第八話『ギルドに入ろう②』
ようやく抜けた腰を復活させた俺は、『ベール』の通りを歩いていた。
あ、束ねられた『ワイバーンの肉』だけど、今は俺が肩に担いでる。
街中を歩くのに、小さな女の子に荷物持たせたままじゃ人目が気になるからな。
『ベール』の街は大きな都市だけあって賑わっており、通りの左右には多くの露店がひしめいている。
見るからに冒険者という格好の者も多く、流石は領主が直々に冒険者ギルドを運営&斡旋しているだけはあるって感じだ。
……ちなみに通りには肉屋もあったから、余裕があれば後で覗いてみよう。
この街の肉屋がどんなモンか、やっぱ気になるわな。
そんなこんなで俺は『ベール』の街中を歩いているのだが――
「なにから聞けばいいんだろうな。とりあえず、その姿はどういう原理なワケ?」
勿論、俺の隣には女の子の姿になったロゼがいる。
『原理もなにも、魔術に決まっておろうが。そもそもワシは知識に長ける【賢老竜】なのだぞ? 変化の魔術なんぞ使えて当たり前だ』
「ああ、さいですか……」
今更かもしれないが、【賢老竜】のスペックはもはや俺の想像を超えている。
俺自身は全く魔術に詳しくない、というか興味関心がないが、魔術で【ドラゴン】が人間になるなんて話は聞いたこともない。
つーかそんな魔術があること自体が驚きだ。
『フフン、ワシは"人間"の趣味趣向にも詳しいのだぞ? どうだ、この姿は。お主らはこういう見た目が好ましいのであろう?』
自慢気に笑って、小さなロゼは胸を張る。
う~ん……一般的に"幼い女の子"は確かに社会から保護対象にされやすいが、冒険者をやるにはイマイチ向いてないような……
というか、人間の趣味趣向を反映させた結果がそれなのか?
お前の知識って、実は微妙に偏ってねえ……?
「まあ、確かに得なことはあるかもしれないけどよ……」
『む? お主はあまり好きではないのか? 別にいつでも変えられるぞ。なんなら、筋肉隆々で髭面の"雄"にでも――』
「そのままでいいです。そのままがいいです」
冒険者やるならそっちが相応しいのかもしれないが、どうせなら"むさくるしい男"よりは"可愛い女の子"の方がいい。
……悲しきかな、そう思ってしまう男子諸君は多いのではなかろうか。
『そうかそうか。いやなに、どうせ人里に降りる時だけの話だ。街の外では【ドラゴン】の姿に戻るから安心せい』
「はあ、そうですかい。それで、さっきの守備兵にはなにを見せたんだ? えらく簡単に通してくれたけど……」
そう、次に聞きたいのが城門での出来事だ。
ロゼが"証明書"と言った物を見た途端、守備兵はかしこまっていた。
だが無論、【ドラゴン】である彼女が証明書など持っているワケがない。
そもそもどこに持ってたんだ、そんなモン……
『ああ、コレを見せたのだ』
ロゼは再び鎧の隙間からソレを取り出すと、俺に見せる。
すると――そこにはこう書かれてあった。
【バージル公国・国家認定魔術師証明書】
国王アルバート・バージルの下、
国家認定魔術師であることを証明する。
【第一級】エレメンタル・ソーサラー
【氏名】ロッタ・ルジュ
内容を見た俺は、目ン玉がぶっ飛ぶ。
「こ……コレ、隣の国の【国家認定魔術師証明書】じゃねえか! なんでこんなモン持ってるんだ!?」
『少し前に、ワシが喰い殺した冒険者が落としたモノよ。以外と手強かったのでな、興味本位で持っていたが……役に立ってくれたようだ』
まるでスポーツの試合で得たちょっとした勲章を見せるような、そんな軽いノリで説明するロゼ。
……ゾッとするわ、マジで。
エレメンタル・ソーサラーだって? しかも国家認定で、第一級?
世界中探しても、そこまでのランクに上り詰められる魔術師はほとんどいないぞ。
それを、喰い殺したとか、以外と手強かったとか……
もうやべー奴とかそんな次元で語れるレベルじゃないだろ……
俺は改めて、自分がどういう存在と一緒にいるのか思い知った。
「は、ははは……そ、そうか、まあ、いいんじゃない? いや、良くはないけど」
『冒険者のギルドで証明書を発行すれば、コレも用済みだ。……"人間"の世界ではこの程度の犯罪行為、幾らでも行われておろうが。そう縮こまるな』
違います。他人の証明書で不法入城したことをビビってるんじゃないです。
お前が恐ろしすぎるから縮こまってるんです。
なんだよ、第一級エレメンタル・ソーサラーを喰い殺すって。怖すぎるわマジで。
俺がそんなことを思ってガタガタと震えていると、
『おっと、着いたぞ。ここが冒険者ギルドのようだ』
ロゼの言葉を聞いて、俺はハッとして顔を上げる。
そこには大きな木造の建物があり、看板にはこう書かれてあった。
――"冒険者ギルド【沈まぬ月】"