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君と眺めた4色の空  作者: 緑月晨夜
第一章 黒髪の捜し人
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第1話 異世界転移

「おい……ここはどこなんだ……?」


 先程まで図書室にいたはずのヒロキだが、今となってはそんなことなど嘘に感じられる。何故ならば彼は今、知らない街の大通りに訳もわからず突っ立ているのだから。

 両手で抱えていたはずの本の山も、気付けばどこにもない。

 周りを見回しても、多種多様な髪の色をし、日本ではまず見ないようなどこか異国風の格好をした人間が歩いているだけである。

 自分の居場所のヒントになるようなものも何もない。それどころか、自分と同じ黒髪の人間すら見つからない。

 その上で制服姿のヒロキは、当然、街の人々からかなり浮いていた。


「とりあえず日本じゃないのは確かだよなぁ……。あぁ、そうだ」


 ふと思い立って、タチの悪い夢だと信じ、古典的な方法だが自分の頬を思いっきりつねってみる。


「ダメだ、普通に痛いだけだ……」


 不安からか、その言葉尻は段々と小さくなっていく。

 しかしこうなってくると、いよいよ自分の身に起きた信じがたい出来事を信じなくてはいけない。

 いきなり訳のわからない場所に放り出されて、頭を抱えずにはいられないヒロキ。

 その困惑は次第にイライラへと変わっていく。


「クソッ、俺が何したってんだ! ……俺知ってるよ? 異世界ってやつなんだろ、ここ! けどそういうのって作り話の中でしか起こらないもんだろ!? 意味がわかんねぇよ!」


 怒りのままに、道端に落ちていた小石を蹴り飛ばすヒロキ。

 そんな変人を目にした、通りすがりの黄緑色の髪をした親子が、


「ねぇママ見て見てー、あの人頭おかしいのかなー?」

「シッ、ああいうのは見ちゃいけません!」


 そんなやりとりをしたのがヒロキの耳に届いた。

 結果的にヒロキの怒りの炎に油を注ぐことになった黄緑髪の親子は、何事もなかったかのように歩き去っていく。


「チッ、頭がおかしいのはそっちだろ、このキャベツキッズが! さっさと家に帰って、愛しのマッマにロールキャベツ作ってもらって共食いしてろ!」


 早口かつ小声で、よくわからない暴言を吐くヒロキ。

 自分でも何を言っているのかわからなくなったのか、何度か大きく深呼吸をして心を落ち着かせようと試みる。


「ふぅ……。とりあえず今は状況を整理してみるしかないか……」


 まだ僅かにムカムカするが、一応の冷静さを取り戻したヒロキは、通行人の邪魔にならないように場所を移動し、たまたま見つけた人通りの少ない小さな階段に腰をかけた。


「さてと、状況を振り返ってみよう。図書室で本の仕分けをしてました。横にいたはずの高瀬さんが消えました。そして、俺は今異世界にいます。……はい、何一つ理解できません!」


 階段に座り込んだまま、再び頭を抱え込んでしまうヒロキ。

 しかし、一つだけ気になったことがある。


「……高瀬さんももしかして異世界(ここ)に飛ばされてたりするのか……?」


 ヒロキが異世界に飛ばされる少し前、マナミは不自然に姿を消した。

 だとすれば、マナミもこの世界に転移していたとしてもなんらおかしい話ではない。


「いや、むしろそれ以外考えられないよな……」


 そう結論づけたヒロキは腕を組んだまましばらく唸った後、スッと立ち上がり、


「よし、高瀬さんを捜そう! 他にやることもないし、きっと高瀬さんも今頃困ってるだろうからな」


 マナミを捜すことを決意したヒロキであった。


「やっぱまずは聞き込みだよな。むやみやたらに歩き回って体力を消費するのは得策じゃない」


 独り言をブツブツと口にしつつ、最初の大通りに戻ってきたヒロキ。

 とりあえず適当な通行人に声をかけてみる。


「あの、すみません」

「はい?」


 ヒロキがまず声をかけたのは、一人で歩いていたお婆さんである。買い物に来ていたのか、手に持っているカゴには野菜のようなものが入っていた。


「黒髪のロングヘアーの女の子見ませんでした? 今ちょっとその子を捜してて……」

「黒髪? 残念じゃが知らんのお。他を当たってくれ」

「あ、ありがとうございました……」


 老婆に軽く会釈をするヒロキ。

 有力な情報は得られなかったが、まだまだこれからである。

 次にヒロキは銀髪の男に目をつけた。細身だが目つきが悪く、どこか冷酷な雰囲気を感じる男である。

 その背中には青い石が埋め込まれた太刀を携えており、ヒロキはここが日本ではないことを改めて思い知らされた。


「ああ、俺が行くまで手は出すなよ……」

「あのー、すみません」


 声をかけられた男は、チラッとヒロキに目線をやると、軽く左手を上げて「ちょっと待て」と小声で呟いた。


「悪い、一回切る。また後でな」


 そう言って、右手で持って耳に当てていた小型の装置をポケットに突っ込む。携帯電話のようなものだろうか?


「で、何の用だ、少年」

「あ、話しかけるタイミング悪かったですよね? ……すみません」

「構わん。それより早く用件を言え」

「えっと……黒髪でロングヘアーの女の子を捜してるんですけど、心当たりないですかね?」

「………………」

「あの、俺と同じくらいの年齢の子なんですけど……」

「……そいつとお前はどういう関係なんだ?」

「え? えーっと、大切な友人……ですかね?」

「そうか。少年、お前の名は?」

「ほ、星屋宏樹です……」


 自分より背の高い刀を持った男に威圧感と恐怖を感じ、つい訊かれたことに素直に答えてしまうヒロキ。


「……。悪いが見てないな。ただ、これから先その女を見かけることがあれば、お前のことは伝えておいてやる」

「……! ありがとうございます!」


 ヒロキが頭を下げている間にも、銀髪の男はさっさと歩いて行ってしまった。

「人は見かけによらないんだな」と感じるヒロキ。

 とはいえ未だにマナミの情報はゼロであるため、ヒロキの聞き込み調査はまだまだ続くのだった。

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