第13話 緑のむにむに
山道はゴンの想像以上に厳しいものだった。
岩だらけのでこぼこの地面で、結構滑る。
歩きづらい道を行くという経験は、現代の日本にいればそんなになかったということに、ゴンは初めて気が付いた。
「あ、後どのくらいかかるんですか…?」
ゴンと違って涼しい顔をして歩いているリンダとサミュに、このセリフを何度言ったことか。
リンダは鼻で笑い、サミュは必ずこう言った。
「もうすぐもうすぐ!頑張って!」
足場が悪いだけじゃない、ずーーーっと上り坂の道、ゴンは30分も歩くとバテてしまった。
そして恐ろしいことに、昨晩サミュが
「夕方には着く」と言っていたことを思い出したのだ。
ということは、夕方までかかるということ…
今はまだ、お昼前…
「もう無理でーす!!」
5回目、ゴンが岩に足を取られて滑ってこけたとき、ついに我慢の限界がきた。
「はー、だらしなっ!」
久しぶりにリンダが口を開く。
「なんて言われても、これ以上は無理です!」
ゴンは道の脇にある低い草むらに座り込んだ。その時、
むに。
「むにって…何か…お尻の下…踏んづけた…」
ゴンのお尻の下に生暖かい感触がある。
「うわ…トイレのない、山の道の草むらでしょ…それってもしかして…」
リンダが思いっきり顔を歪ませる。
「やめてよリンダ…でも、どどどうしよう…」
むにむに
うん…もとい、お尻の下のうにうには動いた!!
「ぶー」
ゴンのお尻の下からヤバイ音がする!
「あんた、うん×踏んづけた上に、おな×までしたの?やだ!」
「ちちち違うよ!ボクじゃない!」
ゴンは顔を真っ赤にしながら、慌てて立ち上がる。
「あ!」
叫び声を上げたのはサミュだった。
「ミドリの子カバがいるよ!…子ブタかな?」
「ええ?」
「ぶー」
ゴンが足元を見ると、頭を抱えた小さな緑色のもにもにした固まりがあった。
「んん?」
ゴンがそっと触ろうとすると、緑色の塊は
ぴょっ
と頭を上げてゴンを見た。
「う、うわぁ…」
顔がブサイク。
ゴンが初めて〝彼〝を見た印象である。
「ナニコレ…見たことないわ…」
リンダも近寄ってきて緑のナニカを見た。
基本的にはカバっぽい質感だけど不細工なマダラ模様があり、目付きが悪く、鼻が上を向いていて、迫力がない牙が並んだ口はちょっとアヒル口っぽい。
小枝が引っ付いたようなツノ、ギザギザのシッポ、そしてきわめつけは
「ぶー」
可愛くない声…。
ゴンはまあ、うん×じゃなかったからよしとして、そのまま見なかったことにして立ち去ろうとした時、
「ぶ」
と、その生き物がゴンのズボンのすそを引っ張った。
「ん?」目が合う生き物とゴン。
「お腹減ってるのかなぁ・・・」
踏んづけてしまった罪悪感もあってその不細工な緑色が気の毒になってきた。
「ダメよゴン、この非常事態に変な生き物まで面倒みていられないわよ!
さ、早く行きましょう!」
リンダは目を吊り上げていった。
「そ、そうだよね。
ごめんね子カバちゃん、ボクは今、自分の面倒もままならない身だから・・・でも・・・、これ置いていくから、食べて。」
ゴンはカバンから干し肉の欠片を取り出した。
リンダは冷たく
「それお昼ご飯よ!あんたの分はもうないからね!」と言い放つ。
「うん、わかってる。」
ゴンは緑の生き物の頭を撫でて肉を渡した。
生き物は小さな手で受け取る。
気のせいか、ペコリと頭を下げたようだった。
不細工なんだけど、そのしぐさを見てゴンはとても可愛いと思った。
実はリンダも可愛いと思ってしまったらしく、自分のカバンをまさぐってドライフルーツを取り出した。
「これも食べなさい!私あまり好きな果物じゃないから!」
しかし生き物は困り顔で首を横に振って受け取ろうとしなかった。
「ちょっと!私のものは受け取らないっていうの?!」
ご立腹のリンダ。
サミュは面白そうに言った。
「これは、珍しい生き物だねぇ。
そしてかなりゴンくんを気に入ってるみたいだよ。」
自分だけにウルウルした瞳を向けて食べ物を受け取る生き物を、ゴンはますますほっとけなくなる。
「あの、リンダ、あの・・・」
ゴンが言いかけた時、リンダが真剣な目をした。
「しっ・・・!ドラゴンソードが震えている・・・!この近くに誰かいるわ・・・!」