1-6 異世界の初遭遇
注・最後に第三者視点があります。
血抜きの終えたイノシシの解体はチートな爪のお陰で何と完了した。
ホントこの体には助けられてはいるが、こうも都合が良いと怖さもあるな。さて、解体されたイノシシの後始末だが、まずは内臓はこのまま血抜きに使った穴に放り込んで埋めるとして。肉と皮の処理だがどうすればいいんだこれ?
皮はどう処理するんだっけ?確かナメシとか言う工程を聞いたことあるけど具体的なやり方はわからないしなぁ…。適当に川底の砂利で擦って乾かしてみるか。
で、皮は適当に扱っても最悪捨てれば良いが、肉のほうが問題だ。そもそも肉食動物をやり過ごす為にイノシシと戦う羽目になった訳だが、その結果出てきた肉の処理を適当に済ませたら本末転倒だ。
腐らせても腐敗臭が元で呼び寄せる事になるだろうし、かと言って干し肉の加工とか知らないし、火を起そうにも道具があるわけでもなし。木を擦り合わせて火を起す方法とかあったけど、あれは摩擦熱で綿とか燃える素材に火をつけてたはずだ。
枯れ枝なんかはあるけど火種になりそうなものは見当たらない。
まぁ、ない物をいつまで探していたって始まらない。適当なサイズの枝を擦り合わせてみるかと、俺はその辺にある枝で火を起し始めてみた。
しばらく枝と格闘を続けては見たが、一向に火の気配はない。微妙に焦げ臭い臭いはするけども煙も出ないまま日が暮れ始めた。やっぱ素人知識で火起しなんて無理だよなぁ…。
ひとまずこの生肉は何処か高い位置の木の穴にでも隠しておいて明日また考えるとしよう。
肉の処理が住んでいない状況下で、今まで通り地面に近い位置での睡眠は危険かもしれない。多少寝苦しさは考えられるが、今日からはしばらく木の上で寝るとするか。
薄暗くなってきた森の夜に俺は備えてこの日を終えた。
いつも通り夜には辺りに明かりもなく真っ暗な為か、割りと簡単に眠ることが出来ていたんだが、イノシシとの戦いのせいか今日はいつまでたっても眠気が来ない。肉食動物への警戒から気が立ってる事もあるのかもしれない。
明かりもないとは言ったが目が慣れてくると、意外と月と星の明かりでも周囲の様子を探る位は出来る。鳥の鳴き声は静まり虫の音がやけに大きく聞こえる気もする。目を閉じて気持ちを落ち着け虫の音を楽しんでいれば、その内うつらうつらと眠る事も出来るだろう。そう思い体を木の幹に預けた時だった。遠くから狼の遠吠えのような声が聞こえた。
やはり出てきたか。イノシシの時に半ば確信していたが、この森は異常だ。まるで俺が認識する事で周囲の環境が変化している。生き物が居ない事に違和感を感じ、探索し始めて直ぐに鳥と虫の確認が出来た。その後ウサリスのような小動物と続き、最後に今日のイノシシ。生態系の順を追って行くように森の生き物が出現し始めたような感覚さえしていた。そして肉食動物を警戒し始めれば狼の声、この体に森と違和感だらけだ。もし、この違和感を突き詰めていけば俺は元の体に、世界に帰れるかもしれない。
先の実戦で感覚は掴めた。正直今の俺はある程度の生物に対してまでは対応可能に思っている。多少チートな肉体と実戦後の高ぶりに、気が大きくなっているかも知れないと言う危惧はある。それでも何処か冷静に思える部分があれば、遠めに確認するぐらいは問題ないだろう。
狼は狩の際に風に乗って漂う獲物の匂いを追っていると聞いたことがある。ここまで遭遇した生き物を見るに姿こそ違えど、修正に大きな差異が見られない。あとは運動性能だな。イノシシの時のようにこちらの動物は前の世界で聞いた動物より運動性能が高く感じる。もしかしたら魔物のような外敵に対応できるように進化してるのかもしれない。だとしたら狼にも同じことが言えるだろう。風下に位置取るのは当然ではあるが、あまり過信せずに行動しよう。幸いこちらの体も匂いには敏感だ。お陰で風に漂う狼の匂いに従って移動すればこちらが風下になるはず、後は気配をなるべく絶って静かに移動すれば問題ないはず。と思っていたが、この考えはあくまで相手が動かない状況が前提だ。遠吠えとは相手との意思疎通に使われる。
そう、狼達は獲物を追っている最中だった事を、俺は気づくべきだった。
さっきよりも狼の鳴き声が近づいている気がする。って言うかこちらの移動速度関係なく、こっちに向かってきてない?とっさに俺は近場の木の上に逃げ込んだ。念の為ヨモギもどきをすり潰して体に塗っておこう。これで俺の体臭も紛れるかも。
木の枝に身を隠して下に注意していた俺の視界に驚くべき者が飛び込んできた。狼は確かに狩の獲物を追ってこちらに向かって来ていたのだが、その獲物はどう見ても人間だった。
私の名前はエマ、辺境開拓団の長である父と共にこの森の傍で興した開拓村に住んでいる。
何時もは多くの恵みをもたらす森であったが、一週間前に動物の姿が忽然と消えた。最初は狩人のおじさんの不調だとみんな笑っていたが、それも三日続くと村のみんなは異常に気づいた。すぐに父は全員に森への立ち入りを禁止し、狩人のおじさんと父を中心に森の調査が始まった。
だが、父達の森の調査は二日で終わった。村から直ぐの所で再び動物が確認されだした。念の為と父は更に二日様子見をしていたが、辺境の開拓地にそれほど食料の余地はない。いまだ畑の拡張も完了していない今森の恵みは貴重な物、森の立ち入り制限は解除された。狩人のおじさんも動物に変化が見られないと言ったのも大きかった。
私は直ぐに薬草『ヨモドキ』を集めに森に入っていった。この薬草は傷薬の原料にもなるが、すり潰せば料理にも使える。一週間も経てば備蓄など底をついていたので、つい森の深くまでわけいってしまった。
慣れた森なのでと思ったのが間違いだったのだろう。普段入らない森の奥で迷った私はそこで父達が探しに来るのを動かずに待つ事にした。帰ったらこっ酷く怒られるかもなぁ。
そんな事を考え火を焚いていたのだが、私は森の異常にもっと気をかけるべきだった。
ふと、うとうとした私の鼻を強い獣臭が刺激し一気に目が覚めた。焚き火から枝を広い辺りに向けると五頭の狼が周りを囲んでいた。
「そんな…この森に狼なんて居なかったはずじゃ…」
そんな私に狼は牙を大きく剥いて呻りつつ近づいてくる。
(このままじゃ…何とか逃げなきゃ…。でもどっちに?)
私の戸惑いを見抜いたように狼は更に近づいてくる。
(どっちでも良い!今はここから逃げなきゃ!)
意を決して火の着いた枝を正面に突き出し、私は走り出した。
初の第三者視点ですが、名乗りを入れる事で多少わかり易くはなっている物の、読み手に依存する所が多いと思います。この辺も上達したら修正を加えたいところですね。
次回はちょっとチートじゃ賄えない部分なので表現方法に苦心してみます。
目標の連休中10話が最低目標ですので読み易さがある程度クリア出来ればまた夜にアップしていきます。