噂の後輩は不思議なヤツ
プロローグ・その4。
次回から本編になります。
上の命令で振り回させる。
それが軍隊。
それは知ってるんだけど、まさか最前線から急に帝都まで来るように言われるとはねー。
びっくりだよ?
「申し訳ありません、櫛見山大尉殿。本来であれば帝都の武官だけで賄うのが当然なのですが、少しばかり特殊なと言いますか……優秀な問題児がおりまして。それが竜胆少将の―――」
うん。
もういいよ。
だいたい察したから。
第13師団で変なことが起こるなら、それは大概が竜胆少将殿が関わってるからねー。
説明不要の共通認識だよ。
それで? 今日はどんなご用件なんでしょ?
「今年で軍備幼年学校を卒業する3等武官たちの監督です。精霊使いの―――失礼、霊装兵として新規に配属される予定の連中の修了検定のサポートをお願いしたいのです」
懐かしい。
私にもそんな時代があったねぇ。
しかしそのためだけに最前線から人員を呼び戻すって、それはどうなのさ?
特殊。特殊かぁ。
優秀な問題児というくらいだから、霊装兵としての能力は充分にあるのだろう。
そうでなければ、利用価値が無ければ竜胆閣下が目を付けることもないだろうし。
うん。
考えるには材料がちょっと足りないし、まずは問題児とやらに会ってからかな。
◆◆◆
軍備幼年学校では卒業の年の始まりに全員が3等武官、あるいは3等文官の階級章が与えられる。
本人の希望と、客観的評価を合わせて戦いかサポートか。
武官であれば国防兵務局か鬼道陰陽局へ。
文官であれば情報監理局か技術開発局へ。
そして桜国軍の花形……と、言えば聞こえはいいけれど。ようは1番偉そうにしているのが国防兵務局。
そのなかでも霊装兵科は力が大きい。
人間の霊気では魔獣に対して決定的な一撃を与えることができない。
私もせいぜい、小型二足種くらいしか相手にできないんだよねー。
で、まぁ、魔獣に対して決定的な一撃を与えることができるのが守護精霊。
その守護精霊を使役するのが霊装兵。
精霊使いってのが俗称。でもソッチのが民衆とかにも浸透しちゃってるけどね。
っと、まぁそんなワケで。
霊装兵に配属される予定の3等武官の修了検定、その第一段階は守護精霊の召喚だったりして。
これがなかなか難しい。
本来、姿カタチを持たない“事象”に近い存在である精霊を実体化して固定化しようっていうんだもの。当たり前なんだよ。
どれだけ強く、正確にイメージできるか。
1度や2度と失敗を繰り返ししても別に怒られたりはしないけど。
それだけね? やっぱり難しいんだよ。
―――本来なら。
「あら、櫛見山大尉。お久しぶりです。お変わりなく過ごされていましたか?」
あ、どもども。
小鳥遊特務少佐殿も相変わらず見た目が変わりませんね。
「これでも歴とした人間なんですけどね。それで大尉は―――あら、わざわざ修了検定の。となると……やっぱり百弥君たちのことで誰かが手を回したのかしら?」
人差し指をチョコンと口元に当てて首を傾げるは恩師のひとり、小鳥遊涼守特務少佐殿。
普段の軍務では階級通り。そして軍備幼年学校の修了検定、特に霊装兵については最先任少将としての権限を持っている。
言ってしまえば、教育のエキスパートだねぇ。
そんな小鳥遊少佐殿が悩むような生徒がいるのかー。
うーん、これはちょっと興味出てきたかな?
◆◆◆
むかーしむかしの偉い術師さんが発明した召喚式陣。
こちらの御膳立ては陰陽局と開発局。
これがまた……アレなんだよ。
偶然、1度だけ見たことあるけど。
彼らにさ。準備している術師たちにさ、兵務局の偉い人がそりゃもう上から目線で命令してたんだよねー。
だから、うん。
その鬱憤なんだろうけど、野次がね? 飛んでくるんだよ。
一応の分別はあるのだろうか、そこまで本気の嫌がらせみたいなヤツではないんだけど。
端から見ていると笑い話程度のことってわかるんだけど、実際に召喚式陣を起動してる3等武官の子たちは真剣で本気なのがほとんどだからね。
気にするなって言っても気になるのが人間ですよ。
と。
そんな思いで見に来たワケなんだけど……どうしたことだ?
