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第11話〜モヤイ報復作戦 救出と捕縛

どうやら、自分にはパソコン打ちは向いてなかったようです。

間違えまくりで大変でした。

という事で、第11話へどうぞ。

「お兄ちゃんに失望される・・・お兄ちゃんに見放される・・・お兄ちゃんに・・・お兄ちゃんに・・・」


固有スキル『愛の形』によってステータス値が通常時の約三倍まで上昇した美香は、暗黒のオーラを纏い、その身を狂戦士へと変えた。その見た目はまるで世界の終焉を伝えにきた死神、あるいは大悪魔であろうか。強大なる雰囲気が彼女からは漂ってくる。


「ああああ、あっ、悪魔だ!」

「終わりだ。もう、だめだ。」

「奴に、終焉は訪れるのであろうか。」


そんな彼女の存在感に圧倒されたのか、戦闘員ではないモヤイ家の使用人たちが次々と膝を地面に崩し始めた。彼らの中には、あまりの恐怖に髪が白髪に変わってしまった者もいる。それほどに彼女の威圧感は尋常ではなかった。


「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。」


だが美香はこの時、ただ単に兄に幻滅されることだけを恐れていた。自分の浅はかさ故、結果兄に負担をかけてしまった。その事実だけが脳裏を無限ループのようにぐるぐると回る。今はそれだけしか考えられない。例え、自分が悩むことでどれだけ周りに影響を与えていようと、そんなことは知ったことではない。なぜなら、全ては兄の為を想ってしていることなのだから。


「そうだ。お兄ちゃんの為に、敵を全員殺せばいいんだよ。そうすれば、お兄ちゃんに褒めて貰える。そうすれば、お兄ちゃんに幻滅されない。そうすれば、名誉挽回出来るよね。」


ここで美香は今までで最も残忍な問題の解決方法を導き出してしまった。それは失敗を上回る成功で上から塗りつぶしてしまうというものだ。発見されたことは失敗だ。ならば、成功は?必然的に答えは出てくる。つまり、厄介ごとを全て処理して目標の息の根を止めることが、失敗を上回る成功だ。


だが当然、モヤイの息の根を止めることが今回の目的ではない。あくまでの操り人形にするだけなのだが、もはやすでに彼女の知能指数は狂戦士と化した時点で低下していたので、正しい判断ができなくなっていた。


「さぁ、始めましょー。全てはお兄ちゃんの為に。全ては愛の為に。」


そう言った美香は顔を不適に歪めると、首をぐりっと非戦闘員達に向け、まず真っ先に彼らを惨殺し始めた。


「うあぁ、来るな。うあぁぁぁぁぁ」

「うあぁぁぁぁぁぁ、がぁぁぁぁぁ」

「いやぁぁぁぁ、やめ、あぁぁぁぁ」


彼ら、使用人たちは恐怖する。目の前にやってくる確かな死の鎌の音を。次々と、周りの人間がやられていく中、ただ死を待っていることだけしか出来ない自分を。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。頭の中はその2文字でいっぱい。次は自分の番。次は自分の番。次は自分の番。次は自分の番。本能的に感じ取ることが出来た。


「あぁぁぁぁぁぁ、うううぁぁぁぁ」


仲間がまた一人。


「がぁぁぁぁあ、ぁぁぁぁぁぁぁう」


仲間がまた一人。


「ううううぁぁぁい、おわ、えぁぁ」


仲間がまた一人と、確実に彼らの精神を少しずつおかしくしていった。



そして、惨殺が始まってから、約1分後。美香の背後には、10人ほどの非戦闘員達が無残に横たわる形となった。皆一様に絶望的な表情で、その瞬間を迎えている。見るにたえない光景だ。


だがここで、美香の蹂躙劇は終わらなかった。なぜなら、彼女の目の前にはまだ『石像ライオン』達が存在しているからだ。そいつらは、完全に体が動くまでに時間がかかっていた。だが、ちょうど正常に戻ったらしい。ライオンの1匹が高らかに吠える真似をすると、他の物達もそれに応え、一斉に侵入者である美香めがけて殺しにかかってきた。


「・・・・・・・・・・・・(グァオォォォォォォォォウ)」


ライオンの一匹が、美香の側方からその大きな爪で攻撃を仕掛けてくる。そのスピードは、まず常人では避けられないレベルだろう。だが彼女はすかさず後ろにワンステップ紙一重で避けると、体の軸を右にねじりこみ、右手に〈闇魔法〉を乗せ、おもいっきりライオンの腹のあたりにコークスクリューをぶち込んだ。


ドンッッッッッッッッッッ!!!!!!!


