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君と眺めた4色の空  作者: 緑月晨夜
第一章 黒髪の捜し人
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第8話 バルナスの大噴水

「この上着には魔法がかけられている」


 ラタフィがそんなことを言い出した。

 もちろんヒロキの元居た世界に魔法などというものは存在していない。

 人間は自身の経験や思想と相違するものを否定し、無意識的に排除したがる。

 ヒロキとて例外ではない。魔法の存在など簡単に信じられる筈もない。

 しかし、そのような懐疑など無駄であるとでも言いたげに、ラタフィはいつになく真剣である。


「魔法……?」

「ああ、位置特定魔法だな。……ヒロキ、誰かに監視されてるのか?」

「ちょっと待ってくれ。詳しく教えてほしい……」


 位置特定だの監視だのと不穏な単語が飛び出し、ヒロキは少しばかり狼狽えていた。

 元の世界でのヒロキは、学校生活で数多の女子に追っかけされていたモテ男だったわけでも、ヤンキーの反感を買って目をつけられていた哀れな男だったわけでもない。

 故に、自分が誰かに「狙われている」という今の状況に戸惑う他はなかった。


「ヒロキは何かと疎いよな。位置特定魔法ってのはその名の通り、魔法をかけた対象の位置が大まかに分かる魔法さ。淡い光の弾を対象に被弾させることで成立する」

「えっと、じゃあ、俺はどこかでその光の弾を撃ち込まれたってことか?」

「そうなるな」

「え、誰が? 何の為に?……ってか、光の弾なんて出してたら誰かが目撃しててもおかしくないだろ。気付いた人が教えてくれてもいいんじゃないか……?」


 この世界に来て以来、人気(ひとけ)の無い場所などには行っていない。ならば、自分に人知れず魔法をかけるなど不可能であると、ヒロキは思考したのだ。


「生憎だけど、他人の面倒事に関わりたい人間なんていないということさ。目撃していようとしていまいと、関係ないんだよ」

「……でもラタフィは俺に声をかけてくれたじゃん?」


『君、そんな辛気臭い顔してどうしたのさ?』

『僕は君を心配して声をかけてやったというのに』

 確かにラタフィは五里霧中だったヒロキに声をかけた。だからこそ、今こうして二人は行動を共にしている。


「言った筈だぞ? ヒロキには僕と同じオーラを感じた。それだけだ」

「はは、そういや言ってたな、そんなことも」


 ヒロキのその笑いは乾いた笑いだった。


「まあいつまでもこんなところでグダグダしてる訳にもいかないし、さっさと解かせてもらうよ?」

「え?」

「これも言った筈だけど、僕はカスティールの末裔だ。言わば魔法のエキスパートさ!」


 そう言ってブレザーを再度前方に突き出し、ラタフィは一言だけ力強く言い放った。


「『アンロクス』!!」


 その瞬間、ブレザーから微弱な淡い光が放散した。

 よく見ないと見えないようなレベルの光だ。


「えっと、魔法は解けたのか……?」

「ああ、完全に解いた。どれほどの魔力が込められているのかと少し期待したんだが、全然大したことなかったな。恐らく子供にでも悪戯されたんじゃないか?」

「そ、そうか。ありがとうな」

「お安い御用さ。はいコレ、返すよ」


 ラタフィから受け取ったブレザーに、ヒロキは袖を通した。

 無事にブレザーにかけられていた魔法を解いたところで、二人は歩みを進めるのだった。

 目的地はもちろんスペクトル傭兵団の本部だ。しかし、そこに行くにはまずセントラルエリアへ向かう必要がある。

 セントラルエリアはその名の通りこの街の中央に位置するエリアで、そこから四方に四つのエリアが広がっている。

 ノースエリア、サウスエリア、イーストエリア、ウェストエリアである。

 上空からこの街を見下ろすと、おおよそ円の形になっている。


「そういえばさっき、どれくらい魔力が込められてるかみたいなこと言ってたけど、どういうこと?」

「魔力が込められてる魔法ほどそれを解くのに必要な魔力も多くなるんだが、ヒロキの上着にかけられてた魔法を解くのに必要だった魔力は微々たるものだったんだよ」

「なるほど、それで子供の悪戯ってことか」


 子供ですら魔法を使えるというということには驚きだが、大人よりも子供の方が魔力が低いというのはヒロキにも察しが付いた。


「そゆこと。因みに攻撃魔法も同じで、魔力を込めるほど威力が上がるし、それを打ち消すのに必要な魔力も比例して多くなる。まあ、魔法について分からないことがあれば何でも訊いてくれて構わない」

「了解。頼りにしてますよっと」


 ヒロキに頼りにしていると言われ満更でもない様子のラタフィ。

 さて、そんな二人の前方には大きな噴水が待ち構えていた。

 それはセントラルエリアのランドマークの一つである。


「さっきから見えてたけど、近くに来てみると結構デカイな、この噴水」


 ヒロキは思わず足を止めた。それに釣られ、ラタフィも。

 噴水に興味を示したヒロキに対し、待ってましたと言わんばかりにラタフィが解説を始める。


「これはこの街の名所のうちの一つ、『バルナスの大噴水』さ」


 身長175cmあるヒロキが、見上げるほど大きな噴水である。

 噴き出た水の一部がミストのようになっているおかげで、この噴水の周辺だけいくらか涼しく感じる。

 噴水の周りのベンチには老若男女問わず腰掛けており、この街の人間にとっての憩いの場であることが見てとれる。


「バルナスって、この街の名前?」

「……はぁ。やっぱりヒロキは『アリア神話』についても何も知らないんだな」

「え? あーゴメン」

「詳しく話すと長くなるから簡単にしか説明しないよ?」


 ラタフィはそう言ってヒロキを一瞥した後、再び口を開いたのだった。

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