第3話〜溺愛の魔物と晴明の夢
3話目投稿です。今回も楽しんで見ていただければいいなと思っています。誤字・脱字等ありましたら、言ってください。それでは。
「ハ・・キ・、ハ・アキ・、ハルアキ君、起きて大変だよ。」
時刻は夜中のだいたい2時ごろ。良い子は眠る大人の時間だよ。1日疲れてようやく眠れたと思ったら、7時間後に起こされた。俺はまだ覚醒しきっていない意識で返事をする。
「ニーナ、まだ寝てて・・いいだろう。明日はまだ先だ・・・」
「だめ、起きて。大変なんだってば。魔物が出たの。」
「魔物・・?うーん、そんなんあとで・・って魔物!?」
魔物という単語が俺をようやく覚醒させた。
なぜなら、この周辺には魔物は出現しないようになっているからだ。ここはプロメタリア王国を守っている『魔物を退ける結界』の余韻の影響を受けていて魔物は近づけなくなっている。詳しい原理は分からないが、ニーナが日中教えてくれた。
その結界の影響を受けていて、なお侵入してくるということはそれほど強い魔物ということだ。力は弱っているとはいえ、普通の人間の俺達が出くわしたら、そこには死しか待っていない。
「夜の村を巡回してた村の男の人が、森に血まみれの'何か'がいるのを見たっていうの。運よく、その人はきずかれなくて村に報告しにきて、今、村の皆を広場に集めてる。だから、早く着替えて。」
「おう、わかった。」
俺はニーナの言葉に素直に応じ、すぐに動ける格好になった。家の外に出てみると、もうほとんどの村の人間が集まっていた。そのなかにはもちろんカールもいた。カールは、こちらを睨み付けて来るが、飛びかかっては来ない。場をわきまえる程の知能はあるようだ。
「ハルアキも、一応防具と剣は持っていて。万が一の時のためにね。」
俺はニーナからもらった防具に着替える。鎧・・・とまでいかず、胴や足首を守る程度の重量の軽い防具だ。剣は、刃渡り30センチメートルほどで鍔がない護身用の小刀だ。心もとなすぎる。
剣に触れステータスを見てみる。
護身用小刀
・対人間の護身用で、精度が低いため魔物を切るのには適していない。
だめやん。終わってんじゃん。
この時、俺は普通に剣に触れステータスを見ていたがこれは誰でもできる。この世界のほとんどのアイテムは、触れればステータスを確認することができる。例外的に持ち主しかステータスが分からない特別なアイテムがあるらしい。
(せっかく貰ったんだから、文句はなしだな)
防具を着替え終わると、すでに村の全員が集まっていた。
魔物が襲ってくる事態など考えられていないので、とりあえず王国の方に向かってみることになった。村長達が先頭となり、子供、老人、その他の順番で避難する。
なお、防具を装備をしている俺と村の男の一部は、村人を守りながら進むのでバラバラに散っている。
そんな俺は今ニーナ達と一緒に進んでいる。ニーナが一緒にいてほしいと聞かなかったからだ。正直ニーナが俺のことをどう思っているかは、なんとなく想像がついている。なので、少しだけこの世界にきてドキドキしていーーー視界がブラックアウトした。
そのまま、前に倒れ込みそうになる。だが一瞬だけだったのでなんとか持ちこたえた。それを見たニーナはこちらを心配して寄り添ってきた。
「ハルアキ!大丈夫?」
「大丈夫だ、ニーナっ。はっ。」
すると、また視界がブラックアウトした。再び俺は倒れそうになる。俺は意識がはっきりしないなかニーナに支えられ、とあるものを感じていた。
それは、彼女の温もり・・・いや、たまにきていた謎の殺気だ。あの背筋が震えるような殺気が今までよりも強く、俺の体に響いてくる。
その殺気はだんだんと強くなっていき、ブラックアウトどころではなくなってきた。意識がとびそうになり、体が異常に寒い。
(俺は何かに怯えている?それとも、魔法かなん・・かなのか。)
カサッ
10メートルほど離れた茂みから物音がした。
カサカサッ
徐々に近づいてくる。すると、体の震えがどんどん酷くなってくる。俺は理解した。こいつが元凶だと。こいつのせいで俺は今、自分を村の人達を危険にさらしている。
シュッ
得体の知れない何かが茂みの中から飛び出した。そいつは、赤い目を光らせ口元を不適に歪めながら、俺の方に向かってきた。
俺は自分を守ろうと、手でガードしようとするが体の震えのせいで腕が上がらない。とっさに、ニーナが黄色いスパークを纏った右手を'何か'の前に突きだすが、たった一撃で彼女の体が横方に飛ばされてしまった。
「あうっ!」
「ニ・ナ・・・うっ。」
そして彼女を心配するまでもなく、俺はその何かに馬乗りにされ、仰向けになった。すると、いままで感じていた殺気や震えが止まり気が楽になった。
