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第8話:結果

死んだかと思った。


目が覚めるとトリアルさんが、横たわっている僕の顔を上から中腰で覗き込んでいた。


「あれ? 僕、生きて……る?」


「あぁ、ポーションをかけたんだよ。もう大丈夫だ」


「で、でも、ポーションって高いんじゃ……」


「なに、君が気にすることないよ」


さすが金帯冒険者だ。高価なポーションをこんなにもあっさりと使うなんて、格が違いすぎる。


感謝しようと、ちゃんと立ち上がって言おうとした瞬間、トリアルさんが質問をした。


「ベラ君、俺が最初に君に言ったこと覚えているかい?」


もちろん、覚えている。この戦いで負けてしまうと、冒険者として活動できない。


そして僕は負けてしまった。


「はい。でも僕は負けました……」


自分の弱さに、不甲斐なさに、悔しくて泣きそうになる。


しかし、そんな感情も次の言葉で吹き飛んでしまった。


「あぁ、その事なんだけど、実は嘘なんだ」


え?


頭の中にはこの二文字しか出て来なかった。理解が追いつかない。


「え?どういうことですか?」


「俺に負けたら不合格だという事だよ。実は、俺は君のような冒険者志望の人たちには勝たせる気なんてさらさらないんだよ。まぁ最も、負ける気もしないんだけどね。で、その中でどうやったら金帯の冒険者に勝てるのか、自分の磨きあげた技が通じるのか、戦略とか色々見てたんだよ。それで合格を決めてたんだ。」


衝撃の事実に、驚きを隠せない。そして僕の中で一つの疑問が浮かび上がった。


「じ、じゃあ、僕は受かって……ますか?」


途中でなんて馬鹿な質問をしてるんだと思って言うのをやめようと思ったが、最後まで言い切ることにした。


しかしほぼ諦めている。あんな戦い方で合格するわけがない。やっぱり僕には技も、戦略も、何も無かったんだと痛感する。


不合格だと言われて、もう諦めて村に帰ろうと思っていたが、次の言葉でそんな考えは消えた。


「あぁ、ベラ君、君は合格だよ」


「え?」


信じられない。僕が、受かった?いや、そんなはずはない。からかってるだけだ、何かの間違いだと言い聞かせる。


「嘘……ですよね? さっきの戦い方で受かるわけない……!」


「うーん、戦い方では不合格だったかもしれないけど、俺は、君に一つ素晴らしいものを見出したと思っているよ」


「それは……なんですか?」


「強い信念だ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。あまりに唐突すぎて、何も考えられなかった。


「信念ですか?」


「あぁ。実は俺は最初に君が蹴りをくらった時、もう立ち上がれないと思っていたよ。でも君は違った。逃げることなく、立ち上がり、そして立ち向かってきた。俺はそこに君の強い信念を見出したんだ」