「あのボウヤはどんなのを呼び出すかねぇ?」
「本人がなかなかの剣士ぶりですからな。やはりそれを含んだような能力で産まれてくるのではありませんかな?」
「いやいや、アタシんとこで術式だって学んだんだ、術師タイプの召喚する可能性だってあるだろ?」
「むしろ、本人が前に出る前提で旋条銃の使い手を呼び出すかもしれん」
「後はぁ、篠村大将閣下みたいなぁ、万能タイプの可能性かしらぁ」
うーん?
なんというか……あぁ、アレだ。親戚の子どもを見守るおじさんおばさんみたいな空気。
どういうことかな?
っていうか、成功する前提の会話だねー?
「私も百弥君が失敗するのは想像できませんね。彼はまさに“努力”の生徒ですよ。とにかく毎日コツコツと鍛練を重ねています。空き時間で4局全てを巡って知識と技術を集めているのは彼くらいしか知りませんね」
そんなにも?
しかし。あぁ、なるほど。優秀な問題児だわ。
特に兵務局の人たちで、自分たちが特権持ちと信じて疑わない連中には面白くないだろうなー。
他所に媚びてるんじゃないよ、みたいな。
私に言わせるなら、優秀な人材なんて何人でも出て欲しいけれどね。だって戦争やってるんだもん。
「それではこれより守護精霊の召喚の儀式を始める。手順やらその他は全部頭に叩き込んであるな? よし。それじゃあ……そうだな、百弥生徒! キサマ、やってみろッ!」
「ハッ!」
お、噂の彼が1番手か。
早速ながら、お手並み拝見いたしましょ。
しかし、アレは―――
「嫌がらせの一環でしょう。百弥君は貴族ほか上流階級出の人と、それこそ教導官とも生徒ともよくトラブルを起こしていますからね。勝手の解りにくい初手は失敗しやすいですから、それを期待しているのでしょう」
だから試験監督があんなふうにニヤニヤしてるのか。納得。
言ってしまえばそれも……えーと、百弥クンの自業自得なんだろうけど。
反抗するなら相応のリスクも、だよ。
……あー。だから努力家なのかな? ワガママを押し通すことが出来るだけの力を付けるための。
さて?
「………。………ッ!」
「「おぉ~ッ!」」
やりおる。
1発で守護精霊の霊体を呼び寄せた。
ヘッヘッへ。いい感じに苦い顔してるね~? 残念でしたね、試験監督や後ろめたいモノ持ちの後輩クンたち。
君たちの望みとは違って、努力は裏切らなかったみたいだね。
さぁ、後は名付けによる固定化だねー。
「―――虎徹。今日からお前は虎徹だ。よろしく頼むぞ?」
「―――はいッ!」
白の着流しに紺色染めの袴。
水色っぽい羽織りは白の縁。
本体は犬人族の女の子。
ほー。
百点満点でどの程度の出来栄えかな?
「文句なしの百点満点ですよ。かなり高レベルで魔力も霊気も安定しています。相当明確なイメージが描けなければああはならないでしょう。あるいは、陰陽局の術師の皆さんからよほど可愛がられていたかもしれませんね」
◆◆◆
修了検定の第一段階は無事、終了。
2割ほど失敗していたけれど、それくらいなら予測の範疇でしょ。
検定はそのまま第二段階、精霊たちの武器の具現化へ。
これは検定と言うより確認作業だね。
精霊たちが霊気を具現化させた武器・霊気兵装。
たまに外国かぶれが気取ってエーテルウェポンなんて呼び方もするけれど。
質の良し悪しはあっても、具現化出来ないってことは今のところ前例がないらしい。
それに、この時点で弱くても鍛えることもできるからね。
「ふむふむ。百弥君の守護精霊の武器は刀ですか。服装といい、武器といい、完全にお揃いですね。しかし、それなら納得できます。イメージを作り上げるのには適当であったと言えますからね」
ひとつだけ言うなら、あの年頃で着流し袴は珍しいと思うけれど。
しかし、刀か。
刀の使い手で家名が百弥。それって?
「お察しの通りです。もっとも、彼は普段の私闘では剣技を用いることはしないようですけれど。命懸けの戦い以外でなければ拳で充分だろうと。龍幻殿は武技だけでなく精神の鍛練も怠らぬようで……フフッ、感服ですね」
精神の鍛練が充分ならケンカはしないのでは?