(これが俺の最後なのか。はっきり言ってつまらない人生だったな。何か最後に大きいことをやっておくべきだった・・・。さあ、やれ。)
俺は覚悟を決めた。今の自分では絶対に敵わない相手なので、抗うだけ無駄だ。せめて、最後くらいかっこよく死にたい。
ーーーそう思った直後だった。俺の上に馬乗りになっていた'何か'は俺を包み込んだ。その感触は手であり、心臓の鼓動であり、なにより、'人'の温もりだった。
恐る恐る目を開けてみた。すると、確かに人だったーーーそして、驚愕した。
それは涙を流し、顔が赤くなっている天使。俺の妹、三条美香だった。
その外見は元の世界のセーラー服のままで、所々擦りむいたのか、血が出ている箇所があった。美香は泣きじゃくった顔のまま、再度俺を抱き締めてきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。ようやく見つけたよ。生きてて良かった。嬉しい。」
すぐには、思考が追い付かなかったが俺の本能が美香を更に強く抱き締めていた。
「ああ、美香。俺は生きてるよ。だから、心配するなって言っただろう?」
「うん。そうだね。」
美香がにこやかに笑った。そのようすを見ていた回りの村人達は、困惑していた。とても、微笑ましい光景なのだか魔物の元凶がこの子だと思うと振り回された身としては納得いかない。
俺は、美香を起こしながら立ち上がった。そして、横方で転がっているニーナを助けに行く。
「大丈夫かニーナ。ごめんな。俺の妹が・・悪かった。」
手をそっと美香に貸してやり、立ち上がらせる。
「大丈夫だよ。妹さん、心配だったんだよ、ハルアキ君のこと。だから、周りが見えなかっただけで。気にしないで。」
(優しずきるぜ!)
俺は少し感動した。
「お兄ちゃん。それで、その女の人は、だれ?」
「ああ、美香。紹介するよ。こちらは、ニーナ。」
「あの、初めまして。ニーナです。よろしくね。」
「どうも、お兄ちゃんの妹の美香です。さっきは、ごめんさい。それより、お兄ちゃんがお世話になったらしくて、あっでも心配しないでくださいね。お兄ちゃんの面倒は私が見るので。さあいこ。お兄ちゃん。」
そう言って、美香は俺の手を引っ張り連れていこうとする。
「いきなり何言ってんだよ。おい、美香。」
美香に無理やり連れていかれそうになったので、俺は手を振りほどいた。すると、またあの殺気、震えが体を襲ってきた。ひどい倦怠感に俺はひざをつく。
「ハルアキ君!」
ニーナが叫んだ。
「ひどいよ、お兄ちゃん。私はこんなにもお兄ちゃんを思っているのに、どうして聞いてくれないの?」
「み、美香。」
「私のお兄ちゃんなのに。私だけのお兄ちゃんなのに、どうしちゃったの?」
美香がどうして?と不思議な顔をする。だが、すぐにハッとし、納得したような顔を見せた。そして、ニーナを睨み付けた。
「そういうことね。やっぱりこの女がお兄ちゃんをたぶらかしたのね。許せない。」
しかし、ニーナはなんのことと首をかしげる。
それが、美香に火をつけた。突然、美香の周りが黒い瘴気に包まれる。その中心は美香であり、その右手だった。その場にいる誰もが悟った。
(あれは、魔法だ)×20
ブラックホールのようなその魔法は、時折ビリビリと言っている。その魔力量は、ニーナとは比べ物にならない。なぜなら、大きさも威圧力も段違いだからだ。空気がピリピリと震えている。ニーナもその段違いの魔力量に目を見開いて、驚いていた。
美香は、魔力をため終わるとニーナの方に体を向け、その魔法をぶつけるべく飛びかかった。美香の怒り矛先は、ニーナへと向けられることになってしまった。
「死んじゃえ!」
(まずい。このままじゃ、ニーナが。何か打開策は。ああ、くそっ。)
俺はなりふり構っていられず、体中の震えを必死に堪えながら勢いよく立ち上がり、そのまま美香に抱きついた。
クチュッ!
静止したときの中、俺の頭には奇妙な音が響いた。それは、何かと何かが交じり合うような音だった。気がついた時には、俺は美香を押し倒すような形で馬乗りになっていた。しかも、顔と顔が近い。俺はゆっくりと顔を離す。すると、銀色の糸がまるで二人を離さないように繋いでいた。
ーーー俺は美香にキスを、していた。
「美香、俺・・」
「私の初キス・・ありがとう、お兄ちゃん、嬉しいよ。こんなにも私のことを思っていてくれたんだね。」
(結界オーライ?)
美香の声がいつもの声に戻ったので、正気に戻ってくれたと俺は安心した。結果的に俺は美香の唇を奪ってしまったが、相手が喜んでくれているので大丈夫だ、ろう?