なにか、弱い僕を認めてくれたような気がして、涙が溢れてしまった。


「うぅ……。ありがとうございます……」


泣き出した僕を見てトリアルさんは慌てて僕に駆け寄った。


「おいおい、大丈夫か? 水飲むか?」


そう言うと手のひら大のポーチを腰から取り出し、おもむろに中に手を入れると、水が入った革袋を出した。しかしその革袋は明らかにポーチより大きかった。


「ほら、飲んで」


トリアルさんはその革袋を差し出した。僕はそれを受け取り、キャップを開け勢いよく飲んだ。


「それを飲んで落ち着いて、な?」


なんて優しいんだ、と心の底から尊敬する。




水を飲み干し、革袋を返して落ち着いたところでトリアルさんに気になっていたことを聞いた。


「あの、僕の前に来た男の子って受かったんですか?」


「あぁ、あの子か。受かったよ。なかなか強かったよ。多分あの子ならすぐ青銅帯まで行けるんじゃないかな」


驚いた。あんな奴がそんなに強かっただなんて、到底思えない。しかし、トリアルさんが言うからには、そうなのだろう。


「そ、そうなんですね」


「ん?彼が気になるのかい?」


僕は苦笑いしながら言った。


「いえ、そうではないんですけど。なんか、感じ悪くて……」


「そうだなぁ。冒険者は感じ悪い奴らばっかりだからなぁ。我慢するしかないよ」


「そう……ですよね」


仕方が無いんだと心の中でため息をついた。


「さて、改めて合格おめでとう、ベラ君」


トリアルさんが拍手しながら言った。


「あ、ありがとうございます!」


僕は頭を下げ、心の底から感謝した。


「んじゃ受付に話をつけておくから、もうクエスト受けに行っていいよ」


「は、はい!ありがとうございます!」


「あ、そうそう。クエストとかについては受付が話をしてくれるから、よろしく」


「分かりました!」


「んじゃ頑張れよ!」


そう言うと、右拳をグーにして前に突きだした。


「はい!行ってきます!」


僕は右拳を前に出してトリアルさんの拳に軽くぶつけ、部屋を後にした。









受付嬢の元に行くと、クエストについて説明をしてくれた。


「ベラ様、試験合格おめでとうございます」


もう話を伝えてあるのかと少しびっくりした。


「あ、ありがとうございます」


「ではこれから冒険者の説明は私マイスがさせていただきます」


「はい、お願いします」


「ではまず冒険者は何をするのかについて説明させていただきます。主に冒険者は、毎朝貼り出されるクエストを受けて、それを達成してギルドに報告して報酬額をもらいます。中には危険なクエストもありますが、そのようなクエストは少し報酬額が高くなっております。また、クエスト中に討伐した魔物の素材をギルドに提出していただきますと、こちらで鑑定して報酬を用意致します」


だいたい思っていた通りの内容で少し安心した。


「分かりました」


「では次に、ランク帯について説明させていただきます。冒険者には強さに応じてランク分けがされており、下から、銅、青銅、銀、金、白金、金剛となっております。そしてそれぞれのランクの中にもさらに色でも分けられており、下から緑、赤、黒の順番になっております。ベラ様は合格したばかりの新人なので、一番下の銅帯の緑からのスタートとなります。ランクを上げるには、今自分がいるランク帯の一つ上の色のクエストを受ける必要があります。そして注意していただきたいのですが、クエストは同じ色か、自分よりも一つ上の色のどちらかしか受けることができません。ただし、色が黒になった場合は、一つ上のランクの緑のクエストを受けることができます。それを達成出来れば、ランクが上がる仕組みになっております。クエストはあちらに貼り出されております」


見てみると何枚もの紙が乱雑に掲示板に張り出されていて、そこにはたくさんの冒険者で溢れかえっていた。


「なるほど、分かりました」


「では次に、魔物の難度について説明させていただきます。魔物には難度といういわゆる危険度が設定されており、下から難度五、十、五十、七十五、百、百五十となっております。数字が高くなるにつれて強くなっていきますので、注意してください。難度についてはクエスト用紙の下の情報欄に記載されております」


難度も見て注意しないといけないのかと思い、頭に叩き込む。


「分かりました」


「では次に、パーティについて説明させていただきます。冒険者は別の冒険者の方とパーティを組むことが出来ます。そしてチームを組むと、生存率が上がったり、クエストの効率が上がったりとさまざまな利点があります。パーティを組む場合には受付嬢の私にお申し付けください」


パーティを組むのもいいなと思いながら、こくこくと頷いた。


「では最後に、私の方からアドバイスをさせていただきます。宿屋についてはこのギルドの右斜め前にある[宿屋へベルグ]がおすすめです。そして、武器防具屋についてはギルド裏手にある[武器屋アルマス]がおすすめです」


「そんなことまで教えてくれるんですね」


僕がそう言うと受付嬢は少し悲しい顔をした。


「ええ、前まではここまで教えなかったのですが、教える事になったのは理由がありまして……」


「理由ってなんですか?」


「ここグエリア王国の王都ヘクトには金剛帯の冒険者がまだいないのです」


「え、そうなんですか!?」


「白金帯の冒険者チームは幾つかあるのですが、片手で数える程しかいないのです。それでより強い冒険者を育てるために国が対策を取ったのですよ」


「なるほど、そうだったんですね」


「ではこれで説明を終了させていただきます。より良い冒険者ライフをお過ごしできるよう心からお祈り致します」


そう言うとマイスさんがぺこりとお辞儀をした。


「はい、ありがとうございました!」


僕もお辞儀をすると、意気揚々と掲示板に向かった。





そこであいつと会うとは思っていなかった。


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