第十三話『職業《サポーター》を探せ』
宿屋で一泊した俺とロゼは、翌日の昼間には再び冒険者ギルド【沈まぬ月】へと向かうために『ベール』の通りを歩いていた。
『そういえばお主、昨日も【ワイバーン】を喰ろうたことでレベルアップとスキルの獲得があるはずだぞ。確認してみよ』
不意にロゼが俺に対して言ってくる。
そういえば、昨日はから揚げ喰って泣き出すロゼを見たことや、急遽おかわりを作らされたりなどで《ステータス》の確認を忘れていた。
「ああ、そういやそうだな」
俺は自らの《ステータス》を開いてみる。
LEVEL UP !!!
【 名前 】 ダート・ハナマサ
【 年齢 】 18
【 職業 】 肉屋/冒険者(仮)
【 レベル 】 7 → 10 (↑)
【 体力 】 640 → 700 (↑)
【 魔力 】 17 → 20 (↑)
【 攻撃力 】 135 → 150 (↑)
【 防御力 】 107 → 110 (↑)
【 俊敏性 】 95 → 115 (↑↑)/BONUS UP!
【 アビリティ1 】 『肉の目利き』:無意識の内に極上の肉を選ぶ。
【 アビリティ2 】 『料理上手 (まあまあ)』:作った竜肉料理を食べることでランダムボーナス(小)が付く。
【 スキル 】 『ウィング・ランⅠ』 → 『ウィング・ランⅡ』(↑)
ス キ ル 成 長 !!!
『ウィング・ランⅡ』
短時間、風の如き速さで走れる(移動速度UP)
『ワイバーンの肉』により成長。
お~、上がってる上がってる。
スキルも確かに成長してるな。
それから、地味に【 職業 】の欄が"冒険者(仮)"から"新米冒険者"に変わってる。
昨日冒険者ギルドに登録を済ませたからだろう。
細かい部分も、逐一更新されていくんだな。
新設設計だ。
しかし『ドラゴンの肉』ってのは、本当に喰えば喰うほどレベルが上がるんだな。
このまま喰い続けていけば、いつか本当に最強になれそうだ。
などと俺は内心でニヤニヤしていたが――ふと、あることを思う。
「そういえば俺って自分の《ステータス》しか見てないけど、ロゼのも見れるのか?」
『ワシか? ああ、見れるぞ。もっとも【ワイバーン】一匹程度では、全くレベルなど上がっておらぬだろうがな』
「へえ、やっぱ【ドラゴン】にも《ステータス》が存在するんだな。ちょっと見せてくれよ」
『フム、構わぬが……』
ロゼは"状態認識"と唱え、目の前に半透明の表示板を出現させる。
すかさず、俺はその表示板を覗き込んだ。
そこには――
【 名前 】 ロジェルナ・リントヴルム
【 年齢 】 3315
【 職業 】 賢老竜/冒険……者……?
