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第12話〜モヤイ報復作戦 怒り

超久しぶりの投稿になりました。

3週間以上空いてしまいました。本当にすみません。

それでは、本編へどうぞ。

シンプルな造りの癖、異様にただッ広いのだけが取り柄の屋敷のエントランス部分。普段なら、数人程度の使用人達が掃除や洗濯等で行き交っているその場所は、異様な雰囲気に包まれていた。


見渡す限りの『警備ゴーレム』。薄灰色を基調とした一見只のモニュメントにしか見えないそれらは、目を赤く光らせ、侵入者を警戒していた。そのバリエーションも至ってシンプルでライオン型の一種のみである。


ある一定のパターンで屋敷内の全てを徘徊しているそれらは、一見機械的な対応しかしないと期待させるのだが、本来『ゴーレム』という物は魔物に近い魔道具であるので、自分で考えて行動する厄介な機械だ。


それに加えそれらの爪部分には、相手を気絶させ、体の自由を奪うほどの威力を持った毒が塗られている。女性の場合は気絶させるまでだが、男性の場合は致死量を投与し、絶対に殺すことも命令として与えられていた。


まさに、侵入者にとっては絶体絶命の状況であった。


「1秒で片付ける。」


俺はこの危機的状況を無視し、そう発言した。


──直後、周りの時間が止まった。故に俺は『加速』していた。


灰色のライオン。彼らはゴーレム。人間が魔物を造ろうとして失敗して出来た結果の魔道具。人間はこれらを操ろうとして失敗し、自爆装置だけが体の何処かに残った。


つまりは、それを破壊すれば一発で殺せるということである。


俺は加速した時の中を駆け、一つずつそれを破壊していく。


「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」


時間が止まっているが故に、崩れる音もしない。ましてや、すでに自分が無意味で無価値の石くずになっていることすら、感じることも出来ない。


これでは、どちらが絶体絶命の状況か分からないほどであった。


そして、俺の時間で約2分後、魔力が底を尽きると同時に屋敷内の全てのゴーレムを倒しきることが出来た。


「タイミング・・・ギリギリだったな。」


「大丈夫ですか?」


俺の側に寄ってきてそう尋ねるのは奴隷の女性達の中の1人、アンナと呼ばれる女性だった。彼女は、彼女達の中のまとめ役みたいな人で普通の人なら知らないようなことも知っている、博識な女性である。


「ああ、魔力が切れて少しだるいけど・・・しばらくたてば治る。だけど、問題がある。」


魔力が切れた。ということは『加速』がもう使えないということである。元々、能力の低かった俺では常に魔力の節約が必要だったのだが、以外にもゴーレムの数が多く、節約してもギリギリなってしまったのだ。


「では、今起こった奇跡のような出来事はもう出来ないのですか?」


「ああ、すまない。でも、一応戦えるから安心していいよ。」


はっきり言って、俺はそこまで戦闘能力は高くない。経験年数もまだまだだし、悪運も持ってる。美香とニーナとほとんど変わらないこのステータスは頼りないことこの上ない。


だが、アンナやその後ろにいる彼女達のことを助けると言ったからには最後まで男を貫き通すつもりだ。大所帯の俺達はその分、敵に見つかる可能性が高いだろう。しかし、それを乗り越えてこそ本当の責任感が芽生えてくると俺は思っている。


「それでは、私達は冒険者様を信じて後ろで大人しくしています。」


そう言ったアンナは俺に軽くお辞儀をすると、後ろで待機していた他の子達に今の状況を伝えに行ってくれた。ほんと気がきくよ。


「さて、加速が使えないとなると、後は美香とニーナ頼みなんだけどな・・・・って、ええ?」


その時まさに、俺が美香とニーナのことをあてにした瞬間だった。1階のエントランス部分、正面入口に堂々といた俺達はこの屋敷の使用人達と鉢合わせしてしまったのだった。


しかし、驚くべきところはそこではなかった。使用人達の数は計5人。1人は白い髭を生やしたいかにもセバス的な人で団体の先頭を歩いていた。そして、その他4人は前後ろで二人一組ずつ、人間の体を運んでいた。


その人間の顔には見覚えがあった。その天使のような顔立ちと少し大人びた可愛い顔立ち。黒髪でショート、茶髪でセミロング。綺麗なその髪も戦闘で薄汚れている。体には、所々服が破れた箇所があり、血で赤く滲んでいた。


両手には拘束具なるものが付けられており、鍵穴があることからして魔道具の一種であると判断した。肩の関節も外れている。これは起きても、激痛で動けなくするためだと思われる。