ライオンの体に重く響く衝撃が走る。だが、思いのほか硬かったその材質のせいで、浅い亀裂が入っただけであった。


「ちっ。」


美香は一瞬だけ苦虫を噛んだような顔になり、知恵のあまり働かない頭を切り替えて次のモーションに入ろうとした──刹那、下を向いていて、尚且つ辺りが暗く、影の動きが見えていなかった美香は、またもや失態を犯してしまった。


「あがぁぁぁあんっ?!」


美香がここで初めて、苦渋の声を漏らす。そして、そのまま地面に倒れてしまった。


「なにが、おこって・・・」


美香の見上げる先。そこには、11体の石像のライオン達の姿。彼らは皆、前足に血を滴らせていた。


「うそ・・こんな奴らに私が?だめだよ、これじゃお兄ちゃんに失望されちゃう。たたなきゃ・・・」


美香は再び闘うため起き上がろうとした。だが、両手、両足に力が一切入らなかった。どれだけ、込めてもびくともしない。まるで、石になってしまったみたいだ。


「魔力切れ?でも、はや・ずきる・・・・・あれ?体が重くて、意識が・・・」


そこで唐突に、いつもの魔力切れの時とは違う感覚に襲われた。なにか、もっと非魔法的な何かやられたような。薬?毒?そんな感じがした。


「う、あああ。おにい。ごめ・・・・・」


そして、そのまま美香は完全に意識を失ってしまった。



─────

「『加速』解除」


俺がそう唱えると、止まっていた回りの時間がゆっくりと元に戻り始めた。それと同時に、今まででも充分きつかった悪臭がより濃くなって、鼻に伝わるようになってしまった。


「だれ?」


檻の中の一人がか細い声で俺に尋ねてくる。そんな彼女は、白い布切れ一枚を身にまとっているだけであった。


「私は、只の通りすがりの冒険者ですよ。訳あって、皆さんを助けに来ました。もう、安心してください。」


俺は相手になるべく警戒されないように、丁寧口調で喋った。こういう境遇の人たちは、中々心を開いてくれない。なのでせめて、自分に害がないことを相手に伝えなくてはならない。


「助かるの?」


檻の比較的手前にいる別の女性が口を開いた。彼女もまた白い布切れ一枚を身にまとっていて、身体中に殴られたアザが見られた。


「助けなんてくるはずがない。」


すると、今度はまた別の女性が口を開いた。檻の奥の方にいる彼女は、顔も含めた全身が赤く晴れ上がっている。その姿は、やはりむごたらしい。


「なんで、そんなことをいうんだい?」


俺はその子に尋ねた。すると、彼女はゆっくりと顔を上げ、喚くように答えを返してきた。


「あたしらには、一生自由はないんだ。奴隷になったが最後、死ぬまで辱しめられる。もし、助けられたとしても、結果的にまた売られていく。この印がある限り、あたし達は自由にはなれないんだよっ!」


必死の形相で訴えてくる彼女の気迫に俺はびくともしなかったが、その回りでうっすらと期待の目を見せていた小さい子供達が、一瞬にして肩を落としてしまった。


「心配しないで下さい。俺が助け──「誰だっ!」」


俺が彼女達を落ち着かせようとしたその時だった。突然、後方のから野太い男の声が聞こえてきた。その人物は、ここの見張り役か何かだろうか。檻の中の女性達はその声に反応して怯えてうずくまってしまった。


「あ?てめぇ誰だ、こらぁ?盗賊か?上の連中の仲間か?」


その男の顔は、いかにもって感じの悪そうな顔だった。右手に鉄パイプのようなものを持っていて、先端の方には血がうっすらとこびりついている。


「いえ、俺は只の通りすがりの冒険者ですよ。」


俺はそう言って一瞬ニコッと笑い、『加速』を発動し、相手の背後に回り込んだ。そして腰に掛けてある牢屋の鍵を取ってから、『フリーズ』を使い、全身を凍らせたところで、『加速』を解除した。


「え?」


牢屋室に女性達の間延びした声が響き渡る。


「なにが、起こったの?」

「今、一瞬で後ろにって、あれ?」

「あなた、なにもの?。」


彼女らには、今起こった現象がとても信じられなかった。謎の少年が一瞬で監守の背後に回り、氷付けにするという神業。その場にいる誰もが、彼は「只の通りすがりの冒険者」なんかじゃないことを確信した。


