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君と眺めた4色の空  作者: 緑月晨夜
第一章 黒髪の捜し人
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第11話 追憶の悪夢

 走ってきたヒロキ達の目に映った光景。

 それは、銀髪の男とスクエア眼鏡の男、そして黒髪の少女こと高瀬真波が騎士数名に囲まれているというものだった。

 囲まれている二人の男は話に聞く傭兵だろう。

 何より、マナミも本当にこの世界に転移していた。

 まずはその事実の確認ができたことに、嬉しさを覚えるヒロキ。

 しかしマナミは何故かずっと俯いている。

 まあ、いきなり訳の分からない世界に飛ばされて、武器を携えた男達に連行されたとなれば、下しか向けないのも仕方がない。不安や恐怖で一杯だろうから。

 現場に駆けつけてきたシアンに対し、騎士の一人が、


「隊長、御足労いただきありがとうございます!」


 ウェストゲートを封鎖していた騎士とほぼ同じ台詞を吐いた上で、これまた綺麗に敬礼をしてみせた。

 その騎士の言葉を耳にして、俯いていたマナミはこの場に新しく誰かがやってきたことを察した。

 それが誰であるかを確認すべく顔を上げると、そこに居たのは水色髪の武装した女と、ローブを見に纏ったツインテール少女、そして見慣れたブレザーを着た——


「星屋く……!!」

「シッ」


 名前を呼ばれかけたヒロキは、咄嗟に人差し指を自身の口の前に立てた。

 シアンに事情を明かすべきではないと結論付いた今、マナミとの関係も勘付かれるわけにはいかない。

 そんな中、不意に眼鏡の傭兵が声を発した。


「それで? いつになったら僕達は解放してもらえるんですかね」


 いかにも嫌味たらしく放たれたその言葉が、シアンの癇に障ったようで、


「私の部下達からもあったと思いますが、その黒髪の少女を引き渡せばすぐにでも解放しますよ?」


 敬語ながらもムッとした感情を隠す様子もなく、そう返した。


「だそうですよ。ファイさん、どうします?」

「——一つ訊きたいのだが、もし俺たちがその要求を拒否したらどうするつもりだ」


 眼鏡の傭兵がもう一人の仲間に問うと、その問われた銀髪の男はシアンに向けて問うた。


「そのときは武力行使です。国に、そしてバルナス様に忠誠を誓いしこの剣で、あなた方を断罪します」


 シアンの説得とやらは、ほぼ脅迫である。

 それに加え、戦闘を回避する気もあまり無いようだ。

 戦闘になれば危険だとか言っていた割には、自分から戦闘を仕掛けているようにしか見えない。


「フ、愚問だったな。……テオ!」

「了解ですファイさん! ——『ナイトメア』!!」


 テオと呼ばれたスクエア眼鏡の傭兵は、右手で拳を作るとそれを天高く突き上げたかと思えば、その勢いを殺さぬまま今度は地面に急降下させた。

 それと同時、彼の拳からは黒い靄が急スピードで放たれた。


「……!! (みんな)、防げ!!」


 ラタフィが咄嗟に叫ぶが、高速で円状に広がる黒い靄に騎士団やヒロキ達は飲まれてしまった。

 視界が真っ暗に染まっていく中で、ヒロキは意識が薄れていくのを微かに感じたのだった。




 桜が散り始める季節。

 高校の入学式からまだ数週間しか経っていない時期に、とある私立高校の一教室の片隅で、黒髪ロングの女子生徒が一人の男子生徒に声をかけた。


「星屋君、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」

「ん? ……えっと、あ、高瀬さん……だっけ? 何かな?」

「男子の図書委員って星屋君で合ってるよね?」

「図書委員? あー、そういや俺か。うん、合ってる」


 体育委員以外なら何でもよかった宏樹は、クラスでの委員会決めのときに何も考えず適当に挙手していたのだ。

 その結果、図書委員になっていた。


「……良かった。これから図書委員の定例委員会があるから一緒に行こう?」

「え? そうなの? 帰る気満々だったんだけど……」

「駄目だよ。初めての定例委員会ってことで、一年生は強制参加なんだって。二年生以降は二人の内のどちらかの参加でいいみたいだけど」


 真波の声のトーンがあからさまに落ちた。


「ま、まあ、行くけどね? い、行かないなんて言ってないしー?」


 ビビった宏樹は、大人しく定例委員会に参加することにした。

 高校に入学して早々、女子からの評価を下げるようなことはあまりしたくはない。

 宏樹も高校で彼女を作って青春デビューしたいとは思っているのである。


「うんうん、図書委員担当の大沢先生って先生はとても怖いらしいから、賢明な判断だと思うよ」

「へ、へえ」

「噂だと、サボった生徒は磔にされた上に八つ裂きにされるんだって」

「え、それくらい怒ると怖いってことだよね? 比喩表現的なやつだよね? 本当に八つ裂かれないよね?」

「じゃあ行くよー」

「ス、スルー!?」


 昇降口に向かうクラスメート達を尻目に、図書室に連行される宏樹だった。



 これって、高瀬さんと初めて話したときの……。

 どうしてこんなのを回想してるんだ?

 あれ? そもそも俺ってどうなったんだっけ……?

