1-1 異世界の目覚めは異臭から
初投稿連作です。よろしくお願いします。
朝日を感じて目を覚ました俺の目の前には深い森の木々
その間を吹き抜ける風が俺の頬を撫でて行く。
目にまぶしい緑と爽やかな一陣の風は、寝起きの俺の心にペールギュントの朝の気分を奏でる。
…あれ?俺部屋で寝たはずじゃ…?!
次第に覚醒を促す俺の意識を唐突にたたき起こす事態が起きる。
最早刺激臭ともいえる臭いが俺の鼻を蹂躙する。
寝起きに生ゴミの腐敗臭をかがされる気分をどう表現すべきだろうか?
口で呼吸しても感じる異臭に顔を顰めつつ俺は飛び起きた。
(何だよこれ!?加齢臭にしたってひど過ぎるし、そもそも俺はまだ20代だぞ!?)
鼻を押さえようと動かした俺の手が視界入ると妙の事に気づく、
緑色の何かが俺の目の前にあった。
(…は?何だこれ?)
数瞬考え込んだ俺は手を動かす。
動かそうと想ったとおりに目の前の緑色の物体が動くのを確認した俺は自分の体に目を落とした。
自身の体と手足、そして置かれている状況を認識した俺はあらん限りの声で叫んだ
「ッオギャグゲゴゴガアァッッッッッ!!(ぬあんじゃこれはぁぁぁぁぁぁ!)」
俺の名は佐藤 清。
年齢24歳独身彼女いない暦=年齢の一般的な引き篭もり3年生だ。
いや、だった と表現するべきか…
目を覚ました俺は緑色の体と腰蓑一丁だった。
(いやいやいいやいや!何これ何!?っていうかココ何処よ!?)
おk!もちつけ俺!確かに昨日俺は引きこもった自分の部屋のベットで寝たはず、
にもかかわらず起きたら刺激臭を放つ緑色の体で目覚めた。
…風呂入らなかったから?
いや、1日風呂入らないからってこのアンモニアを凌ぐ刺激臭の説明は無理だろ?!
そもそも風呂入らなくて緑色になんてなるはずないし
挙句に森の中って意味がわからない!?
「ッグゴガルガガ?!(なんだよこれ?!)」
…今の何?
さっきも何か俺の叫び声に合わせてへんなグギャグギャした声がしてたけど…
「…グァー、グァー…」
…待て待て待て…もう一回、
「グァー、グァー…」
うん、もう何か色々予想がたって来たが認めるわけにはいかない、再度俺は声を出してみた。
「グアラゴゴグガガガ(本日は晴天なり)」
静かな森の中でそれははっきりと俺の耳に届いた。
「グアラギャガガグガラグギャガー!!(何で俺グギャグギャ言ってるのー!!)」
もう確定に近いって言うか内心認めてるけどまだだ!
まだワンチャンある!
あるはず、あってくださいお願いします!!
俺は走り出した。
この嫌な想定を覆す何かを得ようとあがく為に
しかし、そんな思いと裏腹に引き篭もり暦3年目の運動不足だったはずの俺の足は力強く大地を蹴り
颯爽と森の中を走っていく。
やはりそうなのか?嫌な汗が吹き出る。
その度に鼻にはあの刺激臭が届き激しい嘔吐感に襲われる
当てがない訳ではない、なぜか判るんだ。
刺激臭とは別の匂い、水の匂いとその方向が…
そうして森の中を流れる川までたどり着いた俺は息を整え
意を決して覗き込んだ。自分の顔を確認する為に
(ははっ…マジかよ)
流れの中ぼんやりとした輪郭で映っていた物を見て俺は確信を得ると同時に絶望した。
緑色の肌と長くとがった鼻。
それに異臭、いや体臭と腰蓑に小さな背丈と短い手足
その日、目覚めた俺はゴブリンになっていた。