「ははは、だから、只の通りすがりの冒険者ですって」


『ぜってー、ちげーよ』×6


ノリのいい彼女らのツッコミが入る。


「とまあ、俺は皆さんを助けに来ただけですから。そこは、安心してください。」


俺は氷付けにした男の脇を通り抜け、牢屋の錠前にさっきとった鍵をはめる。すると案の定錠前ははずれ、扉が軽く開いた。そして、俺は最初に口を開いてくれた女性の前に手をさしのべる。


「俺はあなた達を自由にすることが出来ます。もちろん、信じられなければそれでも構いません。ですが、いつまでもこんなとこであなた達はうじうじとしていられますか?外の世界を自由に見て回りたくはないですか?どうですか?俺に一筋の希望を託してみませんか?」


俺は彼女達にこの時ばかりは営業スマイルを辞め、真剣な眼差しで語りかけた。すると、目の前の女性がまず最初に許諾してくれた。希望があるならあなたの言葉信じると言ってくれた。続いて、別の女性がそれにつられ、どんどん俺のもとへ来てくれた。


「それで、あなたはどうしますか?」


俺はまだ檻の奥の方にいる1人の女性に声をかけた。彼女は俺に意見をぶちこんできた女性だ。きっと、まだ心に残ることがあるのだろう。


「私は、今までさんざんに扱われてきた。身体中ぼろぼろだし、顔も見せられない。こんな私でも外の世界に行くことが許されるの?」


彼女は真剣な眼差しで俺に尋ねてくる。その声は今にも切れそうで、生まれたての赤子みたいだった。俺に信用がないのは分かる。でも、人が世界に羽ばたくのに許可なんて要らないはずだ。


「許可なんて必要ない。君が行きたいと思えばいつだって、行っていいんだ。」


そういった瞬間、彼女の目がかっと開いた。まるで何かに突き動かされたみたいに唐突に。そして、目から涙を流し始めてしまった。


「今まで辛かったろう。でも、大丈夫。俺が信じられないかもしれないけど一つだけ君と約束しよう。」


『君に夢を見せて上げる』


その瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。そして、安心したのか今まで以上に盛大に泣きじゃくりはじめた。俺は優しく包み込むように、彼女の頭を撫でる。


「さあ、行こうか。時間がない。君たちの主様に契約を破棄して貰わないと。」


俺は泣きじゃくる彼女を他の子に任せ、一人で立てない者に肩を貸し、モヤイがいるであろう2階に向かうことにした。



─────

「あれ?戦闘が終わったっぽい?」


モヤイ邸近辺の一番高い木の上にいる援護役のニーナは、物音が一切しなくなったモヤイ邸の方を見て、美香が勝利したのだと思った。


「きっと美香、疲れはてて倒れているだろうから、回収しに行かないと。」


ニーナは美香の勝利を確信していた。あの美香が暴走したら、負けるはずがない。そう彼女の頭には、インプットされている。圧倒的力の差。自分よりも遥かに強い彼女。ニーナはそんな美香のことを尊敬していた。


だからこそ、美香が負けた時のショックは大きいだろう。自分の力の象徴。ライバル。それが、あっけなくやらていたらその本人はどう思うだろうか。


「うそでしょ?」


気を抜いてモヤイ邸宅へ向かったニーナは、その破壊された庭の中心で拘束されている彼女を見た。その側には、何人かの男達がいる。彼らは皆、この屋敷の使用人達のようだ。


「ん?なんだ?お前?」


使用人の1人がこちらにきずいた。そして、一瞬何かを考えた素振りを見せると「やれ」と何かに命令した。すると、道の両端にあったモニュメントのはずのライオン達が一斉に動いて、ニーナに襲いかかった。


「きゃあっ!」


ニーナはそのまま驚いて腰を打ち、ライオンに引っ掛かれたところで意識が一気に重くなった。


「よ・。そいつ・・て行け。」


「へへへ、い・お嬢さん・。」


「味見・・・なよ。そ・・らは、モヤ・様・物だ。」


「は・・い、わかっ・・・って。」


ニーナは彼らの言っていることが上手く聞き取れなかった。


晴明──くん────


そして、そのままニーナは体を拘束され、どこかに運ばれていく途中で完全に意識を失ってしまった。

読んでいただきありがとうございます。

次話は来週の同じ時間に挙げます。

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