転生からの転移、そして
「あぁぅぅ~。」
気付けば赤ちゃんだった。
しかも野外。
ご丁寧にしんしんと雪が降っている。
あれ?残業中だったよね私?
・・え?何?何が起こってるの??
それから数年後。
「え?ここどこ・・」
5歳の誕生日を迎えた日。
つまり私が孤児院の前に捨てられていた日。
手入れって何?ってくらい草ボーボーの庭でうたた寝して目を覚ましてみれば。
綺麗に手入れされた庭の青々とした芝生の上だった。
あの時はホント驚いたよね~。
その次もびっくりしたけどさ。
まさか2回あるとは思わないし。
気持ちいい風がふく草原に寝転がって。
少し寝ていたらしい。
半覚醒状態で、誰にも話したことのない過去をぼんやりふり返る。
私の生い立ちは少々・・いや、かなり特殊なので墓場まで持っていく予定だ。
現代日本でごく平凡な会社員だった後藤 七海27歳。
大学生のとき両親は車の事故で他界。
親戚付き合いもなく一人っ子だった私は天涯孤独の身になった。
たぶん過労死したんだと思う。
期末のめちゃめちゃ忙しい時期に相次いで休職者が出たため、所属部署のメンバーは連日終電コースだったから。
残業中にふと意識が遠のいて。
気付けば赤ちゃん状態で雪の降る極寒の室外にいた。
孤児院の前に捨てられていたのだ。
転生して初めての経験が凍死寸前ってハードモードすぎるよね~。
あの後すぐに院長先生が見つけてくれたから何とか助かったけど。
よく食事抜かれてお腹空かせた私の目の前で美味しそうにケーキとか食べてるような人だったけど、命を救ってもらったことには心から感謝している。
栄養不良で細くてちんまい身体だったけど何とか5歳まで生き延びたな~と感慨にふけった誕生日。
突然また環境が変わった。
今度は姿はそのままだったけど生きる世界が変わったのだ。
異世界転移っていうのかな?
同じ世界の違う場所に転移したんだと思っていたんだけどね。神隠し的な感じで。
しばらくしてから世界も違っていたことに気が付いたわけです。
あまりショックはなかったなぁ。
不思議体験も2回目だったし家族もいなかったし。
元いた世界にも転生した世界にもさほど思い入れはなかったから。
幸い、気が付いたときに倒れてたのは街中の民家の庭で。
事情を聞かれて本当のことは言えなかったからいろいろ端折って話して。
ご飯も食べさせてくれないとこから(嘘ではない)逃げ出してきたと話した私をそっと抱きしめてくれた両親と兄。
両親はここに居ればいいと言ってくれた。
私たちの娘になりなさいって。
お兄ちゃんも妹がほしかったんだって言ってまた抱きしめてくれた。
名前もそのとき本名のナナミに戻したんだ。
転生したときは赤ちゃんだったから院長先生が名前決めてくれたんだけどめちゃくちゃイヤだったのよ。
髪と瞳が黒いからクロ。
初めて名前を呼ばれたとき『ペットかよ?!』って心の中で突っ込んだっけ。
転移した世界は私にとても優しかった。
天涯孤独だった私に、捨て子だった私に、優しい家族ができたのだ。
商人だった父母は仕入途中の事故で7年後に他界してしまったけど、たくさんの暖かな思い出と気持ちを私の心に残してくれた。
何よりも4歳年上の大好きな兄がいてくれたから。
私はいまもこの優しい世界で笑顔の毎日を過ごしている。
「ナナミ~!」
聞き慣れた低音素敵ボイスに一気に覚醒する。
がばりと身を起こして声のしたほうに大きく手を振った。
「アルフお兄ちゃ~ん!ここだよ~!」
思ってたより近くまで来ていた兄の姿が目に入る。
やわらかな亜麻色の髪とペリドットの瞳。
スラリとした高身長に細マッチョ。
超モテモテの自慢の優しいイケメン兄。
さわやかスマイルが眩しいです。
「ここだと思った。もうすぐ日の入りだよ。家に帰ろう。」
立ち上がって兄の元へ。
頭一つ分背が高いのでけっこう見上げる状態になりながらニパッと笑う。
「うん。今日もおつかれさま。 夕御飯はお兄ちゃんの大好きなメニューだよ!ハーブチキンのサンドイッチと野菜ごろごろシチューにデザートはアップルパイ!」
仕事帰りの兄はこれまた眩しい騎士服姿。
平民の出ながら騎士学校を主席で卒業し近衛騎士になった超スーパーエリートなのだ。
しかも第二騎士団の隊長様である。
平民出身者初の快挙。
街の英雄だ。
我が兄ながらスゲー。
「楽しみだ。今日のお弁当も美味しかったよ。」
お兄ちゃんの満面の笑み。
友達によるとかなりレアらしい。
私は毎日見てるけどね。ふふ。
「えへへ。明日も栄養たっぷりの美味しいお弁当作るからね。」
仕入れで家を空けることが多かった父母の代わりに7歳くらいから家事全般やってますからね。
主婦歴10年のベテランです。
「ナナミのお弁当の評判を聞いて今日は王子殿下までツマミ食いに来たよ。また量を増やしてもらえると嬉しい。」
差し出された剣だこのある大きな手をギュッと握って笑う。
「もちろん!みんなで食べれるくらいたくさん作るね。アルフお兄ちゃんがお腹空かせてたらイヤだもん。」
身体が資本のお仕事ですからね。
日本人の頃も料理は大好きだったしまかせといて!
「ありがとう。」
繋いだ手を揺らして歩きながらにっこり微笑みあう。
この幸せな日常がずっと続きますように。
願わくばアルフお兄ちゃんもずっと一緒に。




