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君と眺めた4色の空  作者: 緑月晨夜
第一章 黒髪の捜し人
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第12話 ラタフィの作戦

「黒髪の子を渡せ……? 何ですか藪から棒に」

「…………」


 テオの問いにすぐには答えを出せないヒロキ。

 下手に答えても事は悪い方へと運ぶだけだろう。

 そもそもの話、この傭兵達や騎士達がマナミを欲している理由も読めない。


「フン、別に答えなど求めていませんよ。君達が何だろうと僕はただファイさんに付き従うだけですから」

「おいテオ、あまり油断するな」


 ファイが徐ろにに口を開いた。

 このどこか冷酷な声の主にヒロキは見覚えがある。

 彼はそう、ラタフィと出会うよりも前、マナミを見かけたらヒロキのことを伝えておくと言ってくれた人物だ。

 間違いない。


「まさかこんなすぐに会うことになるとはな、少年。お前に……」


 ファイの背中の太刀の刃が月の光を反射して、妖しく輝いている。

 月、とは言っても正確には、月に似た何かであるが。


「あなた達の目的は何なんですか。……どうして高瀬さんを狙うんですか!」

「……全ては(アリア)に逢うためだ」

「アリア……?」


 これもラタフィが言っていた。

 確か、四聖者とやらと共に悪を倒したとかっていう女性だ。

 しかし、そのアリアとマナミがどう結びつくのか到底見当がつかない。


「た、高瀬さんとは何の関係もないですよね……?」


 マナミがこうしてさらわれている以上、関係ないわけないだろうとは思いながらも、ヒロキはそう口にした。

 しかし、ファイからの返答は予想外のものだった。


「ああ、関係なかったな。やはりそう簡単に神には逢えないようだ」


 ……マナミは関係なかった?

 それはつまり人違いだったということか?

