プロローグ
「冒険者になりたいなぁ……」
家の窓から夜空を見上げて、そんな独り言を呟く。
俺の名前はダート・ハナマサ。
年齢は十八歳で、絶賛食べ盛り。
肉屋の息子として生まれて、十歳の頃から家業を手伝ってきた。
だから"肉"のことなら何でも知ってる。
例えば"良い肉"ってのは、赤身に対していい具合に白い脂肪が入っている肉だ。
脂肪は、外側じゃなくて内側についてるのが理想。
そういう肉をシンプルに塩胡椒で味付けして、鉄板で焼いて、熱々のステーキにしてやればもう完璧。
ジュー、っと肉が焼ける匂いと一緒に、ほのかに胡椒の香りが立ち込めるんだ。想像するだけでも腹が減るだろ?
他にも挽肉にしてやって、ハンバーグにするのもいいな。舌がとろけるぞ。
フレーバーな肉汁がジュワっと口の中に溢れて、多幸感で頭が一杯になるはずだ。
おっと、挽肉を買うなら顔見知りがいる肉屋で買いなよ?
じゃないと、どんな肉が入ってるかわからないからな。
まあそんな感じで、俺は"肉"のことなら詳しい。
俺は肉屋の息子だ。
シェフじゃねえし、上流階級のテーブルマナーだってわからねえ。
洒落たことは何一つ知らねえが、極上の"良い肉"がなにかってことだけは知っている。
そんな俺を、店に来る人達は"ブッチャー・ボーイ"って呼ぶ。
ああ、俺は自分が肉屋に生まれたことを誇りに思ってる。
家業を継ぐことに文句はない。
……けど、
「別に肉屋を継ぐのはいいけど、人生一回くらいは冒険してみてーよなぁ」
――そう、俺は『冒険者』に憧れていた。
カッコいい鎧に身を包んで、カッコいい剣を携えて、頼りになる仲間と一緒にまだ見ぬ場所へと足を向ける――
めっちゃ憧れるわ。ホント。やっぱ冒険してぇ~。
っても、俺は冒険のことなんて碌な知識がない……
冒険を始める前に行き倒れそうな気がするんだよな……
でなければ餓死するか……
なにより……街の外には、危険な【ドラゴン】が溢れてる。
【ドラゴン】――大空の覇者であり、人間にとって最大の敵。
人間が城壁を築き、街の中で暮らしている分には問題ないけど、一歩街から出ればそこは奴らの縄張り。
とはいえ、ほとんどの【ドラゴン】は大きな脅威となりえない。
人里の付近に出没するのなんて小型種くらいだし、弓矢で威嚇してやればすぐに逃げていく。
まあ怖いのは中型種以上の個体だが、それこそ冒険者みたいに街から離れて活動しなければ出会うことはない。
だから冒険者達は【ドラゴン】の脅威に立ち向かえるように、それぞれが独自の戦い方や、あるいは『スキル』を会得しているのだ。
無論、肉屋の息子である俺にそんな『スキル』はねえ。
「あ~あ、どうせ街の外に出ても食い扶持に困るか、【ドラゴン】に襲われるだけ……。いっそのこと、【ドラゴン】をぶっ倒して喰えりゃいいのに」
俺はため息を吐いた。
そうだそうだ、【ドラゴン】ったって生き物なんだしよ。
俺は肉屋なんだから、倒しちまえば幾らでも――
「――ハッ!?」
そう思った俺の脳裏に、電流走る。
「そうだよ……【ドラゴン】を喰いながら冒険すりゃいいじゃん! そうすりゃ食いぶちにも困らないし、戦い方も身について一石二鳥だ!」
あれ? 俺って天才?
そうだよ、どうせ冒険中に戦うのは【ドラゴン】なんだから、"倒す→喰う→また倒す→また喰う"を繰り返せば飯に困ることはないぞ!
幸い、俺は毎日家で飯の準備を手伝ってるから、肉屋に伝わる料理のレシピはほとんど頭に入ってる。
【ドラゴン】を倒して、喰らう。
これなら――――。
「――よし!」
俺はさっそく、親父とお袋にバレないように準備を始めた。
そしてその日の深夜、「拝啓オヤジ様、オフクロ様。俺、冒険者で喰っていこうと思うんだ。だから探さないでください」という書き置きだけを残して、俺は実家の肉屋から飛び出したのである。
――この時、俺は知る由もなかった。
俺に"予想外の相棒"が出来ることを。
そして【ドラゴン】の肉は想像以上に美味いということを。
さらに【ドラゴン】の肉を喰うほどに、レベルUP効果&とんでもないスキルを得られるということを――