第4話 2つの世界
「キミ、危ないよ!」
ゴンはやっとのことで女の子に声をかけた。
一応、自分は男だという事を思い出したのだ。目の前の女の子を守らなければ。
「タイガさま、お気になさらずに!」
女の子は、柄の部分が銀色とヒスイ色で出来たスラリとした剣を足元の草に突き刺した。
ブワッ
と剣の先から風と雲のような煙が舞う。
次の瞬間、ゴンの目の前で信じられないことが起こった。
グルリと回転しながら、女の子の剣から現れたのは
緑色のドラゴン。
ドラゴンはまっすぐ空へ飛んだかと思うと、
出てきた姿の何倍もの大きさになって女の子の近くに戻ってきた。
「うっそ…ドラゴンが!」
ゴンは心底驚いた。
映画やゲームでしか見たことのない生き物が目の前にいるのだ。
小さな子供の時のように心臓がドキドキした。
緑色のドラゴンを見た5人の男たちは顔を歪めて後退りする。
「ちっ…この女、ドラゴンソードのジュードだったか…厄介な…」
女の子は男たちを指差して叫んだ。
「グーちゃん!やっちゃって!」
グーちゃんと呼ばれたドラゴンは、風のようなしなやかな流れに乗り男たちを次々と…
次々と…
食べていった。
「…!!!」
ドラゴンが丸呑みするので、男たちは叫び声だけを残して次々と消えていく。
「…!!」
ゴンは今起こったことが全然信じられなくて、言葉が出なかった。
「これでもう大丈夫ですよ!タイガさま!」
「だ…大丈夫なのか…な…人が死んだんだけど・・・」
ゴンは、まだ少女を取り囲むように浮かんでいる緑色のドラゴン、〝グーちゃん〝を見ながら言った。
グーちゃんも、なんとも言えないグリーンの瞳でゴンをジイッと見ている。
少女は、突然気が付いたとばかりに手を叩いて笑顔で言った。
「そうだ!タイガさま、私の自己紹介がまだでしたね!
私はドラゴンソードのジュード、リンダです!
タイガさまをご案内するために参りました!」
「ドラゴンソードのジュード?」
ゴンは聞き慣れない言葉に戸惑う。
「まあ、そういう事も反転生すると覚えていないんですね。
まずドラゴンソードというのは…」
「ちょ、ちょっと待って!その、反転生っていうのは何?」
「うわあ、そこからですか…」
リンダはコホンと咳払いして真面目な顔をした。
「かなり最初から、色々教えて差し上げなければいけないようですね。
大丈夫です、このリンダにお任せ下さい。
反転生という事を知るには、まず2つの世界についてご説明しなければなりません。」
「2つの世界…」
ゴンはなるべく動揺しないようにリンダの言葉を繰り返した。
「そうです。2つの世界についてです。
あ、この事を知るのは、2つの世界の中でもごくごく限られた人間だけということをお忘れなく。
もちろん他言は厳禁です。」
リンダは少し小声になって言う。
「簡単に言えば、人間はこの2つの世界を、生死によって転生しながら行き来しているのです。」
「ええ?」
にわかには意味がわからないゴン。
「つまりですね、片方の世界で生まれて死んだら、もう片方の世界に転生する。そこで死んだらまたもう片方に…要するに生き物は2つの世界を行き来しているのです。」
「えっ、てことは、ボクがいた世界とこの世界は繋がってるってこと?」
「うーん、まあそうとも言います。本来はお互い影響はあっても干渉し合うことのない世界です。
今回のように、あちらの世界の人間をまだ死んでいないのに無理矢理こちらに連れてくる事を反転生、と言うのです。」
「…反転生というのは分かった気がする…かな。
でも混乱するから、そうした理由は後で聞かせて。
じゃあドラゴンソードのジュードってのは…?」
「これです!」
リンダは自分の剣を高く掲げた。
緑のドラゴン、グーちゃんは天に向かって軽く「クーッ」と鳴く。
「これがドラゴンソードです!古のドラゴンが宿る剣!
そしてジュードとは、ドラゴンソードと契約した者のことです!」
「ドラゴンの剣と契約・・・カッコイイなぁ」
リンダはゴンのつぶやきにキョトンとして言った。
「何言ってるんですか、勇者タイガさま!
あなたはこの世界最強のドラゴンソードのジュードなんですよ!」