【 レベル 】 6998
【 体力 】 20335
【 魔力 】 69772
【 攻撃力 】 57111
【 防御力 】 19882
【 俊敏性 】 77819
【 アビリティ1 】 『知の湧泉』:無尽蔵に情報を吸収し自らの知識に出来る。
【 アビリティ2 】 『ウィザード・オブ・ドラゴン』:世界に存在するあらゆる魔術を会得し使用できる。
【 アビリティ3 】 『ワイズ・ドラゴン・スキン』:魔術によるダメージを70%減少。
【 アビリティ4 】 『フルパワー・ドラゴンブレス』:全魔力を一度のドラゴンブレスに注ぎ込むことが出来る。
【 スキル 】 ※表示し切れません。
「…………?????」
ロゼの《ステータス》を見た俺は、頭上に大量の"?"を浮かべた。
「……ロゼしゃん……? あの……《ステータス》が最初から最後までおかしいんですが……?」
『ム? どこもおかしくはないぞ? コレがワシの《ステータス》だが』
「そ、そうなんだ……ハ、ハハハ……」
すごーい、メッッッッッチャ強ーい。
普通に反則だろ、コレ。
いや、そもそも数値上の強さからアビリティのヤバさまでツッコミどころ満載なんだが。
"【 スキル 】 ※表示し切れません。"ってなんだよ。
いったい幾つスキルあるんだよ。
"【 職業 】 賢老竜/冒険……者……?"ってどういうことだよ
なんかもう《ステータス》さんが混乱しちまってるじゃねえか。
こんなぶっ飛んだ《ステータス》を見れば、【賢老竜】が"幻の【ドラゴン】"って言われるのも頷ける。
「……なんつーかソレ見ると、何匹【ドラゴン】を喰ってもお前に勝てない気がするわ」
『当たり前だ。【賢老竜】がそう簡単に"人間"なんぞに負けてたまるか』
ロゼは鼻高々と自慢気に言う。
こうもスペック差を見せつけられると、怒る気もおきない。
――――そうこうして通りを歩いている内に、ようやく冒険者ギルド【沈まぬ月】に到着する。
まず、昨日料理した【ワイバーン】の余った部分をギルドに買い取ってもらい、幾らかの小銭を入手した。
まあ所詮【ワイバーン】なんでたかが知れてるけどな。
正直に言えばもっと喰える部分もあったのだが、これ以上持っておいても肉が劣化してしまう。
名残惜しいが、まだ喰えた部分も含めて、丸々全部売り飛ばした。
そうして身軽になった俺はギルドの依頼掲示板――――ではなく、"別な掲示板"の張り紙を見回す。
だが、お目当ての張り紙はない。
「……はぁ、やっぱそう都合よく見つからないよなぁ」
『お主、一体なにを見ておるのだ。依頼の掲示板なら向こうだぞ』
ロゼが訝しげに俺へと注意喚起する。
だけど、そんなのは俺だって知ってるよ。
「いやな、ちょっと"パーティ・メンバー募集"を……」
『パーティ・メンバーだとォ? そんなモノ、ワシがいれば十分ではないか。お望みとあらば、今日だけで百体の【ドラゴン】を狩って見せようぞ』
露骨に不服そうな感じで、小さな眉間にシワを寄せるロゼ。
つーか、さっき見た《ステータス》を持つお前からすれば、ほとんどの冒険者は足手まといレベルだろうが。
……いや、たぶん俺もそうだけど。
「冒険者になったばっかで百体も倒したら、ギルドに怪しまれるだろうが! そもそも戦闘に関しちゃ、ロゼの力を疑ったりなんてしてねえよ」
『ム、では何故だ?』
「《サポーター》の仲間が欲しいんだ。冒険者パーティでいう、ええ~っと……」
『――ああ、荷物持ち担当か。なるほどな』
ロゼはすぐに察してくれたらしい。
流石は【賢老竜】。
その辺の職業が重要なことは、よく理解できているようだ。
"冒険者職業"。
書いて字の如く、冒険者がパーティ内で担う役割のことだ。
基本的に冒険者パーティは二~五名で編成されることが多く、個々に役割が設定される。
大きく分けて"攻撃職"と"支援職"があり、例えば剣士や重装士は"攻撃職"、弓手や魔術師は"支援職"となる。
五人パーティだったら、
・剣士:攻撃:リーダー
・重装士:攻撃
・弓手:支援
・魔術師:支援
・サポーター:支援
みたいな編成になるだろうか。
ちなみに、職業の決め方は自己申告制。
俺やロゼ《ステータス》にそういった類の記述がなかったのは、「俺は○○なんで攻撃職/支援職をやります」みたいな宣言がなされていないからだろう。
とはいえ、俺はデカい『竜斬包丁』を使うから"剣士/攻撃職"で決まりだろうけど。
ロゼは……まあなんでも出来るんじゃなかろうか。
さて、話を戻す。
俺が仲間にしたい冒険者職業《サポーター》――
巨大なバックパックを背負い、あらゆるアイテムの運搬を担当する縁の下の力持ち。
冒険者パーティにおいて、彼らは必要不可欠な存在だ。
個々が装備する武器・防具・最低限のアイテム以外の全てを運搬し、パーティの一員として随行する。
彼らが居てくれないと、せっかく見つけたアイテムや入手した素材などを自分達で持ち帰らないといけなくなる。
それのなにが問題なの? と思うかもしれない。
だがよく言うだろう?
