1-5 異世界の初戦闘
イノシシは俺に気づくやすぐさま地面を蹴り突進してきた。
それを俺は横に飛んでやり過ごそうとする。
俺は2重の意味で驚いた。自分と同じサイズの顔がいきなり迫ってくる事態と、それに意識することなく反応できた自分に。目の前に自動車が現れしかも突っ込んでくる。そんな光景を想像してみて欲しい。
ちなみに俺はそんな事態に遭遇すれば反応するまもなく轢かれていると思う。だが、気づいた時には俺は突っ込んできたイノシシを横から見ていた。事態を頭が理解するより体が反応していたのだろうとどこか冷静に見ていた。
確かにここ数日の鍛錬で、さまざまな事態を妄想しつつ足捌きの訓練を続けていた。至近距離からの素早い槍の突き攻撃に始まり、その辺の蔓でくくった枝を矢や魔法弾に見立てた鍛錬。正直中学生の頃はよく電球のスイッチ紐をよける鍛錬もやっていた。
その成果がこの場で活きたのかもしれない。
しかし、ご存知だろうか?猪突猛進等といわれ走り出したイノシシは方向転換が苦手と思われがちだが、決して出来ない訳ではない。今目の前のイノシシがそうなのだから。
まるで事故に遭遇した時に見るというスローモーションの様に、ゆっくりと顔をこちらに向け前足に加重を移動させて止まろうとしている様が見える。あの速度で突っ込んで来ておいて方向転換も出来るのかよ!?
まずいと思った時には俺の体がまた反応していた。こちらを向いたイノシシの頭に左手を伸ばし額に手を置いていた。イノシシはそれを振り払おうとしているのか、少し頭を下げ蹴り足と同時にかちあげた。
と、同時に俺もその勢いを利用し、片手飛び箱でもするように奴の頭の上を飛びすぎて行った。
着地するとすぐさま構え向き合う。ここで俺の頭はVRで映像を見るように他人事に映っていた今の流れに理解が追いついてきた。
え?何今の?俺自分で動いてた?あんな曲芸みたいな動きを??
イノシシも5メートル程進んで止まりこちらに向き直っていた。
突然始まった異世界バトル、前の世界では殴り合いの経験すらない俺にこれはハードル高すぎませんか?しかもこれは敗北=死の命がけの物だ。
だがどうだろう、俺はこんな状況なのにも関わらずどこか冷静な一面がある自分に気づいていた。さっきの超人的な反応もそうだが、この体かなりおかしい。
普通に考えればすぐ判る筈だろう。既知の動きを完全にトレース出来るなんてチートを超えて異常だ。寸頸の時も、先の咄嗟の回避反応、この体は俺の想像以上に何かあるかもしれない。
しかし、その超チートもここで食われたらお終いだ。心のどこかで今負けて食われれば人間の姿に戻り、部屋の布団で目が覚めるかもしれない。そんな思いがわきあがる。それを否定し現実を見ろと頭が訴えかけてくる。どうする?俺の数瞬の悩みを見抜くようにイノシシが地面を蹴り始めた。
夢だとしてあの臭いはなんだったのか?夢だとしても1週間も鮮明に何していたのか思い出せるのか?明晰夢?駄目だ、考えがまとまらない。
イノシシが前傾姿勢をとり後ろ足に力を込める様が見えた。
決めろ俺。
目の前の光景が再びスローモーションのように動き始める。夢か現実か?それよりも根源的な二者択一だ。死ぬか殺すか。
俺が決意すると同時に俺もイノシシに向かって飛び出す。目の前いっぱいにイノシシの顔が見えた。向こうに止まる気配はない、先ほどの様に少し頭を下げるイノシシ、
それに合わせて右足、腰右腕右手とひねる様に前へと送り出す。
森の中で大きな衝撃音が鳴り響いた。
結果俺はイノシシに打ち勝った。うん、文字通り打ち勝ったんだ。
イノシシの突進力に俺の寸頸がわずかでも劣っていれば…、想像するとぞっとする話だ。
さてここで問題になるのはこのイノシシの処分方法だが、
野生動物の捌き方なんて知らないし道具もない。
いや、捌き方と言うほどではないが解体順序というか皮剥ぎの方法にひとつ思い当たる知識がある。以前読んだ漫画に人間の皮を剥ぐ物があった。鎖骨付近から胸を真っ直ぐ切り開く方法だったはずだが、いや、想像するだけでもかなりグロイな。道具があった所で俺に出来るとは思えない。
しかし、このまま屍骸を放置してもまずい。草食動物の活動が確認されたという事は肉食動物もまた居るはずだ。動物の生態と縄張りの範疇など詳しくは判らないが、それでも獲物が活動する範囲は縄張りとして活動してるはずだろう。
それにこの先、草や果実のみで俺は活動を続けられるのかという疑問も残っている。いくら魔物と言っても腹も減るし睡眠を必要としている。それなら人間の頃の体と同様に栄養と言う問題も出てくるだろう。肉を食わずとも生きては行ける等と言うのは平和な世界でこその話だと思う。
常に命がけで戦う可能性がある生活下では、肉と言う高エネルギーっぽい食べ物は必需品と考えるべきだろう。命のやり取りの覚悟が出来た今、グロイのなんのと言ってる場合ではないかもしれないな。
しかし、道具はどうしよう?石器時代のように石を加工しようかとも思ったが、あれって黒曜石って言う特殊な石だったと記憶してる、もうちょっと真剣に勉強するべきだったなぁ。でも歴史って文明時代以前って趣味の範疇の気がするんだよね。
まぁ、こういったサバイバル状況は遭難とか、前の世界にも遭遇する可能性のある事態に対応する為の予備知識として学習科目になってたのかもな…。いや、遭難したからイノシシ捕獲して食べようとかないない。現実逃避はさておき、ナイフと言わないが何か代替用品ないかな、
と自分の手が目に入った。緑色の手はまだ見慣れないなぁ、ってそうじゃなくて。爪だ。ゴブリンって棍棒持って襲い掛かるイメージが強いけど、前から思ってたんだよね。いやその爪使ったほうが殺傷力たかくね?と、試しに血抜きの為に首筋に爪を立ててスッと横に引いてみた。
存外簡単に切れた所からは血が溢れてきた。
もうちょっと格闘系の作品を読んで勉強しなきゃなぁと思わせてくれる内容です。
もっと表現力がついた頃に書き直してみたい部分ですね。