブにも良くして貰ってる。
「よし、行くか」
ガルムはクレアから貰った弁当を平らげると工房を後にした。
ー王都の住宅街ー
「クレア・・・ママはいるか?」
斧を担いだ40位の男に声を掛けられた小さな女の子はキョトンとした顔で男を見上げた。
「ママならお家にいるよ」
「悪いな嬢ちゃん、ちょっとママに用事があってな」
「おじさん悪い人?」
女の子に声を掛けられた男はニマッと悪い笑みを浮かべる。
「あぁ、おじさんはなママを食べに来たんだ」
女の子はビクッとして目を潤ませたかと思えば大声で泣き出した。
「どうした!?マリ!?」
クレアが鬼の形相でドアから出て来たが、ガルムを見て一気に元の顔に戻らずに怒りの顔をしたままガルムに思いっきりゲンコツを振り下ろした。
「いで!」
「あんた!その歳でこんな小さな女の子いじめるなんて何してんだよ!」
「ちょっとからかっただけだろ?」
「泣いてしまったら、からかいにならないだろ!全く!それで何しに来たんだい?斧の修理が終わった訳ではなさそうだね」
泣いたマリをあやしながらガルムが来た用件を確認した。
「おう、あの斧ももう寿命だ。だから新しいのを作ってやるから、それまではこの予備の斧を使ってくれ。」
ガルムは予備の斧をクレアに手渡したが、クレアは困った顔をしてガルムに言葉を返す。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、あんまり良いもの買うお金なんて無いよ」
「あぁ良いんだ。日頃世話になってるからな、金の事は気にするな」
「何かガルムらしくないわね?」
「たまには良いだろ?だから一先ずこの予備の斧を使ってくれ」
クレアに斧を手渡すと用は済んだとばかりに後ろへ振り返る。マリはガルムの方をみるとクレアに声を掛けた
「おじさんは悪い人?」
「マリ、おじさんは悪い人じゃないよ?ただ顔がちょっと怖いだけ」
「そうなの?」
「クレアママの鬼の顔には負けるけどな」
間髪入れず放ったガルムの言葉にマリはクスクスと笑った。
「うん、ママの怒った顔は怖い!」
「ガルム!」
「やっべ、とっとと行かねえとな。まぁ任しときな!」
片腕を上げガルムは足早にクレア宅を後にした。