第11話 玉手箱
旅の準備はひどく簡単だった。
「旅は基本現地調達だから!」
というリンダの一言のおかげである。
それぞれのカバンに(ゴンは貸してもらった)、水筒、皿、ナイフ、少々のお金、少々の薬、タオルぐらいのサイズの薄い布切れ1枚を入れているのみ。
「必要なロロジェムのリスト、書いておいたわよ~」
1人呑気なカーラは紙をひらひらさせながら言った。
リンダがその紙を見て「ゲッ!」と嫌な声を出す。
縦長の丈夫そうな紙には、つらつらとロロジェムの種類の名前が書き連ねてあった。
「か、カーラおばさま、本当にこんなにたくさん石が必要なんですか?!」
「そうなのよ~。大きさやクオリティにもよるんだけどねぇ、大体そんな感じ♡」
「眩暈がするわ・・・・」
リンダの様子を見ていると、相当大変な旅になる予感しかしないゴン。
横からサミュがヒョイとリンダから紙を取り上げ、一通り眺めてから言った。
「ふ~ん・・・こりゃすごい。
ま・・・最初はまず一番近い、アナイスの火山に行こうか。」
「アナイスの火山・・・」
ゴンは詳しく聞くのが怖い。何やら炎系の怪物が出るに決まっている名前じゃないか。
「あ、アナイスに行くのならちょうどいいわ~」
カーラがポン、と白い手を叩いた。
「ゴンくんに何もないのはどうかと思うから、アナイスのふもとの町でドラゴンソードを買ったらどうかしら~。
カミシモの店にいいのがあるかもよ♡」
「ど、ドラゴンソードってお店で買えるんですか?!」
今回一番驚くゴン。
「そうよ~。と言っても、ソードがあなたを気に入ってくれなきゃどうしようもないんだけどねぇ~。
とにかくみんなでカミシモの店に行ってみてね。」
リンダは何か言いそうだったが、プッと頬っぺたを膨らませただけだった。
サミュは
「今日はもう夜だから出発は明日にしよう!朝早く出れば多分夕方までには着けるよ!」
と元気に言う。
とりあえず今晩はリンダの家に帰ろうとした時、カーラがゴンに近づいてきた。
「ゴンくん、忘れないで。この守護輪・・・指輪は決して外さないで。
でももし、とても困ったら、外してみて。」
「え・・・?カーラさん、それってどういう・・・」
まるで乙姫様が
”玉手箱は決して開けないで。でも、とても困ったら開けて”
と浦島太郎に言ったみたいに、かなり不可解なことを言われている気がするゴン。
しかしカーラはゴンの質問に答えることなく、大あくびをしながら3人を追い出して青い屋根の家のドアを閉めた。
リンダの家に着くなり3人は爆睡して、タイムスリップしたかのようにあっという間に朝になった。
旅の支度は済ませてあったので、パンと果物と暖かい飲み物を寝起きの胃袋に流し込むとすぐに出発する。
柔らかく涼しい風、澄んだ空、旅の始まりらしく今日は良いお天気になりそうだった。
「ボトルボートに乗るんですか?」
しばらくまっすぐな道を歩くと川が見えてきたのでゴンがサミュに聞いた。
「今回は内陸に向かって歩くからボートには乗らないんだよ。」
そう聞いてちょっと残念なゴン。ボートの旅は楽だし楽しかった。
ボサボサ頭で歩いているリンダをチラリとみる。髪をとかす気力もなかったようだ。
ゴンが”勇者タイガ”ではなかったことによほど腹が立っているのだろう、ずーーっとむっつりしている。
「り、リンダさん、アナイスの火山のふもとの村には行ったことあるんですか?」
ゴンは当たり障りのないことを聞いてみた。
「当たり前よ。ドラゴンソードのジュードであそこに行かないものはいないわ!
カーラおばさまがおっしゃったように、あの村のカミシモの店だけがドラゴンソードを取り扱う事が出来るんだもの。
そうだ・・・私のグーちゃんもちょっとメンテしてもらおう・・・うん!」
心なしかリンダの機嫌が少し良くなった気がした。
ホッとしたゴン、
「そうだ・・・!聞いてみたかったんだけど、どうしてこの世界が滅ぶんですか?」
一瞬にしてリンダの顔が凍り付いた。