そこで、美香は気を一転して話しかけてきた。
「あのね、お兄ちゃん。私、迷惑をかけちゃったニーナさんや村の人達に謝りたいの。だから時間をちょうだい。」
「そうだな。けが人はほとんどいないとはいえ、色々迷惑をかけたしな。よし、お兄ちゃんも手伝うぞ。美香に寂しい思いもさせちゃったしな。」
ーーーーー
そのあと、美香はまずニーナに謝った。家族のことで正気を失っていたとはいえ、怖い思いをさせてしまったからだ。しかし、ニーナは美香を責め立てることもなく、逆に友達になろうと言ってきた。さすがにこれには驚いたが、女とは戦いを得て友情を築くものだと、無理やり自分に言い聞かせた。
そして、美香は村長さんに村の人達を全員呼び戻してもらい、広場で村の皆に謝った。もともと、魔物と勘違いしてしまった村の人の責任もあるとして、どちらも悪かったということで話がついた。
なので、今はニーナの家で村長、おばあちゃん、ニーナ、俺、美香の5人で今日どんなことがあったのかを話している。時刻は現在5時。村の人達が起き始める時間だ。おばあちゃんなんかは、昼行性なので、すごく眠そうだ。
すると、俺がモヤイに服をとられたという話のところで、いきなり美香が立ち上がった。
「許せない。」
さあ、皆さん始まりました。美香の暴走です。
と解説するのはやめて、美香を押さえにかかる。
「いいんだよ。美香。俺は気にしてないから。」
「だめだよ、そんなんじゃ。お兄ちゃんを傷つけたやつには、天罰を与えないと。」
(恐ろしいわ。)
「俺も悔しいと思ってるよ。でも、弱いから・・・」
「じゃあ、一緒に強くなろうよ。そしてついでにお兄ちゃんの昔の夢叶えちゃお。」
昔の夢?なんのことだと思い俺は思考を巡らせた。
それはかつて、抱いていた密かな夢を。それは、退屈な人生すぎて、叶えられないことすぎて忘れられてしまった夢。誰かが聞いたら、アホだと罵られるだろう。バカな夢だとは理解している。だから、封印してしまった夢。
しかし、それはすでに過去の話。ここは、異世界だ。環境そのものが違う。誰にも、咎められることのない自由な人生。好きなように生きても、縛られる枷はもうない。
俺は、思い出した。『影で暗躍して、世界を変えてやる』という本当にバカな夢を。
「そうだな、美香。俺は今バカな自分の夢を思い出したよ。だから、一緒に来てくれるか。」
「何言っているの、お兄ちゃん。私はどこにだってついていくよ。なんだって、お兄ちゃんを'愛してる'んだから。」
美香はしてやったりという顔をした。そういえばそんなことも言ったな。
すると、さらに席を立ち上がるものがいた。ニーナだった。
「私もついていっていい?」
俺は何事かと思ったが、美香が真剣な眼差しでニーナを見ていたので口を出すのを止めた。
「私は、お兄ちゃんが大好き。それを理解していてニーナはついてきたいというの?言っておくけど、お兄ちゃんは私のものだから渡さない。」
美香に大好きと言われ俺は赤面したが、最後の言葉には突っかかった。やっぱり、ニーナは俺のことすきなんだな。
「分かってるよ。でも、絶対に認めさせる。そして、勝ち取る。それにこの世界では、一夫多妻制が当たり前だからね。」
さすが異世界。やってくれますね。
「面白い。燃えてきたわ。」
いつの間にか、二人の間には強固な絆が生まれていた。一体何があったんだ。というか、美香はもうニーナのこと認めてるんじゃないか?
「という事で、おじいちゃん、おばあちゃん、私は家を出ていくけどいいよね。」
孫の恋心は二人も感じていた。なので、駄目だとは言わず笑顔で了承してくれた。・・・影でおじいちゃんが泣いてけど。
それから、旅立つ準備を始めた。と言っても、持っていける物はほとんどない。あるとすれば、おばあちゃんに貰ったこの世界の通貨銀貨1枚ほどと、軽装備、お昼のおにぎりだ。
通貨は、下から銅貨10枚=銀貨、銀貨100枚=金貨、金貨1000枚=大金貨という価値になっているらしい。銅貨一枚あれば、3人分の一食代は食えるという。
俺は、おばあちゃん達から貰ったものをインベントリにいれた。それを見たおばあちゃんは驚いていた。
「無限に入るなんて便利だね。魔道具でも、多少入るものがあるって聞いたことがあるけど、敵わんなそれには。」
時刻は朝六時頃。日が昇る時間だ。何人かの村人達が俺達が村を出ていくと聞いて、顔をだしてきた。短い間だったけど色々あったな。そう、俺が思い出の余韻に浸っているとあの男が現れた。ニーナに言い寄る男カールだ。
「おい、ニーナをどこにつれていくきだ。'俺'のニーナだぞ。」
そこで本人はかっこつけたつもりだったが、言われた当の被害者は黙っていなかった。ニーナは、足に黄色いスパークを纏わせると思いっきり、カールの股間を蹴った。
「ほわっ、う、う、う・・・・」
カールはその場に撃沈し、白目を向く。そして、ニーナはそのまま何事もなかったように村の皆に挨拶をする。
「じゃあね、いつか帰ってくるから。」
「ありがとうございました。また今度。」
「迷惑を掛けてすみません。いつか、埋め合わせを。」
ニーナ、俺、美香のそれぞれ3人は彼らに別れを告げ、とりあえず次の町に進むことにした。
次回も、一週間以内にあげたいと思います。頑張ります。