第十一話『竜胸肉の棒棒鶏/竜肉炊き込みご飯/竜もも肉のから揚げ』
残りの『ワイバーンの肉』を使ったメニューを思い付いた俺は、宿屋の台所で支度を始めていた。
オバチャンから貰った野菜以外にも必要な食材は、街まで買い出しに出て調達済みである。
どうしても細かい物が必要になるからな。それくらいの金が残っててよかった……
それじゃあ、今晩のメニューを紹介しよう。
ズバリ、
『竜胸肉の棒棒鶏』
『竜肉炊き込みご飯』
『竜もも肉のから揚げ』
の三品だ。
使う材料はこちら。
『竜胸肉の棒棒鶏』/二人前(人間基準)
・【ワイバーン】の肉(胸肉)/一枚
・トマト(貰い物)/二個
・きゅうり(貰い物)/二本
・長ネギ(貰い物)/一本
・ショウガ(貰い物)/一片
・酒/大さじ二杯
・水/鍋一杯分
・醤油/大さじ一杯
・酢/大さじ一杯
・すりごま/小皿一杯程度
・ごま油/大さじ一杯
『竜肉炊き込みご飯』/二~四人前(人間基準)
・【ワイバーン】の肉(胸肉・もも肉)/適量
・米(調達)/二合
・ニンジン(貰い物)/1/2本
・シメジ(貰い物)/少なめ
・コンニャク(調達)/1/4枚
・油揚げ(調達)/1/2枚
・水/適量
・酒/大さじ一杯
・醤油/大さじ一杯
・みりん/大さじ二杯
・塩/小さじ1/2杯
・切り出しコンブ(調達)/小型一枚
・カツオ節(調達)/一掴み
『竜もも肉のから揚げ』/二人前(人間基準)
・【ワイバーン】の肉(もも肉)/一枚
・ショウガ(貰い物)/一片
・にんにく(貰い物)/一片
・塩/1/2杯
・コショウ/1/2杯
・醤油/小さじ一杯
・ごま油/大さじ一杯
・小麦粉/全体にまぶせる程度
・片栗粉/全体にまぶせる程度
・???/適量
さて、と俺は腕まくりし、両手を水で洗う。
今回は、時間のかかる『竜肉炊き込みご飯』から準備していこう。
とはいえ、やることは簡単だ。
まずなんといっても『ワイバーンの肉』だが、今回ようやくメインである"胸肉"と"もも肉"を使う。
【ワイバーン】を狩ってから約一日が経過してしまっているが、前回必要以上に皮や鱗などは剥いでいないので、大きな鮮度の劣化はないだろう。
念のために、空気に触れていた肉部分は極力スライスする。
やはりこういう時、『竜斬包丁』のように大きな肉切り包丁は重宝するな。
あ、勿論包丁はちゃんと洗ったぞ!
胸肉ともも肉は後の二品でも使うので、必要な量をあらかじめ切り分けておく。
人によっては胸肉ともも肉を同時に入れるのは邪道、なんて言うだろうが、これはこれで食感の違いを楽しめて面白い。
炊き込みご飯に入れる肉の量は好みで良いが、少な目にしておくと、米を炊く際に失敗し難いだろう。
それぞれの肉を一口サイズに切ったら、今度はニンジンをいちょう切りに、シメジは石づきを切って手でほぐし、コンニャクと油揚げも薄く切る。
油揚げは熱湯で油抜きするとサッパリとした味わいになるが、コレは好みだな。
全てを切り終えたら土鍋を用意して米を入れ、水、酒、醤油、みりん、塩を加える。
米がしっかりと浸かったら、その上に切った肉と野菜、コンブとカツオ節なんかの具材を置いてやるんだ。
注意点として、米と具材を混ぜるなよ。上手く火が通らなくなるからな。
これで後はフタをして、様子を見ながら火にかけてやれば『竜肉炊き込みご飯』はOKだ。
炊き上がるまでに一時間くらいかかるから、他の料理の準備に入る。
次は『竜胸肉の棒棒鶏』を作る。
これも簡単だけど、胸肉に火が通り過ぎないように気を付けよう。
特に【ワイバーン】の胸肉はほとんど脂肪がなくて、火が強いとすぐにパサパサの食感になってしまうだろう。
まず用意する胸肉の塊だけど、コレに串で何ヵ所か穴を空けてやる。
気持ち多めに刺しておくと、上手く中まで火が通るかな。
……言っておくが、勢い余って生肉の状態で切り分けるんじゃないぞ。まあそれでも調理できるけど。
穴を空けた胸肉の塊を鍋に入れたら、そこに水、酒、すりおろしたショウガ、それからざっくりと切り分けた長ネギの葉を入れる。
長ネギの葉ってのは、上の青い部分のことだ。よく薬味なんかに使われる固い部分だな。
そうしたら中火にかけてやって、沸騰したらすぐに火を消す。
そのまましばらく、余熱だけで肉に火を通すんだ。
だいたい三十分も置いておけば、丁度良くなるだろう。
肉を放置している間にきゅうりを細切りにし、トマトをくし切りにする。
トマトは他にも薄切りにしてやってもいいし、好みの切り方で問題ない。
ただ棒棒鶏におけるトマトは"彩り"だから、こだわると見栄えが良くなるぞ。
野菜を切ったらごまダレを作る。
小皿にみじん切りにした長ネギ、醤油、酢、すりごま、ごま油を入れ、よく和える。
甘いタレが好きなら、砂糖を加えてやっても美味くなるはずだ。
仕上げに、切ったきゅうりとトマトを皿に盛りつけておき、鍋の中から胸肉を取り出す。
この時、肉がまだ熱いかもしれないから注意。
胸肉にしっかり火が通っていることを確認したら、手でほぐして皿の上に盛っていく。
熱くて手で触れなかったり、胸肉の噛み応えをしっかり味わいたかったら、包丁で均等に切り分けてやるといいだろう。
それを箸できゅうりとトマトの上に並べてやれば、見栄えも十分。
最後に和えたごまダレをかけてやれば、『竜胸肉の棒棒鶏』の出来上がりってな。
残るは、そう、本日のメインディッシュである『竜もも肉のから揚げ』だ。
"から揚げ"――――その響きを聞いて、大冒険に通ずるほどのスペクタクルを感じるのは俺だけではないだろう。
そう! おそらく世界でこの料理が嫌いなヤツなどいない、究極の揚げ物料理! イッツア・パーフェクト・フライドフード!