とも思ったけれど、聞くところによれば百弥3等武官殿は立場の弱い人たちにとっては一種の拠り所になりつつあるらしい。
強い精神を持つ故に。
見て見ぬフリはできぬ、みたいな感じかな?
やるねー。
私はキライじゃないかな。うん。
◆◆◆
修了検定、第三段階。いわゆる実戦訓練。
桜国軍で管理している迷宮を用いた、魔獣との戦闘。
私が呼ばれたのも、コッチが多分本命。
試験監督としてベテランの霊装兵……この場合は私だね。を、隊長にして基本的な小隊編成を組んでれっつごー。
の、ハズなんだけれど。
………。
多くない?
「霊装兵が3人と、その守護精霊が3体。銃剣兵科から6人。霊術兵科から2人。工作兵科から2人。情報監理局から観測兵科2人。技術開発局から整備兵科2人。なんとまぁ、しっかりと戦の準備ですな!」
そうですな~。
私もね? 試験の補助にもう一人付けるって言われて貴方が来たときにはびっくりだったよ?
なして兵務局の検定に監理局の少佐が来ますかね? 吟堂少佐殿。
「困ったことに、実に困ったことに、我らが清村上級大将閣下が今回の修了検定に興味津々といったご様子でしてな。もちろん、それだけではこれほどの人員は動かんでしょう。つまり、各局の何かしらの“力”を持つ立場の人間がひとつ、噛み付いておるのでしょうな」
わーお、驚き。
いやー、厄介事の匂いがプンプンしますなー。
少なくとも試験の会場となる迷宮に不審な点は見当たらない。
合格条件も特におかしい所はないし……むしろ、これだけの戦力をが揃ってると考えると、条件としてはかなり緩い。
まぁ、戦力といってもみんな3等武官に3等文官。
つまりは全員が同期の学生さんなんだけどさ。
んー。
考えても仕方ない、か。
さすがの私でも情報が手元に無い状態じゃあね。
わかるのはせいぜい……この場にいる人間は百弥君と面識があることくらいかな? 私以外は。
聞こえてくる会話の内容からして、なかなか良好な関係っぽいのが救いだね~。
さてさて、どうなることやら。
◆◆◆
魔獣との戦いは順調そのもの。
もともとが霊装兵だけを想定していた条件だから当たり前なんだけど……まぁね、怪我人が出ないのはいいことだよ。
後輩たちの連携も問題なし。
わりとね、卒業間近ってさ、けっこう管轄ごとのいがみ合いというか……あんまりキレイじゃないところも知っちゃうから。
それはそれと割り切れる学生もいれば、そーゆーのにドップリ浸かっちゃう学生もいるから心配だったんだけど。
むふー。
ちゃんと指示に従ってくれるし、なかなか悪くない気分。
ま、それもね。
「悪く思うなよ。こっちも仕事なもんでなぁ?」
こうして取り囲まれるまでの話よね。
偶然の追い剥ぎ? ありえない。
ここは訓練のために軍が管理している迷宮。手引きをした軍人でもいなければ外部の人間は簡単には侵入できない。
と、なれば。
「アレか。ひとりだけサーブルじゃなくて刀を持ってる男」
「ヒッヒッヒ……可哀想になぁ、巻き添えくらっちまってよ。ま、恨むんならソコの百弥とかいうヤローを恨むんだな」
数。25。
こっちは私を含めて、戦えるのはギリギリ15。
参ったねー、私の守護精霊がいればなんにも心配いらなかったんだけど。
非戦闘員を護りながらの包囲防衛。やれやれだよ。
「16ですよ大尉殿。自分は監理局の人間ですが、荒事にも多少の覚えがありますのでな。さすがに魔獣相手では逃げの一手となりますが、彼らはどう見ても普通の人間ですから」
老いて尚お盛んなことで。元気だねぇ。
さて。
みんな、覚悟はいいかな?
