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君と眺めた4色の空  作者: 緑月晨夜
第一章 黒髪の捜し人
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第2話 一縷の希望たる少女

 ヒロキが聞き込み調査を始めてから早二時間。

 未だに有益な情報を得るには至っていなかった。


「どうして誰も高瀬さんを見ていないんだ……」


 自分が制服姿のまま異世界転移したということを鑑みれば、マナミも自分と同じように制服姿でこちらの世界を彷徨っていると踏んでいたヒロキだったが、その限りではないのかもしれないと考えを改める。

 ヒロキの周りに存在している人々は皆個性豊かな髪色をしているし、服装も日本ではまず見ないものだ。

 そういう意味で、日本の学生服姿のヒロキやマナミは悪目立ちしているはずである。逆に言えば人々の印象に残りやすいということであり、それを根拠に、聞き込みで容易くマナミの情報を得られると確信していたヒロキは、すっかり諦めムードになっていた。


「やっぱり高瀬さんはこの街にはいない……? 俺だけがこんなところに飛ばされちまったってわけか?」


 街の人々で賑わっている大通りの端っこで、顎に右手の指を当てながら思案するヒロキ。

 ヒロキが聞き込みをしている間に日は高くなり、気温も少しずつ上がっていた。長い時間屋外で聞き込みをしていたこともあって暑くなったヒロキはブレザーを脱いで畳み、それを小脇に抱える。

 昼が近づいている証拠だろう。


「……こうやって時の経過を教えてくれる日の光も、俺の知ってる太陽によるものじゃないんだろうなぁ。はぁ……」


 思わずため息がこぼれる。

 これからどうしたらいいのかもわからず、気持ちばかりが下を向くのである。


「腹も減ったしなぁ。本当なら今頃、家で夜飯食ってる頃だろうし……」

「君、そんな辛気臭い顔してどうしたのさ?」


 精神的な疲労感と空腹感が原因で、ヒロキの反応が一瞬遅れた。

 突然前から声をかけられて内心驚いているヒロキ。

 その話しかけてきた人物はというと、黒いローブを着てフードを深く被っており、周囲の雰囲気から浮いていた。言わば今のヒロキと同じである。

 しかし、その人物の顔はほとんど見えない。ヒロキの方が幾らか身長が高いというのもその原因の一つだろう。


「……えっと、俺に何の用ですかね?」


 この人とは関わらない方がいいと感じたヒロキは、素っ気ない態度で適当に言葉を返す。


「別に敬語なんて使わなくていいけど、なんか冷めた反応だね。僕は君を心配して声をかけてやったというのに」

「は、はあ……」

「あぁ、そうか。闇に染められた僕のこの出で立ちに物怖じしているのか。なら仕方ない、特別にフードくらいは取ってやろう。そうすれば少しは話しやすくなるだろうさ」


 右手で被っていたフードを取る謎の人物。

 今まで隠れていた顔が露わになった。

 鮮やかな橙色の瞳に、薄い山吹色の髪。

 その肩にかかるほどの髪の毛はツインテールに結ばれていた。

 見た目だけで判断するならば年齢もヒロキに近しい、端正な顔立ちの少女である。


「…………」

「フッ、どうやら僕の正体に気づいてしまったようだな! そうだ! 何を隠そう僕は」

「あー、それはどうでもいいけど、あんた女の子だったんだな」

「…………え?」

「だって顔見えなかったし、一人称が僕だったし」

「……フン、驚きだな。まさかこの僕を男に見紛うなんて。それに、声は思いっきり女子のそれだろう? 更に言えばフードを被っていたとはいえツインテールははみ出してバッチリ見えていただろう!? 何故なんだ!?」

「何故って……。まだ声変わりしてない上に長髪に憧れてるイタい系の中坊かと思ったんだから仕方ねえじゃん」


 むしろその少女の言う通り、女子らしい高い声とフードからはみ出していたツインテールから、完全に女子だとしか思っていなかったヒロキだが、彼女の厨二臭い物言いのせいかついからかってしまう。

 マナミに対してもそうだが、こうやってからかったりおどけたりするのはヒロキの悪癖である。


「『ちゅうぼう』ってのはよくわかんないが、君が僕を馬鹿にしてるってことはよくわかった」


 呆れたようにジト目でヒロキを見る厨二臭い少女。


「あ、いや、冗談だって。悪かった」

「そうか。ま、まあいい。……君、名を名乗れ」

「ん? そりゃまた唐突だな……」

「僕を馬鹿にしておいて、今更名乗れないなんて言わせないぞ?」


 睨みを利かされ、流石のヒロキも少しだけ怯む。


「わかった、わかったって! ……俺の名は星屋宏樹だ、これで満足か?」

「うむ。それでは僕も名乗っておくとしよう。……僕は誇り高き聖者カスティールの末裔、ラタフィ・シュバルデンだ!」


 両手を腰に当てて小さめな胸を張るラタフィ。ローブのせいで、より胸の大きさがわかりづらい。


「……なあ、それで結局あんたは俺に何の用なんだ?」

「……あれ? 『カスティールの末裔』ってところスルーしちゃうの?」


 少しだけ残念そうに肩を落としたラタフィだが、すぐに話の調子を戻す。


「ま、まあいいか。それに声をかけた理由なら先程言っただろう。君を心配して声をかけたと。それに、その周りから浮きまくってる格好と黒髪に同志のオーラを感じてね」

「声をかけた主な理由、絶対後者だろ。それと、周りから浮いてるとかあんただけには言われたくない」

「まあまあ、そんな細かいことはどうだっていいだろう? 君は先程から辛気臭い顔をしていたが、何か困り事でもあるんじゃないか?」

「あ、ああ……まあな」


 困っているということが事実である以上、強がって否定することなど出来ないヒロキ。

 無意識にラタフィから目線を逸らしつつ、彼女の発言を軽く肯定する。


「ほら、僕に言ってみなよ。同志の悩みだ、僕も出来る範囲で協力しよう!」


 右手で左眼を覆い隠し、その右腕をわざとらしく震わせるラタフィ。


「決して同志じゃないけどな。……実はとある人を捜しているんだけど、手掛かりすら掴めなくて。八方塞がりなんだよ」

「ほう、人捜しか。……承知した! 聖者の末裔たる僕が、君の捜し人を見つけてやろう!!」


 今度は両手でローブを翻し、バサッと大きな音を立てる。その厨二チックな動きが周りを歩く人々の視線を一々集めるため、ヒロキは若干の羞恥心を感じざるを得ない。


「よしヒロキ、僕について来るんだ!」

「あ、ちょ、待てよ!」


 いきなり駆け出したラタフィを、畳んだブレザーを小脇に抱えたまま仕方なく追いかけるヒロキであった。

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