"冒険は家に帰るまでが冒険"ってな。
そう、帰路の途中だって【ドラゴン】が襲ってこないとは限らないのだ。
もしそういう事態に陥った時、両手が素材やアイテムで埋まっていては剣を抜くこともできない。
だから、冒険を円滑に進める役割を担う《サポーター》という職業があるのだ。
攻撃職や戦闘支援職に比べて地味ではあるが、その分冒険中危険も少ないから希望する者は一定数いる。
さらにギルドから《サポーター》のみに支給される"宝箱"が、その価値に拍車をかけている。
――――みたいなことが、"冒険者心得大辞典"の職業紹介に書いてあった。
一応、ざっとは目を通したんだぞ?
絵が載っているページは、ある程度流し読みしたんだ。
文字しか書かれてなかったページは……知らん。
『だが、別にワシが"本来の姿"に戻れば良い話ではないか? 荷物など括り付ければ良い』
「素材やアイテムはそれでいいかもだけど、『ドラゴンの肉』はダメだ。冒険してる間に品質が落ちちまう」
そうなのだ。
素材等と違って、肉は"生もの"なのである。
常温に放置すればどんどん味が悪くなるし、熱い気候の中じゃすぐに腐る。
だから外気にさらしたまま長時間運搬するのは、極力避けたい。
まだ喰えた【ワイバーン】だって、それが理由で売ったくらいなのだ。
辞典によると"宝箱"の中は異なる次元に繋がっているらしく、時間が停止するらしい。
しかもほぼ無限に物を収容できるらしく、そんな便利なモノを使わない手はない。
最初は俺が《サポーター》になって"宝箱"を持てばいいかと思ったが、どうやらギルドに受講料を払って一定期間の訓練と資格を取得しなければ支給してもらえないのだとか。
俺達にはそんな時間も金もないから、仲間を探すしかないってワケだ。
『ウウム、美味い肉が喰えなくなるのは困りものだな。……しかし良いのか? 加入させれば、遅かれ早かれワシの正体を知られることになるぞ』
「ああ、だから人は選ぶよ。ただ正直、知られた所で問題にならないだろうけど」
『ホウ? 何故だ?』
「だって、お前を倒すのなんてムリだろ」
うん、どう考えてもムリだと思うわ。
ロゼのステータスのぶっ飛び具合や、かつて第一級のエレメンタル・ソーサラーを喰い殺したとかいう話からするに、そんじょそこらの冒険者なんかには負けないだろう。
しかも俺が探してるのは《サポーター》。
基本的に戦闘は専門外の職業なんだし、戦いを仕掛ける気になんてならないだろうな。
悪知恵を働かせて国にチクる可能性もあるが、一匹で百の街を壊滅させると伝わる【賢老竜】が相手とくれば、国王も迂闊に手出ししないはずだ。
そもそも、"【賢老竜】が冒険者やってます"なんて国王が信じるかどうか……
『フン、お主も中々わかってきたらしいな。殊勝なことだ』
「ハハハー、タヨリニシテマスー」
うんうんと頷くロゼに対し、棒読みで返事るす俺。
頼りになるのは、まあ間違いないんだけどよ……
『お主が仲間を増やしたいなら好きにすると良い。だが……見た限り《サポーター》の加入希望はなさそうだぞ』
「そうなンだよねぇ。まあ特殊職だし、引く手数多だろうからな」
俺もロゼも悩ましい声を上げる。
そりゃそんな便利な話を聞いたら、どのパーティも《サポーター》を加入させるに決まってる。
実力や経験のある奴らが優先的にスカウトしていく図式だ。
俺達みたいな駆け出しパーティに入ってくれる物好きなんて、ホントにいるのだろうか……?
思わずため息が漏れてしまう。
だが、そんな時――
「あの……アナタ、"ダート・ハナマサ"よね?」
何者かが、俺に話しかけた。