第1話〜晴明の追放と美香の覚醒
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突如起こった謎の光によって包まれたあと、俺の視界は普段見慣れた校舎から場面が一転した。
目の前には今までに見たことのない大きなステンドグラスがあった。真ん中には女神みたいにまつられている存在(たぶん女神だろう)が天使たちに囲まれていた。それが、天からの光によって虹色に輝いていた。
そして、その光が照らしているのは俺だった。正確には俺達だが、この時はまだ自分が生きているかどうかを考えるだけで精一杯だった。
「おい、晴明。大丈夫か。」
状況があまり飲み込めないなか、右隣から男の声が聞こえてくる。振り向いて見ると、余裕そうな顔をした諒太がいた。その傍らに拓斗もいる。
どうやら、生きている?ようだ。
ようやく状況が読み込めてきた。周りを見渡してみると、困惑している者、怯えている者、発狂間近の者達がいた。
かくゆう俺は、案外冷静だった。訳の分からないことに巻き込まれていながらも冷静になれているのは、俺がこの状況を少なからず楽しんでいるからだろう。
「ああ、俺は大丈夫だ。お前達も大丈夫か?」
「俺は心配ねえけど、拓斗がちょっとな。」
「大丈夫だ。気にしないでくれ。少し気持ち悪いくらいだ。」
「あんまり無理すんなよ。やばいとき言えよ。」
拓斗は、ゆっくりとうなずく。結構厳しそうだ。
「それで、ここはどこなんだ。」
「さあな。でも、説明してくれるだろう。」
そう言って、諒太は正面を向いた。そこは、俺達より高い壇上だった。その中央には玉座があったが、空席だった。本来いるはずの人間がいない。
ならば、誰を見ていたんだと諒太に聞こうとすると、玉座の左隣にあった影が動いた。
その影は、ゆっくりと俺たちの目の前まで歩いてくると、しゃべりだした。
「ようこそお越しくださいました、勇者様方。私はプロメタリア王国の大臣、シュベルクと申します。私は、皆様方が抱いている疑問の答えを知っています。どうか私の話を聞いていただけますかな。」
シュベルクと名乗った老人は、白髪で髭を生やしている。穏やかそうな顔の奥には、野心めいたものがうっすらと見えた。
俺達は状況が分からないと話が進まないので、素直にシュベルクの話を聞くことにした。
ーーーーーーーーーー
話は30分ほどで終わった。
まず、知ったことだがここは俺達のいた世界とは違う世界らしい。つまり、異世界だ。まあ、何となく感じていたけど。
そしてなぜ、その異世界に俺達が呼ばれたかだ。ことの起こりは3か月前。突然王が病に伏せってしまったそうだ。それに続いて心労を悪くした王妃、王女までもが倒れてしまったそうだ。
その影響で景気が悪くなり、軍事力までもが下がってしまった。それに続いて、敵国である魔族のミスラント国がこちらの国に大規模な侵攻作戦を展開しようとしているとの噂が上がりはじめた。
このままでは、プロメタリア王国が滅んでしまうと考えた大臣以下達は、女神にすがることにしたそうだ。女神の名は'ラングイド'。人間を気にかけ、人間に懇願されると1億分の1の確率でその姿を謁見できるという。神は、他にも存在するらしいが謁見できるのは、ラングイド様だけらしい。
シュベルク以下達は、毎日のように女神に祈っていたそうだ。そして、ついに3時間ほど前にその姿を謁見できたという。そして、魔族に対抗できる俺達を召喚してもらったとのことだ。
その話だけで衝撃的だったが、さらに衝撃的な事実を聞かされた。
どうやら、俺達は元の世界に帰れないらしい。一度召喚した人間は神でも二度と召喚できないそうだ。なので、俺達に元いた世界に帰る術はない。
勿論この事実に黙っていられるはずはない。美香以下達が中心となって、シュベルク達に抗議し始めた。
そこで、ことの収束をはかるためシュベルクはあらかじめ用意していた解決策を出してきた。それは、魔族を倒してもらった後も、この世界で一生遊んで暮らせるように、プロメタリア王国が援助するというものだ。
それを、聞いた彼らは目の色を変えた。そう、一生遊んで暮らせるという点だ。正直、将来の道を迷っている者達がほとんどだ。なので、魔族を倒せば、一生安泰はなかなか良い話だった。
そこで、ふと思い出す。俺達って強いの?どうやって戦うの?