うん。美香とニーナだ。


───そう思った瞬間、誰もが背筋を凍らせられる感覚を覚えた。


「くっ、お、おい!貴様、その奴隷共をどうした。下民の不法侵入と盗みは、死罪にあたいするぞ。こやつを捕らえよ!」


「・・・・」


「な、何をしておる!ゴーレム共はようせぬか!」


「あの・・ハセンさん。」


「なんだ?」


「この周りに転がっているのって、ゴーレムですよね」


「何をバカなことを・・・は?」


彼等はミスを侵した。


1つ。屋敷の大半の警備を『ゴーレム』に任せたこと。『加速』の使える晴明の前では全てが無意味であった。


1つ。美香とニーナをいたぶり、拘束したこと。晴明を怒らせるには、十分な理由であった。


「おい、お前ら。」


「な、なんだ貴様。モヤイ様に逆らったら、どうなるか分かっているんだろうな?」


「・・・・・」


「ふん、怖じ気づいたか。勇気の欠片もない男だ。こやつら二人もどうせ貴様の仲間であろう。ならば、こいつらがこの後、どうなるか知りたいであろう。」


「・・・・・」


「ふははは、絶望の表情が見えるぞ。いいだろう、貴様には特別に教えてやる。こいつらはな、モヤイ様の奴隷となり、辱しめられ、弄ばれた挙げ句、魔物の餌となるのだ。どうだ、良いシナリオだろう。まあ、運が良ければうちの下っ端共が死ぬまで使ってくれると思うがな。」


「・・・・・」


「ふん。声も出ないほどであるか。ならば、大人しく死んで貰おう。」


ハセンが懐から拷問用のナイフを取り出す。そして、晴明の喉元に刃先をかけた瞬間だった。


「死ぬのは、お前達だ。」


死神の声が聞こえた。


────俺は己の限界を突破した。視界がだんだんとゆっくりとなる。普段とは違う感覚。今にも、血ヘドが出そうだ。重い。体がだるい。思考が単調だ。本能が言っている。


『こいつらを許すな』


俺はスローモーションとなって動くこの世界でさらに『加速』した。時間の感覚がいつもよりも遅い。だるい。だるい。ああ、だけど。やらなくては。


「ぐはぁっっああああぇ───」


無意識。時にそれは恐ろしいものである。ましてや、人に危害を加える行為などもっての他だ。


「ぎゃああああっっぁえええぁ───」

「あっ────────────」

「へあっぁぁぁぁ─────────」

「ごぁぐぁぁぇぇ─────」


だが時に、どんなに善良なる人間でも侵してしまうときがある。愛する人、尊敬する人を奪われそうになったとき、それは訪れるであろう。


『怒り』


気づいた時には、走り出していた。敵である5人の正面にそれぞれ回り、手刀を縦に降り下ろす。全てを怒りに任せ、身体の制限を解除。腕が壊れそうな痛みに襲われようとも、構わず降り下ろしていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・」


肩で息をしても、だるいこの現状。両手には、血糊がべっとりとこびりついている。


「あぁ・・」


そして、そのまま俺は体全体に力が入らなくなり、床に腰をどすんと下ろした。


「大丈夫ですかっ?」


アンナが慌てた様子で近くに寄ってきて、肩を抱き抱えた。


「ああ、ちょっと疲れただけ・・・そいつらの腕は斬ったから・・・もう、何も出来ないはず。いまの・・・内に鍵を探して、二人を・・・解放してくれ・・・」


「分かりましたから、もうこれ以上喋らないで下さい。お願いします。」


俺の体はもう既にぼろぼろだった。己の限界を突破したんだ当然の結果だろう。全身の筋肉が痛い。至るところから、血が溢れている。


「安心して下さい。すぐによくなります。皆、手伝って。鍵を探して。そこのお姉さん二人を解放して上げて。」


俺死ぬのか?こんなところで死ぬのか?こんなにあっけなく。面白くない。


「まだまだ、甘ちゃんだったな。俺達。」


「何を言っているんですか?アホなんですか?傷治しますよ。」


「ああ、よろしく頼むよ────え?」


俺の間延びした声だけが響いた。


「私、奴隷ですけど、治療魔法が使えるんです。こっそり、皆の傷を治すために練習していたんです。」


「ああ、そうなの。じゃあ、ヨロシクタノンマス。」


こうして、俺の死亡フラグはあっさりと折られた。



──────

アンナの治療魔法を受けた俺は、直ぐ様体の調子が良くなった。全身の出血は止まり、バウンダーウルフ戦で受けた傷も元通り無くなってしまった。やはり、本場の治療魔法には時間を進めるだけの自己再生は敵わないということであろう。


「お兄ちゃん!」

「晴明くん!」


俺の胸に思いっきり、飛び付く二人。美香とニーナは、女性達が見つけてくれた鍵で拘束具を解いた後、即効で起きた。アンナ曰く、拘束具には束縛者の状態を維持出来る効果があるとのこと。まあ、何はともあれ無事でよかった。


「待たせて、済まなかったな。」


「ううん、平気。元々は私のミスが招いたことだから。」


「私も、単純すぎた。」


しょんぼりと反省する二人。そんな顔も至近距離で見ると、なかなかに可愛いものであった。うんうん、今日も最高である。


「で、私達はどうすれば良いでしょうか?」


ふんわりとした時間に水を指すように現れた一声。その声の主であるアンナは、俺の頭上から薄青い長い髪を垂らしながら、顔を覗かせてきた。彼女の頬はどこか、赤くなっているのだが気のせいだろうか。


「で、私達はどうすれば良いでしょうか?」


再び同じ事を尋ねてくるアンナ。しかしその声には、前の時と違って若干棘があり、顔もどこかむすっとしていた。


「ああ、ごめんよ、いま──「お兄ちゃん、待って。」


ん???????


来た。来た。来た。来た。来た。来た。来てしまった。


その瞬間、再び屋敷に悪魔が舞い降りてしまった。

間がかなり空いてしまったので、次話はなるべく早くあげることにします。

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