人間が相手ってのは気持ちの面で厳しいかもしれないけれど、それでも戦わなければコッチがやられちゃうから。仕方ないね。
まぁ、できるだけ私と吟堂少佐殿で制圧できれば―――
「―――ひがゃぅぁぁッ!? こ、このッ! このガキッ!? あぁ、腕……腕がぁ……ッ!?」
「うーん……人を斬る感覚って、やっぱキモいよな……手の平がベットリする気がして気持ち悪いぞ……ラノベとかの転生主人公ってなんで普通に戦えるんだろ……ふぅ。虎徹、なるべく腕か足を狙え。殺すのはダメだ。どうせ大した情報は持ってないだろうけど、あとでお話が必要だろうからな」
「はいッ! ―――覚悟はいいか、悪漢ども。今宵の虎徹は血に餓えているぞ。……まだ昼間ですけどね!」
「ハッハァーッ! 俺サマも負けてらんねぇぜッ! ヤるぞ白浪ッ! 全員ブッ殺してやるぜぇッ!!」
「だからそれじゃあダメなんですってばぁ~。もぅ~、困ったご主人さまですねぇ~」
「フフッ! 男の子は元気っちゃね。ま、ウチらも適度に気張ろうかね? 水閃、準備はええね?」
「はい、主様」
おや? おやおや~?
なにこの……なに? 全然躊躇いとか葛藤とかを感じないんだけど。
「このクソガキどもッ! 調子に乗んな―――ケブッ……ッ!?」
「おっと、脇腹に当たったか。近距離とはいえ、この状況じゃあ手足を狙うのは難しいな」
「いいんじゃない? 対魔獣用の霊術弾だし、もしも頭に直撃しても死にはしないでしょ。よっぽど運が悪くなければ」
「足止めは私たち工作班にお任せだよ♪ ちょうど新作の衝撃炸裂玉を試したかったんだよね~♪」
「んじゃ、俺たちも術師らしく霊術で援護しますか。動きさえ鈍らせりゃ他が頑張ってくれるだろ」
「……整備の出番、あるかな?」
「ボクたち観測兵よりはあるんじゃないですか? 終わった後に」
………。
よし。考えるのは止めよう。
頼もしいのはいいことだよ。
「チィッ! こうなったら―――アイツだ! 風人族の女を狙えッ! 人質とっちまえばこっちのもんだッ!!」
「おうよッ! さぁガキィッ!! 大人しく―――ぷぎょ」
んー、残念ッ!
伊達に最前線で戦闘やってないんだよー?
治安維持のために人間の犯罪者とかも制圧したりするからね。
そもそも私、さすがにガキ呼ばわりされるほど若くはないし。
風人族はどうしても身長が低いからしょうがないんだけどさ。
うむ。
このペースなら問題なく制圧できるかな?
数の有利も時と場合では意味がない。それが実戦。
難しいよねー。
◆◆◆
やったぜ。
コチラは負傷者0人で戦闘完了。
パーフェクトですな~。
まぁね、向こうも殺気まる出しで襲ってきたからね? 手加減はあまりできなかったからね。
だいぶ派手にやっちゃったけれど……ちゃんと全員生きてるね。よしよし。
止血と簡単な手当てだけはしておきましょ。
やれやれ。かなりのイレギュラーだったけれど、こうして問題なく処理できてよかった……え? そうでもない? もしかして、やっぱり誰かケガしてたとか―――おや?
「うぼぁー……うぉ、うぇッ……げほッ!」
「ったくテメーはよぉ、俺サマより強いクセしてなんでこう……ほれ、よーしよし、全部吐いてスッキリしたか? ほら、水」
「ありがど……ごほッ!」
「あ、主殿ぉ~ッ!? ど、どうしようッ!? 虎徹はどうすればッ!?」
「落ち着きぃ虎徹ちゃん。いつものことっちゃね。モモちゃんてば、ウチらがまとめてかかっても手も足も出んくらいぶち強いのになぁ。それでも戦闘中は頼りになるけぇ、不思議やねぇ?」
「だがまぁ、百弥が吐いたってことは脅威は去ったってことだ。櫛見山隊長、連中はどのようにいたしますか?」
その安全の判別方法はどうなのさ?
まぁ、それはそれとして。
コイツらは……んー。そうだね、放置で。
「「はぁッ!?」」
「ちょ、ちょっと待てよッ! こんなところに置いていく気かよッ!? 魔獣だって出るんだぞッ!? 襲われたら―――ひぃッ」
あのね? キミたちさぁ、私たちのことをどうしようとしたのか忘れちゃったのかな?
助ける義理なんて無いに決まってるでしょ?
まぁ、運が良ければ助かるかもしれないけどね。
ね、吟堂少佐殿?