その疑問も、シュベルクが解決してくれた。俺達勇者達は、通常の人間より、高い『ステータス』を持っているので心配ないそうだ。それに加え、一人一人特別な固有スキルを持っていて、勇者達には無限に物をしまえる「アイテムボックス」が備わっているそうだ。
俺達の力は、この世界に来たと同時に目覚めるそうなので、もう一人一人が即戦力だ。だが、経験が足りないので一人立ちできるまでは、王国が面倒を見てくれるらしい。一人立ちしたあとも、一応プロメタリア王国の勇者という事で、ある程度の支援はされるらしい。
そんなこんなで、今は個々が自分のステータスを、確認しているとこだ。ステータスは自分のだけは見えるようになっている。見えるといっても、頭のなかに直接伝わってくるのだが。
一通りの戦力の把握がしたいそうなので、シュベルクは俺達勇者にステータスを紙に記入されてくれと言ってきた。なぜそんなことをする必要があるのかというと、一人一人能力にあった仕事についてもらいたいからだという。
ちなみに俺のステータスはこんな感じだ。
三条晴明
・力200
・速さ200
・魔力200
・防御200
〈固有スキル〉
劣化
・触れた物を劣化させる(最大1日)
〈スキル〉
スティール(+1)
・相手から最大一つ盗むことができる
・何がとれるかはランダム
厄災運
・最大級の悪いことしかおきない
双剣術
正直どうなんだろう。双剣術とかはなんかかっこいいけど、厄災運とかマジで要らない。これ下手したら、相当やばいでしょ。固有スキルも触れた物を劣化させる〈劣化〉の能力って、どこに使い道があるんだよ。力とかも全部同じぐらいだし、俺って強いの?
俺は、少し不安な気持ちを抱きながら、自分のステータスを紙に写していく。この世界には、『魔法』というものがあるので『魔道具』なんかが存在する。この紙は、手をかざすと書きたいことを勝手に記入してくれるらしい。すげー便利だ。
俺は、紙に自分のステータスを書き終えた・・・いきなり肩を掴まれた。何事かと後ろを振り返ると、そこにはまるでゴミを見るかのような目付きをしたシュベルクがいた。
「晴明くん、だったかの?君にはこの国から出ていってもらいたい。」
「え?」
「そなたは、スキルに厄災運を持っている。過去にこのスキルを保持していた者は、周りに厄災級の災害をもたらし、行方不明になったという。つまり、晴明くん。君は最大のお荷物なのだよ。いくら、勇者様だといっても、災害運の持ち主を我が国に置いていくことは出来ない。」
突然の出ていけ宣言に頭のなかが真っ白になった。
え?え?なにこれ。嘘だろ。ヤバそうなスキルだと思っていたら、追い出されるまでとは。俺これから、どうすればいいんだ。
「なんだ、なんだ」
「なに?」
こちらの騒ぎを聞き付けて、何人が俺達の近くに来た。
「皆様方、聞いてくだされ。この者は、皆様に厄災をもたらす厄災運の持ち主でございます。この者がいるだけで、周りが不幸になります。そんな者は、置いて置けないのでこの国から追放することにします。」
「おい、ちょっと待てよ。そりゃ、おかしいだろ。」
「そうだよ、なんで晴明が追放されなくちゃいけないんだ。」
諒太と拓斗が俺が追放されてしまうのを、止めに来てくれた。俺はいい友達を持ったな。
「いいぞ、そんなやつは追放しろ。」
「てめーはお呼びじゃねえんだよ。ゴミ明ー。」
反対に、俺の追放を支援する者達が出て来た。勿論、須藤達だ。
「それに、そなたはステータスが低い。普通の人間でも、300以上はあるというのに。これも、厄災運のせいなのじゃろ。」
真っ白になっていた頭がだんだんと正気に戻ってくる。
そこで、ふと考える。
逆に考えればこれは好機かもしれないと。誰かに縛られて楽しむより、自由に楽しんだ方が断然いい。今の俺はとても退屈ではないが、より楽しい方が長続きする。
それに美香達には、迷惑はかけられない。こっちに来てから、ドタバタしてまだ顔も見れていないけど、逆に今見ない方が悲しくならなくてすむ。