 だとしたら、どうしてこの二人は騎士にマナミを引き渡すことを頑なに拒んでいたのだろうか。

 ヒロキの頭の中を疑念が飛び交うが、その答えが出るまで現実は待ってくれるわけではない。

 事態は次々に展開していく。

 にわかにテオの顔つきが険しいものへと変わったのだ。


「ファイさん、どうやらまだ戦う必要があるみたいです」

「ん?」


 テオに言われファイが視線を向けた先には、ゆっくりと立ち上がる水色髪の女騎士の姿があった。

 剣を前方に構え、ファイとテオを射抜くような眼差しで捉えている。


「シ、シアンさん!?」


 魔力を消耗して戦う力などもうどこにも残っていないと思っていただけに、驚くヒロキ。

 そんな彼に、得意げな顔をして説明し出すのはやはりこの少女。


「フ、気になっているようだから教えてあげよう。僕があの騎士隊長を復活させたのさ」

「ラタフィが、シアンさんを……?」

「そう、僕の魔力を空気を介して少しずつ分け与えていたのさ」


 しかし、ラタフィの語気はいつもに比べて弱く感じられた。

 流石の彼女も魔力をかなり消耗しているようである。

 とは言っても、騎士達が倒れている中で人に分け与えるほどの魔力が残っていた魔力オバケであることに違いはないが。


「ラタフィさん、魔力の供給、感謝します」

「チッ、ツインテールが余計なことを! ……まあでも、やることは変わりません。僕のナイトメアで……!」


 テオが再び拳を天高く突き上げる。


「虚勢を張るのなんかやめたら? もうそんな魔力どこにも残ってないだろ? それを悟られないように無理してるみたいだけど、僕の目は誤魔化せないさ」


 ラタフィに指摘され、一瞬動きを止めるテオ。

 テオ自身も、騎士達を制圧する為にかなりの魔力を消耗したことに違いはなかった。


「フン、例えそうだとしても。この命が尽きることになろうとも! 僕はファイさんの為に——!!」

「よせテオ」


 振り下ろそうとした拳を、ファイが掴んで制止した。


「ファ、ファイさん……」

「騎士の一人や二人、俺の力だけで制圧できる。お前はその少女の横にでも座って休んでおけ」

「で、ですが! ……いや、分かりました」


 テオは渋々ファイに言われた通り、未だに悪魔の中にいるマナミの側に腰を下ろした。

 それを確認したファイは背中の太刀を引き抜き、構える。

 銀色の長髪が、風になびいている。

 シアンはそんな彼を相も変わらず睨み続けていたが、彼に向けた剣先は僅かに震えていた。

 それが怒りによるものなのか、緊張によるものなのか。


「先程は不覚を取ったが、今度こそはお前達を断罪してみせる! 国の為に。そしてバルナス様の為に! それがこの国に忠誠を誓った騎士の使命だ!!」

「俺が何者なのかも知らずによく言う。……まあいい。返り討ちにしてやろう」

「覚悟ッ!!」


 全速力で距離を詰めるシアン。

 その勢いのまま、ファイに向かって剣を振り下ろす。

 地面に叩きつけられた剣が巻き起こした土煙が、シアンの剣撃の威力を物語っている。

 しかし、シアンに手応えは一切なかった。


「クッ、躱されたか!」


 すぐさま剣を元の位置に構え直すシアン。

 刹那、シアンの頭部を目掛けて空から太刀が振り下ろされた。

 ファイは上方に高く跳ぶことでシアンの初撃を躱していたのだ。


「……ッ!!」


 間一髪で気付いたシアンが、剣を両手で上空に(かざ)してファイの一撃を防ぐ。

 衝撃が伝わって両手に重い痛みが走るが、その衝撃をも跳ね返す勢いでファイを押し除ける。

 それによって空中に身を投げ出されたファイは、一つも表情を変えることなくバク宙の要領で身体を一回転させ、綺麗な放物線を描いて着地した。

 ヒロキたちは、ファイとシアンの戦いを離れたところから傍観していたのだが、


「さてヒロキ、僕たちも動くとしようか!」

「え?」


 急にラタフィがそんなことを言い出した。

 ファイとシアンの斬り合いに目を奪われていたヒロキは、ラタフィが言った内容を理解するのに数秒を要した。


「『え?』じゃないぞヒロキ。マナミって子を奪還するんだろ? 僕がわざわざあの騎士隊長に魔力を分け与えてやってまでチャンスを作ったんだからな」

「チャンス?」

「ああ。メガネ男の方は魔力をほぼ使い切っているみたいだったから、実質マトモに動けるのは銀髪の男の方だけだ。要するに、銀髪の男さえどうにかできればマナミって子の警備が手薄になるって読んだのさ」

「なるほど? だからシアンさんを復活させたのか。ファイさんと戦わせる為に」


 実際、ラタフィから魔力を分け与えられたシアンは、ラタフィの思惑通りにファイに喧嘩を売ってくれた。

 今マナミの側にいるのは魔力を消耗したテオだけであり、上手くそこまで辿り着ければ、マナミを奪還できる可能性も無くはない。


「でも、どうやってマナミに近づくんだ? シアンさんやファイさんにバレたら斬りかかられたりするんじゃ……?」

「ヒロキは心配性だな。君を斬りに来るほどあの二人は余裕ないよ。目の前の敵で精一杯さ」

「え? だけど……」


 それでもなお恐怖心を捨て切ることが出来ないヒロキ。


「君は何の為にここまで来たんだ。今しかチャンスはないんだぞ」


 ラタフィの言葉が、ヒロキに腹を括らせる。

 そうだ、怯えていてどうする。

 自分よりもマナミの方が怖い思いをしてきたに違いないというのに。


「ごめんラタフィ、俺、行くよ。高瀬さんを助けに!」

「フ、そう来なくっちゃな!」


 二人は一歩を踏み出した。眠り姫(マナミ)を奪還する為に。

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