「そうですな。彼らの身柄は自分のほうで回収班を手配しましょう。兵務局に引き渡したところで無意味でしょうからな」
まず間違いなく。
連中の1番のターゲットは百弥君みたいだったし、おおかた彼に面子を潰された軍人か、あるいは外部の人間が軍に依頼したか。
やだねー。
卒業してからしばらくぶりの帝都、真っ黒。
◆◆◆
試験は文句なしの合格。で、よろしいかと。
途中でオマケが発生したけれど、それについての報告は……うーん、誰が味方で誰が怪しいかな?
とりあえず小鳥遊少佐殿には報告が必要だろう。
ほらみんな、行くよー?
「……そんなことが。ふむふむ……そうですね。まずは皆さん、今回の検定の結果により全員の少尉への昇格は決定しました。何はともあれおめでとうございます。今後は桜国軍の一員として、さらなる活躍を期待します。一部の出来事とはいえ、軍部の腐敗部分を知る皆さんですからね。道を踏み外すことのないよう、願っていますよ?」
「「ハッ!!」」
一斉に敬礼。
若々しくて初々しいのぉ~。
しかしまぁ、迷宮内部での動きといい、小鳥遊少佐殿のお言葉といい、そういうコトなのかな? 吟堂少佐殿?
「汚水が側を流れても、不思議とそれを吸い上げたモノが必ずしも毒草として育つワケではありませんからな。むしろ宜しいのではありませんかな? 清濁合わせ飲む器量が育ったと思えば。もっとも―――肌に合わぬ者たちにしてみれば、肉を焼き骨が爛れるほどの猛毒でもありましょうか」
こういうのも、時代の変化なんだろうね。
私が学生のころはどうしても、泣き寝入りしなければいけない状況が多くあった。
直接トラブルに巻き込まれるようなことは少なかったし、これほど露骨な報復を受けるほど反骨精神に溢れてもいなかったけれどね。
ただ……理不尽は、何度も見ている。
そしてたかが少尉以下の力しかない小娘、なにができるものか?
それが普通だったのにねぇ。
「若い世代が突然の如く強く産まれ育ったワケではありませんが……その上で、抗うことを知り、実行し、それを覚えてしまいましたからな。この流れを塞き止めるのは容易なことではないでしょう。幸いにして、源流たる人物が暴力を拠り所とする権力は望まぬようですから、桜国軍が大きく歪むことはないでしょう」
そもそもすでに歪んでいるから?
ははぁ、吟堂少佐殿もなかなか言うねぇ。
ま。そんな俗物根性、潜んでいたとしたら竜胆少将閣下が見逃すハズがないでしょ。
そこは心配してなかったけど。
しかし……そうか。
桜国軍も、変化の時を迎えちゃったかぁ~。
しみじみ。
◆◆◆
本当なら合格祝いのひとつでも。
ちょいと良い感じのお店で料理とお酒でも奮発するところなんだろうけれど。
悲しいかな、私ってば人類防衛の最前線が職場なもので。
用事が済んだらスタコラサッサなんだぜイェ~。
ガーンだよ。もぅ。
久しぶりに帝都でささやかな贅沢、したかったなぁ。
こうして連席貨物車に揺られながら食べる駅舎弁当も、これはコレで味わい深いから好きだけどね。
魚のすり身の入った甘焼き卵、うまうま。
鹿肉の香味焼きと、薫製の……これは鯖かな? そして桜色に漬けられたカブ。見た目、味わいともに賑やか。
素晴らしいねぇ。
それに。
結論、面白いモノ……面白い後輩たち見つけたからね。良しとしましょ。
モグモグ。
竜胆少将殿が関わっているし、彼の行動からして身柄を引き受けることになるのは第13師団以外はあり得ないだろう。
つまり、私と一緒の職場。
しばらくは帝都から大きく離れるような任務はないだろうけれど、正式にこき使われるようになれば、間違いなく前線送りだね。
利用価値のある戦力を無駄に遊ばせておく理由も余裕もない。
あるいは……不慮の、不幸を期待されて。
そのくらいの下衆なマネは平然としてくるだろう。
検定試験の場にゴロツキを放り込んでくるくらいだし。
うん。
なんだか面白いことになりそうな予感。
違うな、予感じゃない。確信かな。
これは“彼”が第13師団に配属されるよりちょっと前の話。
私の部下として、ともに人類の生存領域の境界線“大結界”の攻略に挑むよりけっこう前の話。
そして。
後世の軍事資料に“対魔獣戦にあって、原点にして頂点の反逆者”として記録されるよりずっとずっと前の話。