あ、ベジタリアンやヴィーガンは嫌いかもしれないけど!
無論、俺は大好物だ!
つーか、これまで「から揚げは嫌いだ」とか言う肉屋には会ったことがないな! マジで!
言いたいことも言ったので、さっそく調理していく。
から揚げには個人的にこだわりがあるので、少し手間暇をかけていく。
【ワイバーン】のもも肉は胸肉とは対照的に脂肪があるから、ジューシーな食感になるだろう。
コレは期待だ。
まずはもも肉に下味を付けていく作業。
一口サイズに切り分けたもも肉に、塩、コショウ、おろしにんにく、おろしショウガ、醤油、の順で下味を付ける。
順番なんて気にせず一気に味付けしても問題ないが、こうしてやることで味が染み込む層が出来るんだ。
それが、以外にも美味さに直結してくる。
とまあ、ここまではごく普通だが――ここで"???"を投入!!!
"???"とは――――ズバリ"麦酒"だ!!!
下味を付けた胸肉をボウルに入れ、"麦酒"の海に沈める!
そのまま五分待つ!
こうしてやるだけで肉が柔らかくなるし、揚げた後の衣もサクッとなるんだ!
どういう原理なのかって?
俺はオフクロに聞いたからよく知らん!
でも美味くなるのは間違いない!
……ちなみに、『ベール』では二十歳以下の飲酒は禁止されているそうな。
おかげで「買うだけなら違法じゃないんだろ!?」って酒屋のオッチャンを説得するハメになったよ。
料理に使うからって、土下座までして……
でも、から揚げのためなら……
まあそれは置いておくとして、"麦酒"に五分漬け込んだら、もも肉を引き上げてごま油を一振りする。
そうしたら小麦粉をまぶし、次に片栗粉をまぶす。
ここにも順番があるんだ。こうすると、よりサクッとするぞ。
溶き卵に漬けるレシピもメジャーだけど、今回は使わない。
卵を使うと、厚みがあってしっとりとした衣になりやすいんだ。
それも美味いけど、今回は衣の軽さと食感を重視したい。
そんなワケで――――いざ、もも肉を熱い油の中に突っ込む!
ジュワアアアアアアアアア!!!
アアアアアッ!!!
この音がたまんねえエエエエエッ!!!
食い物を油で揚げる瞬間の、この音!
そして油の匂い!
……ああ、生きてるって感じだぜ。
恍惚とするのもほどほどに、しっかりと油温を確認しておく。
今回は"二度揚げ"をするから、最初は百六十度くらいで三分くらい揚げる。
全てのもも肉を三分揚げたら、一旦油から取り出し、今度は三分放置する。
こうすることで余熱が内部まで入り込み、もも肉が柔らかいまま火が通るんだ。
あ、油への火は付けっぱなしにするなよ? 危険だからな。
から揚げを作ってて、衣はサクサクなのに肉がパサパサ、または肉への過熱が不十分で半生になったり、なんて経験のある人は多いんじゃないか?
この"二度揚げ"の三分放置は、そんな悩みを解決してくれるぞ。
うん、これを『三分放置術』と名付けよう。
三分経過したら、今度は油を百八十度くらいの高温にして、最後にもも肉を一分ほど揚げる。
これは衣の食感を増すためのひと手間だ。
言い忘れてたが、油は使い回したモノを使用するなよ。
揚げ油にも鮮度ってモンがあるんだからな。
そうして、全てのもも肉を揚げ終えたら――――最高に香ばしい匂いと共に、『竜もも肉のから揚げ』の完成だ!
さあて――――
そんじゃあ、極上飯の時間だぜ!