 確か黒い靄に包まれて、意識が飛んで——



 場所は二年六組の教室。

 図書委員の定例委員会はこの教室で行われる。


「定刻ですので、これより今年度初の定例委員会を始めます」


 そう発言したのは、教壇に立っている女の先生である。

 見るからに性格が捻くれていそうな顔をしている。

 生徒たちから好かれているような先生には到底見えないオバさんが、図書委員会の担当であるようだ。


「えー、まず、私が図書委員会担当の大沢靖子(おおさわやすこ)です。自慢じゃないですけどね、大半の生徒からは恐れられています」


 このオバさんの自己紹介が長くなることを第六感で早々に悟った宏樹は、迷わず机に突っ伏すことにした。

 寝る方が有意義な時間を過ごせるというものである。


「例えば、長い教師生活の中でこんな渾名を付けられていますね。『図書室の女帝』『学校の恥』『羅生門の老婆』『大騒ぎ靖子』『ドブ』『破けたゴミ袋みたいな顔』……」


 延々と自身の渾名を並べ立てる大沢。

 しかしそんな彼女は、机に突っ伏した一人の男子生徒の存在に気付くことになる。


「おや?」


 急に渾名の羅列を止めたかと思えば、その視線は真っ直ぐと宏樹を貫いていた。

 大沢の異変に気付いた真波が、ふと隣の席に目をやる。

 宏樹は気持ち良さそうに眠っていた。


「ちょ、ちょっと星屋君、起きて」

『ヒロ……、起……ろ!』


 真波が宏樹の肩を揺するがら彼が起きる気配はない。


「早速、八つ裂き案件ですかねぇ?」


 大沢は宏樹の方へと真っ直ぐ歩みを進める。


『目を覚ま……、ヒ……キ!』


 しかし依然として彼は突っ伏したままである。

 何かに縛られているかのように彼は起きない。


「死んで後悔しなさいねぇ。私の前で寝たことを……!」

『起きろ、ヒロキ!!!!』


 宏樹は一瞬、どこか違う所から名前を呼ばれている気がした。

 そしてその呼び声は宏樹を現実にへと引き戻すことになるのである。




 気が付くとそこは教室ではなかった。

 真上を見上げてみると天井ではなく、星々が輝く夜空が広がっている。


「お、俺は一体……?」

「おお、ようやく目が覚めたかヒロキ!」


 こちらを振り向いてそう声をかけてきたのは、高瀬真波でも大沢靖子でもなくツインテールにローブ姿の少女である。


「随分と(うな)されていたな。……って言っても、そういう魔法だから仕方ないけどな」

「ラ、ラタフィ、俺はどうなったんだ……? それにこの状況、何があった?」


 ヒロキの言うこの状況とは、辺りに地に伏した騎士達が沢山転がっているという状況のことである。

 シアンを含め騎士団は全滅。

 傭兵二人はと言えば、いくらか傷を負ってはいるものの殆どノーダメージのようで、悠々と佇まっている。

 肝心なマナミは、並んで立っているその二人の後ろで肩を丸めて震えている。

 一つ気になる点は、彼女に目立った外傷がないことだ。

 騎士達は剣を抜いた状態で倒れているし、それなりに危険な戦闘が繰り広げられていたと見て間違いないのだが……。

 まあ、無事であることに越したことはないか。


「ようやく起きたようですね、ヒロキ君。気付いているとは思いますが、騎士共の意識は僕達が刈り取ったんですよ。僕の『ナイトメア』でゴリゴリと魔力を削りながらね」


 スクエア眼鏡の男、テオが得意げに発言する。


「魔力を削る……?」


 言われたことを思わずオウム返ししてしまうヒロキ。


「フン、察しが悪いですね。『ナイトメア』は相手を悪夢へと誘う黒魔法。マトモに食らったらその場でおねんねです。つまり騎士共は否が応でも抵抗(レジスト)するために魔力を消費してくれるというわけですよ」


 抵抗(レジスト)……?

 未だにテオが何を言っているのか掴めないヒロキだが、何かが引っかかる。

 どこかで似たような話を聞いた気がするのだ。

 それを思い出すために記憶を遡る。

 ………………。


『因みに攻撃魔法も同じで、魔力を込めるほど威力が上がるし、それを打ち消すのに必要な魔力も多くなる』


 ……これか。

 そうだ。ラタフィがそんなことを言っていた。

 この、『魔法を打ち消すこと』を『抵抗(レジスト)』と呼ぶと仮定してみる。

 とすると、テオの発言と合わせて鑑みるに、ヒロキはテオの『ナイトメア』なる魔法を抵抗(レジスト)出来ずに悪夢を見る羽目になったが、他のラタフィや騎士達は抵抗(レジスト)して眠りすらしていないということになる。


「それで、ヒロキが眠っている間にあの眼鏡男が『ナイトメア』を多用し、騎士達は魔力を消耗し続けて衰弱していったというわけさ」

「ええ。そこのツインテールの言う通りです。弱った騎士達を痛めつけるのは、それはそれは楽しかったですよ」


 サディスティックな表情で笑みを浮かべるテオ。

 ファイは依然と口を閉ざしたままである。

 そんな二人のせいで、何とも居心地の悪い雰囲気が漂っている。

 しかしヒロキの目的は何も変わってはいない。


「……えっと、その黒髪の子を俺に渡してくれませんか」


 マナミの奪還。ただそれだけである。

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