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第6話 ボトルボートの上で

小瓶から出てきたボトルボートは、問題なく3人を乗せて川の上をスイスイ走っていく。


緩やかな川の流れに、適度な追い風が吹いて船を後押ししてくれた。


そんな中、ゴンはかなり不思議な気持ちになる。


(今朝は、普通に家から学校に行ったのに、今どうしてボクは川の上で船に乗ってるんだろう…)


確かにいつもと同じ日常だった。シュウジに朝ごはんを作ったり、加西と休み時間に枝に小石を投げたり…。


目の前で体がちぎれた加西のことを思い出す。

まだ首に巻いている、端が焦げた赤いマフラーがあれは夢ではないのだと物語っているようだ。

リンダに聞いてみたいのだが、それはとても恐ろしいことよのうな気がしてまだ聞けなかった。


心地良い川の風の中深呼吸して、船首で前を見つめるリンダとお茶の用意をするサミュを見る。

2人の姿形はまるで絵本の挿絵の様だと思った。

ドラゴンの剣を腰に携えた少女と、お伽話のエルフか獣人みたいな男の人。


「そういえば、タイガさまは四つ耳族のことをご存知ですか?」

ゴンの心の中を読んだようにリンダが尋ねてきた。


「四つ耳族?」

チラリとサミュの方を見る。きっと彼のことを言っているのだろう事は分かった。


「そうです、サミュのような、頭に耳が4つ生えている種族のことです。」


「生えてるってのはなんかヒドイなー」

サミュはパウンドケーキみたいなお菓子を切り分けながら笑って言った。


「そちらのかわいい勇者さまは、四つ耳族のことを知らないのかい?」


「反転生の影響だと思うんだけど、こちらの世界についての記憶がほとんどないみたいなの。」


サミュはナルホドー、という顔をしてゴンを見た。


「じゃあボクから説明して差し上げましょうかね。まあ、お茶でも飲みながら。」


サミュは、木のプレートに紅茶とパウンドケーキによく似た食べ物を乗せてリンダとゴンに渡してくれた。


そういえばお腹が減っていたゴンは、パウンドケーキにかぶりつく…


「美味しい!」

ふんわり甘くて、少しハチミツの味がする。


お茶は、かなり甘い紅茶の味だった。


とにかく凄く美味しい。


サミュはゴンの食べっぷりを見て満足しながら話し始めた。


「四つ耳族っていうのは、ご覧の通り耳が4つあるヒトのことだよ。

その昔オオカミの王と人間の姫が愛し合って生まれた一族だと言われてるんだ。

その素敵で官能的な物語は話すと長くなってしまうから、また次の機会にね。」


サミュはゴンにウィンクをした。


(官能的な…ってところが気になるなぁ)とひそかに思うゴン。


「誇り高き我らが四つ耳族なんだけどね、この世界にはもうボクを含めて7人しか残っていないんだ。

しかも女性がたった1人…」


「わあ、じゃあその人をお嫁さんにするしかないんですねぇ。」


「残念、その1人は99歳のおばーちゃんなんだよ!」


エッという顔をするゴンを見てサミュは愉快そうに笑った。


「大丈夫、別に純血にこだわってないから人間の女の子とも結婚出来るんだよ。

もともと人間の姫がご先祖様なんだし!」


それもそうか、とゴンはパウンドケーキの残りを全部口の中に押し込んだ。


「ただし、その場合四つ耳族の能力が失われてしまうかもしれないね。

それは少し残念かな。」


サミュは空に向かって両手を広げた。


ほんの少し肌寒さを感じた瞬間、


何もない空間から氷の花びらが何百も現れて、その内のいくつかがサミュの手の中でまとまり、氷の花束になった。


「ボクらは空気をちょっぴり操れるのさ。

これが四つ耳族の能力。」


そう言いながらサミュはゴンに、夢のように美しい花束を渡す。


氷の花は光を受けて色んな色に見えた。


「すごい…!」

ドラゴンを見た時と同じような感動。

子供の時のように胸が高鳴る。


しかしリンダは呆れたように言った。


「やーね、サミュったら、勇者タイガさまにそんな子供騙しの魔法をお見せしたってダメよ。

だって、勇者さまなのよ⁈そんな魔法、朝飯前の前の前でしょ!」


(勇者さまってどんだけ凄いんだ…)

胃のあたりがキリッとし始めるゴンだった。



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