「衛兵っ!その者を連れていけ。国の外に置いてくるんだ。」
衛兵が俺を両脇から押さえ込み、そのまま引っ張っていく。
「やめろっ、晴明を連れていくんじゃねえ。」
「勇者様、あなたもこの国を追放されたいのですか?黙っていてくだされ。」
「でもよ、そんなのっーーー『いいんだ、諒太。』。」
俺は、諒太の声を遮って発した。
「いいんだよ、諒太。俺が悪いんだ。こんなスキルを持っちまった俺がな。だから、気にしないでくれ。それに、他の友達が心配だ。気遣ってやってくれ。」
「でも、でもよ晴明っーーー『俺は死なない。心配すんな。」
諒太は黙ってしまった。そのまま、したをむく。
皆に、迷惑はかけられない。だから、ゆるしてくれ。
俺は、衛兵にこの場から連れ出されーーーー俺はそこで、見てしまった。目を合わせてしまった。まるで、天使のような顔立ちをしている少女と。
ーーーーそう、妹の美香だった。
「まって、お兄ちゃん。行かないで。」
美香が叫ぶ。そして、そのまま俺に寄り添ってきた。
そこで全員が気づいた。美香が俺のことを『お兄ちゃん』と呼んでいることに。
驚愕をあらわにする。彼らには分からなかった。あの、兄を世界で一番嫌っているような少女がなぜあのような呼び方をしているのか。
勿論それに、黙っていられず即座に反応するやつがいた。
「どういうことだ、ゴミ明。なんで、美香がてめーのことをそんなふうに呼んでいる。お前がなんかしたからなのか。だから美香が意味不明な言動を。許さねえ。」
え?なにそれ。俺が悪いの。笑えねー。
この状況で呑気なことを考えていると、まがまがしいオーラが傍らから伝わってきた。
ん?これは・・・やばいっ!
そのオーラは美香が発するものだった。顔が笑っていない。
美香がとても怒っている!
俺は、美香が何か爆弾発言をする前に美香に小声で一言入れた。
「大丈夫だ、美香。お兄ちゃんは、死なないから。とりあえず、近くの町にでも行ってみることにするよ。安心しろ。」
そう言って、慰めてやると美香は自然と落ち着いた。顔もだんだんと普通に戻っていく。
「やだよ離れたくない。」
「美香、たまにはお兄ちゃんの言うことも聞いてくれ。俺は美香が心配なんだ。またな、美香。愛してるよ。」
そう言って、俺は美香を突き飛ばす。
「近寄るな、お前みたいなやつの顔なんか見たくもない。」
俺は、それだけ言い残してその場を衛兵と一緒に去っていった。
「俺達はどうすれば・・・・」
「止められなかった。一言も・・・・」
友達が追放されてしまうのを見ているだけしか出来なかった諒太と拓斗はその場で後悔した。
「大丈夫?美香。立てる?」
「美香、大丈夫か?」
「美香、大丈夫ですか?」
楓、南瀬、真奈は美香の近くに寄っていき、心配の声をかけた。
美香は、憔悴しきっていた。兄を救えなかったこと、芝居をかけさせてしまったことを後悔していた。
そんな美香を見た三人は、それ以上何も言えないでいた。
「さあ、いけっ。」
衛兵は、俺を門の外まで追いやると、そのまま一瞥もしないで帰っていった。
「さあて、とりあえず美香に言ったように近くの町に行ってみますか。」
明日の俺は生きているだろうか。不安でしょうがない。
それよりも、今後の、美香のことが心配だ。
俺は、最後の心残りを胸の中にしまいこみ、前に進み出した。
ーーーその日の夜ーーー
「お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。待っててね。すぐに行くから。」
狂気に満ちた表情で、兄を連呼する少女。三条美香はその日、兄を追いかけるため一人で、王国を抜け出すのであった。その姿は、ただ兄のことを愛し、兄のために尽くす『ヤンデレ』へと覚醒した。
翌日、美香がいないことに気づいた王国、勇者達はすべての罪を三条晴明になすりつけることで、ことの収束を得た。そしてよりいっそう、須藤達は晴明への嫌悪感を高めた。
次は、一週間以内になんとか書きます。