第16話 満月の誕生日
~~~アナイスの火山のふもとの村~~~
秘密扉を通り抜けると、そこは、西部劇に出てくるような村の端だった。
全体的に茶色っぽい。
「さっきまで・・・というか今の今まで山頂の原っぱだったのに・・・!!」
ゴンは感動する。色々不思議なことが連続で起こっているけど、秘密扉(どこでもド〇)は分かりやすくて楽しい。
しかし振り向くと扉は跡形もなく消えていた。
「入口はそれぞれのドラゴンズゲートなんだけど、帰りはみんな村の”お帰り扉”を使うんだよ。」
サミュが心配そうにキョロキョロするゴンに説明してくれた。
「お帰り扉・・・面白いですね。」
ホッとするゴン。
ぶーちゃんはいつの間にかまたゴンのカバンの中に入っている。
「すぐにカモシモの店に行きたいところだけど、まずは宿を押さえて何か食べましょ。
お腹すいちゃった・・・」
「わーい!」
ゴンは思わず手を上げて喜んだ。まさかリンダがそんな素敵な提案をするとは思わなかったからだ。
実際、お腹はペコペコ喉はカラカラ、希望としてはよ~~~く冷えた炭酸飲料水が飲みたい・・・
ほんの少し歩くと村のメインストリートと思われる通りが現れた。
たくさんの人でごった返している。
「うわあ、賑やかな村だね!ねえねえぶーちゃん、見てみなよ!」
ゴンは呑気に浮かれている。
リンダは困った顔をした。
「まずい・・・忘れてた・・・。今日は満月の誕生日だった・・・!」
「あ~・・・」
サミュもそれは困った、と言う顔をする。
「満月の誕生日って何ですか?」とゴン。
「は~っ。あっちの世界には満月の誕生日もないのね。
その名の通り、満月が生まれた日よ。
あ・・・満月とは、ドラゴンの王のことよ。」
「へー」
「へー、じゃないわよっ!」
リンダは瞬間的に激怒できるようだ。
「今日が満月の誕生日ってことは、満月祭がこの村であるってことなのよ!
一年で一番賑やかな満月祭があるってことは、すごーく人が集まるってことなの!!
てことは、宿が取れないってことなのよ~!!
宿どころか、食事だってありつけるかどうか怪しいわよ!」
「えええ・・・」
事の重大さにやっと気が付くゴン・・・。
今夜は腹ペコで野宿なんだろうか・・・。
リンダの心配は、半分だけ当たった。
宿はどこも満室だったが、食べ物は、お祭りだというので屋台がたくさん出ていて困らなかったのだ。
中でもゴンが一番うれしかったのはココナツみたいな木の実に入っているジュースで、なんとジンジャエールの味がした!
「美味しい!こんな美味しいものが飲めるなんて~~~~~!!」
涙を流さんばかりに喜ぶゴン。
ぶーちゃんもゴンからおすそ分けをもらって嬉しそうに何でも食べた。
リンダは果物のパイ、サミュはサンドウィッチ。
お腹が満たされると、心に余裕が出来てきたので、ゴンは改めて辺りを見回した。
行き交う人はいろんなタイプの服装をしている・・・多分大半がここの村人ではなく、違う所から祭りに来た人なんだろう。
「あー!」
「なによ、ゴン。うるさいわよ!」
「あ、あそこにドラゴンが・・・あ、あそこにも!」
「はっ。満月祭なのよ、当たり前でしょ。
ここには今、世界のドラゴンジュードが集まってるのよ!」
すっかり日が暮れていたので気が付かなかったが、結構な数のドラゴンたちが空を飛び交っていた。
夜になる前の、紫とピンクのグラデーションが美しい空を、色とりどりのドラゴンが飛んでいる。
それは、圧倒的な美しさだった。
(ああ、知っている・・・)ゴンはこの光景を”知っている”と思った。
きっと、人間が2つの世界を交代に転生しているというのは本当だ。
ゴンは日本に生まれる前はこの世界にいて、この光景を見たんだろう。
この世界に・・・
ゴンはこの空気に吸い込まれそうになる・・・
スッ
そんな中、ゴンの視界に一人の男が見えた。正確にはその男だけが見えた。
黒い男、そう思った。
黒い髪、黒い鎧、黒い靴、黒い剣、黒いドラゴン。そして黒い瞳でゴンの薄茶色の瞳をとらえる。
「誰・・・?」
「ゴン!」
パンッ
風船が弾けるようにゴンの意識が戻る。黒い男は見えなくなり、ただそこには人混みがあるのみ・・・
「ゴン、そろそろカミシモの店に行くわよ!あ~、でも混雑してるわよねぇ、今日だもの。
グーちゃんのメンテは無理かなぁ・・・」
リンダはゴンを急かしながら立ち上がった。